【1982年】「3万ドル借りてると言う人を連れてこい」——40年後に名乗り出たNASCARの謎のドライバー

【1982年】「3万ドル借りてると言う人を連れてこい」——40年後に名乗り出たNASCARの謎のドライバー 未解決事件

1982年の春、アメリカで最も人気のあるモータースポーツ、NASCARのトップシリーズの一戦「ウィンストン500」の決勝に、誰も走りを見たことのない男が出場した。名前はL・W・ライト。トップクラスで43戦の経験があり、有名カントリー歌手がスポンサーについている。そんな触れ込みで、企業から約4万ドル、現役ドライバーからはレース用の車を手に入れての出場だった。

ところがレースはわずか13周で終わり、ライトは賞金を受け取ると、車も機材もクルーもサーキットに置き去りにして姿を消した。あとに残ったのは、あちこちで切られた不渡り小切手の山だ。「NASCARのD・B・クーパー」とも呼ばれたこの男の正体は、それから40年間、謎のままだった。

事態が動いたのは2022年。モータースポーツ記者のポッドキャストに本人が現れ、本名は「ラリー・ライト」だと明かしたと報じられた。ただ、その言い分には裏付けのない部分も多く、2024年に本人が亡くなったことで、確かめる手立ても失われた。

※ NASCAR:全米自動車競走協会。市販車に似た外見のレース専用車「ストックカー」で、主に楕円形のコースを周回するレースを統括する米国最大級の団体。

※ ウィンストン500:アラバマ州タラデガで行われていた、NASCARトップシリーズの500マイル(約800km)レース。名前は当時の冠スポンサーだったたばこの銘柄に由来する。

※ D・B・クーパー:1971年に米国で旅客機を乗っ取り、身代金を手にパラシュートで機外へ飛び降りたまま消えた男の通称。正体は分かっていない。

事件の概要

🗓️ 発生:1982年4月(参戦の売り込み)〜5月2日(ウィンストン500決勝)

🌫️ 場所:米国アラバマ州タラデガのサーキット

👤 人物:L・W・ライト。2022年に本人が名乗り出て、本名はラリー・ライト、1949年バージニア州リッチランズ生まれと報じられた

🔍 状況:経歴とスポンサーを偽ってNASCARの決勝に出走し、13周で黒旗。賞金を手に姿を消し、被害は6万ドル超

🕯️ 現状:40年後の2022年、本人がポッドキャストの取材に応じて正体を明かした。2024年1月にナッシュビルで死去したと報じられ、言い分の多くは確かめられないまま

話の始まりは1982年4月。テネシー州ヘンダーソンビル(ナッシュビル近郊)のビジネスマネージャーを名乗るウィリアム・ダナウェイという人物が、ナッシュビルの新聞『テネシアン』に連絡し、有望な若手ドライバーのL・W・ライトが近くウィンストン500に出場すると売り込んだ。触れ込みによれば、ライトは過去10年間にグランドナショナルのレースに43戦出場した経験があり、率いるチーム「ミュージック・シティ・レーシング」にはカントリー歌手のマール・ハガードとT・G・シェパードがスポンサーについているという。

※ グランドナショナル:ここではNASCARの最上位シリーズを指す。

決勝のわずか1週間前、ライトは競技ライセンス代115ドルとエントリー料100ドルをNASCARに支払った。NASCARの現場責任者ドイル・フォード氏らは経歴を疑ったが、「ライセンス代とエントリー料を払い、規則を満たす車を持つドライバーの出場を、NASCARが法的に拒むことはできない」とフォード氏が説明するとおり、止める手立てはなかった。

判明している事実

スポンサーも経歴も、確かめると裏付けがなかった
タラデガに着いて間もなく、ライトの話はほころび始める。スポンサーとされたハガードとシェパードは、どちらも「ライトには会ったこともない」とし、スポンサー契約を否定した。グランドナショナルで彼と一緒に走った記憶のあるドライバーも、一人もいなかった。問い詰められたライトは「スポンサーの発表は先走りだったが、カントリー歌手との話はいくつも進んでいる」と弁明し、経歴も「グランドナショナルではなく、同じサーキットで行われる格下のクラスのレースに出ていた」と訂正した。

※ タラデガ:アラバマ州の町。1周約4.3kmの巨大なオーバルコースがあり、NASCARでも屈指の高速コースとして知られる。

資金も車も、他人の財布から出ていた
ライトはナッシュビルのマーケティング会社「スペース・エイジ・マーケティング」の代表バーニー・テレル氏を口説いてチームのスポンサーにつけ、輸送用の大型トレーラー、車の購入資金3万ドル、その他の経費7,500ドルを引き出した。車を売ったのは、のちにデイトナ500を2度制することになるNASCARドライバーのスターリング・マーリン氏だ。ライトは1981年式シボレー・モンテカルロを2万700ドルで買い、1万7,000ドルを現金で、残りを小切手で払った。羽振りのよすぎる新顔を怪しんだマーリン氏は、ライトについてタラデガまで行き、クルーチーフを務めることにしたという。

※ クルーチーフ:レースチームで車のセッティングやピット作業を取り仕切る現場責任者。

予選で壁に激突しても決勝へ、13周で黒旗を受けて消えた
マーリン氏はのちに「ドライバーなら当然知っているはずのことを、あいつはずっと聞いてきた」と振り返っている。ライトは予選の2周目にスピンして壁に激突したが、車はすぐに修理され、36番手スタートで決勝に進んだ。ESPNで全米に中継された決勝では、序盤の事故による徐行を挟み、13周を走ったところで黒旗を受けた。エンジントラブルだったのか、遅すぎて失格になったのかは資料によって食い違う。最下位ではなかったため1,545ドルの賞金が出ると、ライトはそれを受け取り、車も機材もクルーも置き去りにして大型トレーラーで走り去った。

※ 黒旗:特定の車にピットへ入るよう命じる旗。危険なほど遅い、車に不具合があるといった場合に出され、従わなければ失格になる。

不渡り小切手が次々に戻り、被害は6万ドル超に
マーリン氏に渡した小切手は不渡りで戻ってきた。NASCARへのライセンス・パス代約1,500ドル、グッドイヤーへのタイヤ代1,500ドル、ドライバーのトラビス・ティラー氏へのスペアパーツ代1,200ドルなどの小切手も、そろって不渡りだった。さらに、借りていた家の家主から4,500ドル、ユナイテッド・トラッパーズ・マーケティング協会から1万ドルをだまし取り、バージニア州の母親にかけた長距離電話の料金700ドルも払っていなかったと報じられた。被害の合計は当時の金額で6万ドルを超える。テレル氏は「完全な詐欺だった」と話した。NASCAR側の働きかけで逮捕状が出され、テレル氏は私立探偵まで雇ったが成果はなく、1983年ごろにはこの話も世間の関心から消えていった。

40年後の2022年、本人が名乗り出て「ラリー・ライト」と明かした
沈黙が破られたのは2022年だった。モータースポーツ記者リック・ヒューストン氏のポッドキャスト「The Scene Vault Podcast」の取材に本人が応じ、本名はラリー・ライトだと明かしたと報じられた。インタビューは事件から40年の節目にあたる2022年5月2日ごろに公開された。取材はナッシュビル近郊の非公開の場所で行われ、ヒューストン氏は指定された地点から先を案内されたという。本人は証拠として、タラデガで着ていたレーシングスーツを見せ、それは唯一公表されていたレース時の写真と一致したという。報道によれば、ライト氏は1949年にバージニア州リッチランズで生まれ、2024年1月27日にナッシュビルで亡くなった。74歳、死因は大腸がんだったとされる。

主な仮説

報じられたライト氏の言い分は、おおむね次のとおりだ。資金はカントリー歌手のウェイロン・ジェニングス、ジョージ・ジョーンズ、マール・ハガードから出ていたという。マーリン氏にはレース後に払うと言ったまま払わなかったこと、グッドイヤーのタイヤ代やNASCARのライセンス代も払っていないことは認めた。一方、テレル氏への3万ドルの借りについては「俺が3万ドル借りてると言う人がいるなら、連れてこい。会ってやる」と否定した。支払いが滞ったのは、翌週のナッシュビルのレースで予選落ちし、スポンサーが手を引いたからだという。名前の挙がった3人の歌手はいずれも故人で、資金を出したという話に、報じられた範囲では裏付けは示されていない。

仮説1:本人の説明どおり、スポンサーが手を引いて行き詰まった

ライト氏は本気でレーサーとしてやっていくつもりで、歌手たちの資金を後ろ盾に参戦したが、ナッシュビルで予選落ちしたことでスポンサーが離れ、支払いができなくなったという見方。元スレでも次のナッシュビルのレースの記録に名前があると指摘されており、この点は本人の説明と噛み合う。ただ、1982年当時、ハガードは「ライトには会ったこともない」と否定していた。

仮説2:スポンサーの資金を「借金」とは考えていなかった

テレル氏をめぐる食い違いは、認識のずれかもしれない。テレル氏が出したのはスポンサーとしての車の購入資金や経費で、ライト氏にとっては返す義務のある借金ではなかった、という解釈だ。マーリン氏やグッドイヤーへの未払いはあっさり認めながら、この件だけを強く否定した理由にもなる。ただしテレル氏自身は当時「完全な詐欺だった」と語っており、少なくとも出した側にそのつもりはなかった。

仮説3:言い分は後づけで、実態は他人の金での持ち逃げだった

40年後の説明は、すでに亡くなっている歌手たちを資金源に挙げており、誰にも確かめようがない。賞金を受け取るとすぐにトレーラーで走り去り、家主や電話会社にまで未払いを残した当時の行動から、最初から返すあてのないまま他人の金で走ったとみる人もいる。ただ、お金だけが目的なら全米に中継されるレースに出る必要はなく、40年後に自分から名乗り出る理由も見当たらない。

仮説4:40年黙っていたのは、ほとぼりが冷めるのを待っていたから

逮捕状まで出た以上、名乗り出れば責任を問われるおそれがあった。長い年月がたち、ようやく自分の口で語れるようになった、という見方だ。一方で、NASCARの公式記録に1戦出場として名前が残るこの一件を、本人は人生の武勇伝として、一度はきちんと語っておきたかったのかもしれない。

海外の反応

以下は、本人が名乗り出る前の2021年に元スレへ寄せられた反応。当時はまだ、正体も行方も分かっていなかった。

1. 謎の名無しさん
「NASCARのD・B・クーパー」って呼び名だけで笑ってしまった。暴力も死人も出てこない未解決事件って、このサブではかなり貴重だと思う。

2. 謎の名無しさん
素朴な疑問なんだけど、NASCARって特別なライセンスがなくても出られるものなの? いきなりトップシリーズの決勝なんて、今の感覚だと信じられない。

3. 謎の名無しさん(>>2への返信)
ライセンスはNASCARが自分で発行してた。80年代は経歴をでっち上げるのが今よりずっと簡単だったから、申請の中身なんて誰もたいして確かめなかったんだと思う。

4. 謎の名無しさん
母親に700ドル分も長距離電話をかけてたことまで分かってるのに、どうして正体が分からないままなんだろう。電話会社の記録をたどれば、実家くらいすぐ突き止められそうなものだけど。

5. 謎の名無しさん(>>4への返信)
警察が正式に捜査しない限り、電話会社は通話先を明かさなかったはず。それにNASCARとしては、身元も確かめずに決勝を走らせた恥ずかしい話だから、大ごとにしたくなかったんじゃないかな。

6. 謎の名無しさん(>>4への返信)
本文ちゃんと読んだ? 母親だって息子の正体を知らなかったんだよ。「どちら様? 毎晩うちに電話してくるあなたは一体誰なの?」ってね。

7. 謎の名無しさん
家主からも4,500ドルだまし取ってるのに、その家主も本名を知らなかったってこと? 部屋を貸すときに身分証くらい見そうなものだけど。

8. 謎の名無しさん(>>7への返信)
82年なら、偽の身分証で銀行口座を作るくらいは普通にできたと思う。身元ごと最初から作り物だったんじゃないかな。存在しない人間なら、消えるのも簡単だよ。

9. 謎の名無しさん
UPIの記者の「しゃべるのと同じ速さで走れていたら、今ごろチャンピオンだった」って一文、完璧すぎる。この事件が一行に全部詰まってる。

10. 謎の名無しさん
個人的に好きなのは中継の実況。黒旗が出たのに「いや、グランドナショナルでの年数で言えば経験は浅くないはず」とフォローしてる。本人の嘘の経歴を、全米中継でそのまま読み上げてくれてる。

11. 謎の名無しさん
いちばんすごいと思うのは、40台中36番手とはいえ予選を通過してること。平均時速187マイル、つまり時速約300kmで周回してるんだから、まったくの素人に出せる数字じゃない。

12. 謎の名無しさん(>>11への返信)
とはいえタラデガは、たぶんNASCARのコースの中でいちばんテクニックがいらない。アクセルを踏みっぱなしでいけるから、度胸さえあれば何とかなった部分は大きいと思う。

13. 謎の名無しさん
それでも、買ったばかりの車でいきなり予選を通って、決勝で13周走るのは簡単じゃない。上手くはないにしても、どこかで走った経験はあったんだろう。

14. 謎の名無しさん
地方レースで走ってた無名のドライバーが、一生に一度の大舞台に乗り込むために嘘を重ねた、というのが自分の見立て。時速187マイルなんて、プロじゃない人間には十分に命がけの速さだよ。

15. 謎の名無しさん
ニューヨークでも数年おきに、地下鉄が好きすぎて制服を着込み、本当に電車を運転しようとする人が出てくる。ライトも、お金よりとにかくあの場所に立ってみたかった人なんじゃないかな。

16. 謎の名無しさん
賭けだったと思う。1982年のアメリカ南部で、「あんなの簡単そうだな」「お前には無理だね」「言ったな?」ってやりとりがあった。案外それだけの話だと思う。

17. 謎の名無しさん(>>16への返信)
賭けに勝つためだけに6万ドル分の未払いを残すかなあ。仲間内の度胸試しなら、決勝を走った時点で種明かしして、一生ものの武勇伝にしそうなものだけど。

18. 謎の名無しさん
タラデガの数週間後、次のナッシュビルのレースの記録にもライトの名前が出てくるらしい。騒ぎの前に申し込んでいて現れなかっただけだとは思うけど、本気で次も走る気だったなら、ただの持ち逃げとは話が変わってくる。

19. 謎の名無しさん
「堂々としていれば案外バレない」の見本みたいな話。サッカーでも、有名選手のいとこという触れ込みでイングランドのサウサンプトンに入り込み、プレミアリーグの試合に途中出場して、下手すぎてすぐ交代させられた選手がいたよね。

20. 謎の名無しさん
結局、お金はどこに消えたの? スポンサーから預かった分を、小切手が不渡りになる前に持ち逃げしたってことでいいのかな。

21. 謎の名無しさん(>>20への返信)
預かった分の半分くらいは車の代金に消えてる。残りと賞金は手元に置いたんだろうし、大型トレーラーは売ることもできた。トラック業界は身元にそこまでうるさくないから、運転手として紛れ込めたかもしれない。

22. 謎の名無しさん
資金洗浄の隠れ蓑だったって線はないのかな。表に出せないお金を「レースチームの運営費」という名目で回そうとしていた誰かがいて、ライトはその表の顔だったとか。

23. 謎の名無しさん(>>22への返信)
それなら不渡り小切手をばらまく理由がないと思う。資金洗浄は目立たないのが肝心なのに、全米中継に映って、新聞にまで載ってる。やってることが真逆だよ。

24. 謎の名無しさん
そもそも「L・W・ライト」なんて人間は本当にいたのかな。新聞に参戦を売り込んだマネージャーのダナウェイという人物も、その後の話にまったく出てこないのが引っかかる。

25. 謎の名無しさん(>>24への返信)
少なくとも実在はしてるよ。ESPNの中継に車が映ってるし、本人が車の横に立ってる写真も1枚残ってる。フィルム時代に1枚だけ撮って終わりとは思えないから、別カットが出てくれば顔もはっきりするはず。

26. 謎の名無しさん
いちばん気の毒なのはスターリング・マーリンだと思う。怪しいと感じたからこそクルーチーフとしてついて行ったのに、自分が売った車は壁にぶつけられて、最後はサーキットに置き去りにされた。

27. 謎の名無しさん(>>26への返信)
ついて行ったのは、残りの代金を受け取るまで車から目を離したくなかったからじゃないかな。結局その小切手も不渡りだったんだから、読みは当たったのに損はした。いちばん悔しいパターンだよ。

28. 謎の名無しさん
知り合いの女性の家に、昔NASCARのドライバーだったと言い張る男が居候してる。郵便物の宛名も送り先の住所もバラバラで、年齢もだいたい合う。本気で気になってきた。

29. 謎の名無しさん(>>28への返信)
詐欺師の家系で育った知人に聞いたコツを教える。わざと細かいところを間違えてこの話を振って、訂正してくるか見ること。何日かしてまた同じ話をして、前と違う答えが返ってきたら要注意。

30. 謎の名無しさん
別の宇宙では、ライトはあの日そのまま勝って借金を全部返し、デイル・アーンハートと並ぶスターになって、今ごろ伝記映画が公開されてるんだと思う。こっちの宇宙では13周で黒旗だったけど。

未解決の謎

2022年に本人が名乗り出たことで、「L・W・ライトは何者だったのか」という最大の謎には答えが出た。上のコメントは本人が現れる前の2021年のもので、当時は偽名説や、そもそも実在したのかを疑う声まで出ていた。正体はバージニア州出身のラリー・ライトという人物だったと報じられている。当時の記録にあった「バージニア州の母親への長距離電話」とも矛盾しない。

それでも、本人が語ったことで解けなかった謎は多い。3人のカントリー歌手は本当に資金を出していたのか。1982年にスポンサーを否定したハガードの名前が、なぜ40年後の言い分にまた出てくるのか。テレル氏が出した約4万ドルは何に使われ、どこへ消えたのか。ナッシュビルで予選落ちしたという話と、タラデガで車を置き去りにして消えたという当時の報道は、どうつながるのか。そして、なぜ全米に中継されるほど目立つ舞台を選んだのか。

答えを確かめる手段は、ほとんど残っていない。資金源として名前を挙げられた歌手たちはすでに亡くなっており、ライト氏本人も2024年1月、74歳で世を去ったと報じられた。NASCARの公式記録には、1982年のウィンストン500に1戦出場したドライバーとして、L・W・ライトの名前が残っている。40年の沈黙を破った男の言い分は、確かめようのないまま、その記録の横に並ぶことになった。

出典:r/UnresolvedMysteries 元スレ英語版ウィキペディア

Comments