2023年5月12日の夕方、カナダ・トロントのノースヨーク※にある交差点で、ひとりの男性が最後に目撃された。ネイサン・ワイズさん、当時37歳。財布も携帯電話も持たず、手元にあったのは20ドルの現金だけだったとされる。それから2年以上が過ぎたが、彼はまだ帰っていない。
※ ノースヨーク:トロント市北部の地区名。米国のニューヨークとは無関係で、1998年に周辺自治体と合併して現在のトロント市の一部になった。
ネイサンさんにはダウン症があり、暮らしのなかで家族の支えを必要としていた。ただ、それは彼を説明する言葉のごく一部でしかない。トロント・ブルージェイズとメープルリーフスの熱心なファンで、ゲームとプロレスと昼ドラが好きで、14年来の友人は彼を「賢い人。とても有能です」と語っている。「魅力的で、思いやりがあって、面白くて、ふざけていて、会うともっと一緒にいたくなる人」とも。この記事は、その人がどこへ行ったのかという話である。
事件の概要
🗓️ 最後の目撃:2023年5月12日 午後7時ごろ
🌫️ 場所:カナダ・オンタリオ州トロント市ノースヨーク、ジェーン通りとシェパード通りの交差点付近
👤 行方不明者:ネイサン・ワイズさん(当時37歳、現在は39歳前後)
🔍 状況:財布も携帯電話も持たず、現金20ドルだけで自宅を出たまま戻らない。5月14日に警察へ届け出
🕯️ 現在:2年以上が経過。警察は事件性を認めていない。5月19日ごろにゲルフでの目撃情報が浮上したが、確認は取れていない
ネイサンさんがトロントのこの地区に移ってきたのは、失踪のわずか2か月前、2023年3月のことだった。それまではトロントから西へ約100キロ離れたキッチナー・ウォータールー※に暮らし、ウォータールーの東にあるブルーミングデール地区でレスパイトケア※を受けていた。母親と祖母が出店を構えていたセント・ジェイコブス・マーケットも、教会に通っていた隣町エルマイラも、彼にとっては見慣れた場所だった。
※ キッチナー・ウォータールー:オンタリオ州南部にある双子都市。トロントから西へ約100キロ、車でおよそ1時間半の距離にある。
※ レスパイトケア:介護している家族が休息を取れるよう、障害のある人を一時的に預かって支援する仕組み。
トロントへ移ったのは、家族の近くで暮らすため、そしてグループホームに入らずに済むためだった。同居していたのはきょうだいで、報道によって「きょうだい2人と暮らしていた」とも「きょうだいとその配偶者と暮らしていた」とも伝えられている。父親は失踪の5か月前、2022年12月に亡くなっていた。母親はその10年ほど前に亡くなっていたという。
当時の発表や報道では、ネイサンさんは「自分の身の回りのことを自分で行うのが難しい」人物として説明され、「7歳程度の水準」という言い方も伝えられた※。ただ、彼を知る人たちの言葉はこれとは少し違う。14年来の友人キャスリーン・マシューズさんは「賢い人」「とても有能です」と言い、いとこのジェイソンさんは「とても人懐っこい人だった」と話している。2018年にはウィルフリッド・ローリエ大学のアメフト部が発達障害のある成人向けに開いた練習会に招かれ、インタビューにも応じていた。
※ 「精神年齢◯歳」という説明:緊急の呼びかけで「一般的な成人とは状況の判断のしかたが違う人を捜している」と短く伝えるために使われることの多い言い方で、主に学習面の到達度を指標にしている。生活能力の全体を表すものではない、という指摘が支援者や当事者家族から繰り返し出ている。
判明している事実
最後の目撃は5月12日の夕方
ネイサンさんが最後に確認されたのは、2023年5月12日の午後7時ごろ、ジェーン通りとシェパード通りの交差点付近だった。黒地に緑のラインが入ったパーカー、黒いパンツ、黒い靴。眼鏡をかけている。身長137センチ、体重77キロ、髪も目も茶色。捜索の呼びかけでは、この特徴が2年以上にわたって繰り返し伝えられてきた。
財布も携帯もなく、現金は20ドル
出かけたとき、彼は財布も携帯電話も持っていなかった。手元にあったのは20ドルの現金だけだったとされる。連絡を取る手段も、身元を示すものも、まとまった移動費もない状態で自宅を離れたことになる。この「20ドル」という数字がどこまで正確なのかは、のちにコメント欄でも議論になった。
届け出までにおよそ36時間
警察への届け出は5月14日。最後の目撃からおよそ36時間の空白がある。ネイサンさんは家族と暮らしていたが、四六時中付き添われる関係ではなく、慣れた行動は自分でこなしていた。捜索という観点では、この空白は無視できない。防犯カメラの映像は保存期間が短く、時間が経つほど遡って確認できなくなるからである。
ゲルフでの目撃情報は未確認のまま
失踪から1週間後の5月19日ごろ、警察はキッチナー・ウォータールーに近いゲルフ周辺でネイサンさんが目撃された可能性があると明らかにした。ただしこの情報は裏づけが取れていない。その場所を捉えた防犯カメラを警察は見つけられず、映像による確認には至らなかった。目撃情報はこれ以降、ほとんど出ていない。
警察は事件性を認めていない
トロント警察は、現時点でネイサンさんのケースに事件性は疑われないとしている。一方で家族は、脅迫や不審な連絡を受けたと訴えてきた。トロント警察は2023年2月から行方不明者の姓を公表しない方針※に切り替えており、当初は下の名前と写真だけが公開されていた。家族自身も姓の公表を望まなかったが、一部の家族が実名で捜索グループを運営していたため、そこが標的になったとみられる。2025年ごろから、報道でもフルネームが使われるようになった。
※ 姓の非公表方針:トロント警察が2023年2月に導入した運用で、行方不明者本人と家族のプライバシーを守ることを目的としている。ネイサンさんの失踪は、この方針が始まった直後に起きた。
主な仮説
仮説1:以前の生活圏へ向かう途中で、道が分からなくなった
家族は、ネイサンさんがキッチナー・ウォータールー方面を目指したのではないかと考えている。父親が亡くなった土地であり、母親と祖母が出店を構えていた市場も、通っていた教会もそこにある。一方でトロントに移ってからはまだ2か月で、周囲の地理には慣れていなかった。行きたい場所は分かっていても、そこへ至る道順が分からない——という状態で歩き出した可能性が指摘されている。知的障害のある人の支援現場からは、「実家はハイウェイの先」という記憶だけを頼りに歩き出した例が実際に報告されている。
仮説2:公共交通に乗り、想定より遠くまで行った
ゲルフでの目撃情報が本人だったとすれば、最後の目撃地から80〜100キロを移動したことになる。GOトランジット※を使えば理屈のうえでは可能で、列車の改札は必ずしも厳しくない。ただ、ゲルフまで行かない便も多く、窓口や券売機を使ったならそこで目撃されていたはずだという指摘もある。切符の購入記録も、乗降の映像も、いまのところ何ひとつ出てきていない。それがこの仮説の弱点になっている。
※ GOトランジット:オンタリオ州南部の広域交通網。トロントを中心に鉄道とバスが周辺都市を結んでおり、キッチナーやゲルフ方面にも路線がある。
仮説3:誰かが車に乗せ、そのまま行方が追えなくなった
徒歩で80キロ以上を移動するのは現実的ではない。だとすれば車に乗ったのではないか、というのがコメント欄で最も多く挙がった見方だった。人懐っこい性格だったことを考えれば、声をかけられて乗ることも、自分から頼むことも考えられる。乗せた人が失踪のニュースを目にしていなければ、名乗り出る理由はそもそも生まれない。ただしこの仮説は、善意の同乗から悪意ある接触まで幅が広く、どちらの方向にも決め手がないままである。
仮説4:目撃されていたが、通報につながらなかった
これだけ特徴のある人が誰の記憶にも残っていないのは不自然だ、という違和感から出てきた見方である。障害のある人が街中で「見て見ぬふり」をされやすいという指摘は、支援に携わる人たちから実感として語られた。一方で「人は自分と違う特徴にはちゃんと気づくものだし、後から聞かれれば答えられるはずだ」という反論もある。キッチナー・ウォータールーでは当時ポスターが街じゅうに貼られ、住民が注意を払っていた。匿名性の高いトロントでは事情が違ったのかもしれない、という声もあった。
海外の反応
1. 謎の名無しさん
この件を取り上げてくれてありがとう。2年以上経つと話題に上らなくなるけれど、忘れられていないと家族に伝わることにも意味があると思う。無事に見つかってほしい。
2. 謎の名無しさん
身長137センチ、体重77キロ。かなり特徴的な体格の人が、これだけ目撃されていないのが不思議でならない。徒歩で遠くまで行けるとは思えないから、どこかで車に乗ったと考えるのが自然な気がする。
3. 謎の名無しさん(>>2への返信)
支援サイトの記述では「状況と環境によっては自立して行動できる」とされている。家族が24時間見張っていたわけではなく、本人にとってはいつも通り出かけただけだった可能性も十分あると思う。
4. 謎の名無しさん
最後に目撃された辺りの地形を調べてみたけど、谷はあっても全部公園として整備されていて、流れている川も浅い。人がそのまま行方不明になるような場所には見えなかった。
5. 謎の名無しさん
アメリカの話だけど、発達障害があると見て取れる人は、街中で意識的に「見ない」ようにされることが多い。目撃されていても誰の記憶にも残らない、というのは十分あり得ると思う。
6. 謎の名無しさん(>>5への返信)
在宅で障害のある人の介助をしている。実感としては、じろじろ見てくる人と、わざと地面を見て気づかないふりをする人が半々くらい。だからこそ、見ていた人がひとりもいないというのは意外に感じる。
7. 謎の名無しさん(>>5への返信)
それは違うと思う。人は自分と違う特徴にはちゃんと気づく。ただ声の掛け方が分からなくて黙っているだけで、後から「見ませんでしたか」と聞かれれば、たいていの人は思い出せるはずだ。
8. 謎の名無しさん
キッチナー・ウォータールーに住んでいる。失踪当時は街じゅうに彼のポスターが貼ってあって、みんな気にしていた。ただ2年半でポスターはすっかり見かけなくなった。トロントはもともと匿名性が高い街だから、そちらはまた事情が違うと思う。
9. 謎の名無しさん
「精神年齢7歳」という言葉だけが独り歩きしている気がする。ダウン症の現れ方は本当に幅が広くて、常に支援が必要な人もいれば、仕事を持って一人暮らしをしている人もいる。学習面の到達度と生活能力は別の話だ。
10. 謎の名無しさん(>>9への返信)
37歳の人には、7歳の子には絶対にない30年分の経験と訓練が積み上がっている。同じ数字を当てはめても中身はまったく違う。7歳が7歳でいられるのは1年だけだけど、彼にはその後の30年があった。
11. 謎の名無しさん
本人をよく知る人ほど「慣れたことなら自分でできる」と言っている。買い物も、いつも使う路線のバスも、手順が身についていれば問題なく使える。知らない土地でゼロから組み立てるところだけが難しい。
12. 謎の名無しさん
叔父がダウン症。ひとり暮らしはできないけれど、留守番も散歩もひとりでする。決して無力な人ではない。ネイサンさんもそれに近い感じだったんじゃないかと思う。
13. 謎の名無しさん
14年来の友人が「見かけたらメープルリーフスかブルージェイズの話をしてあげて」と呼びかけているのが刺さった。どうすれば彼が安心するかを知っている人の言葉だと思う。
14. 謎の名無しさん(>>13への返信)
2018年には大学のアメフト部の練習会に招かれてインタビューを受けている。ゲームもプロレスも昼ドラも好きだったらしい。行方不明者の一覧に並ぶ一行ではなく、そういう時間を積み重ねてきた人なんだと改めて思う。
15. 謎の名無しさん
一番いいところがそのまま弱さになってしまうのがつらい。誰にでも笑顔で応じられる人は、悪意にも同じように応じてしまう。人懐っこさは責められるようなことじゃないのに。
16. 謎の名無しさん
ゲルフで見かけたかもしれない、と警察が明らかにしたのは失踪から5日後。最後の目撃地から80〜100キロ離れている。もし本人だったとして、どうやってそこまで行ったのかがまったく説明できていない。
17. 謎の名無しさん(>>16への返信)
GOトランジットならゲルフまで行ける。ただバスは現金で切符を買えなくなっているし、窓口や券売機を使えばそこで目撃されているはず。列車は改札が緩いから無札でも乗れてしまうけれど、ゲルフまで行かない便も多い。
18. 謎の名無しさん
誰かが車に乗せた、というのが一番ありそうに思う。乗せた人がそのニュースを見ていなければ、名乗り出る理由がそもそも生まれない。地元の人じゃなければなおさら気づかないと思う。
19. 謎の名無しさん
財布も携帯も持たず、現金は20ドルだけ、という情報が引っかかっている。持ち出した金額をそこまで正確に把握できるものだろうか。もっと持っていた可能性は考えなくていいのかと思ってしまう。
20. 謎の名無しさん(>>19への返信)
アメリカだと障害のある成人には金銭管理の担当者がついて、給付金の使い道を1セント単位で記録する義務がある。カナダにも近い仕組みがあるなら、手元にいくらあったかは把握できていたと思う。
21. 謎の名無しさん
キッチナー・ウォータールーを目指したという家族の見立ては筋が通っている。お父さんが亡くなった土地で、お母さんとおばあさんが出店を出していた市場もあって、通っていた教会もある。帰りたい場所として何も不自然じゃない。
22. 謎の名無しさん(>>21への返信)
知的障害のある成人の施設で働いていたとき、似たことがあった。実家に帰りたくなった利用者が「家はハイウェイの先」とだけ覚えていて、そのままハイウェイを歩き出した。通報で警察が保護して事なきを得たけれど、あれは運が良かっただけだと思う。
23. 謎の名無しさん
昔、ダウン症のある16歳の子と関わっていた。夜中に三輪車で出かけて、州間ハイウェイで警察に止められたことがある。無事だったから今は笑い話になっているけど、行こうと思えば驚くほど遠くまで行けてしまう。
24. 謎の名無しさん
ノースヨークからキッチナー方面へ出るには、一度ユニオン駅まで出て乗り換える必要がある。慣れた道を歩くのと、知らない土地で乗り換えを組み立てるのとでは難易度がまるで違う。
25. 謎の名無しさん
ブルーミングデールのすぐ近くで育った。写真を見て、間違いなく同じ高校にいた人だと分かった。知っている顔がこういう形で出てくるのは、正直かなりこたえる。
26. 謎の名無しさん(>>25への返信)
地元の感覚だと、なおさら「消えようがない」土地だと思う。森らしい森はないし、公園も15分歩けば反対側に抜けてしまう規模。だからこそ何ひとつ出てこないのが理解できない。
27. 謎の名無しさん
なぜ家族が脅迫まで受けるのか理解できない。いま一番必死に捜している人たちに石を投げて何になるのか。姓を伏せたいと考えたのも当然の判断だと思う。
28. 謎の名無しさん(>>27への返信)
トロント警察が2023年2月から行方不明者の姓を出さない方針にしたのは、まさにこういうことを防ぐためだったはず。ただ家族が実名で捜索グループを運営していたから、結局そこが標的になってしまった。
29. 謎の名無しさん
カナダには、1986年にキッチナーから姿を消した男性が、記憶を失ったまま別の土地で暮らしていて2016年に見つかったという例がある。エドガー・ラトゥリップさんの件で、しかも同じキッチナーの人だ。30年後に見つかることもある。
30. 謎の名無しさん(>>29への返信)
その例があるから、まだ諦める段階じゃないと思っている。時間が経つほど難しくなるのは分かっているけど、生きて見つかった実例がある以上、情報を呼びかけ続ける意味は確実にあると思う。
未解決の謎
ネイサン・ワイズさんの失踪には、いわゆる「謎めいた要素」がほとんどない。断崖も深い森もなく、最後に目撃された辺りは整備された公園と住宅と幹線道路が続く土地だ。地元を知る人が口をそろえて言うのは「消えようがない場所だ」ということである。それでも彼は見つかっていない。
手がかりが乏しい理由は、おそらく地形ではなく記録の側にある。財布も携帯電話も持っていないので、決済の履歴も位置情報も残らない。唯一の物証になり得た防犯カメラの映像は、ゲルフの目撃情報が浮上した時点で警察が探しても見つからなかった。人の記憶だけを頼りにした捜索は、時間が経つほど当てにならなくなる。街から「行方不明」のポスターが消えていくのと同じ速さで、目撃情報が寄せられる可能性そのものが細っていく。
それでも、この件を終わった話として扱うにはまだ早い。カナダでは、1986年にキッチナーから姿を消した男性が、記憶を失ったまま別の土地で暮らしているところを2016年に見つけ出された例がある。年月が経ったこと自体は、見つからないことの理由にはなっても、生存の可能性を打ち消す材料にはならない。
友人のキャスリーン・マシューズさんは、もし彼を見かけたらメープルリーフスかブルージェイズかラプターズの話をしてほしい、と呼びかけている。スポーツの話題なら心を開いてくれるはずだ、お腹をすかせているかもしれないから食べ物を買ってあげてほしい、とも。行方不明者としてではなく、ひとりの人としてどう接すればいいのかを、14年間そばにいた人が具体的に教えてくれている。情報の受付はトロント警察31分署(416-808-3100)。
出典:r/UnresolvedMysteries 元スレ / CBC News / Please Bring Me Home


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