「母さんに、あのビーチの黒い砂を持って帰るよ」——18歳のフランス人青年がそう約束していた海岸は、彼が最後に向かった場所だった。2020年3月7日の未明、ニュージーランド最大の都市オークランド※の郊外にある下宿を出たエロイ・ジャン・ロランは、バスと電車を乗り継いで西へ向かい、そのまま消えた。午前7時26分に西オークランドの駅へ着いたところまでは防犯カメラが追っている。その1時間半後、山を越える一本道の途中で、彼の携帯電話の位置がたった一度だけ拾われた。それが最後だった。捜索には延べ1600時間が投じられたが、5年が過ぎたいまも、持ち物ひとつ見つかっていない。
そして話をややこしくしているのが、彼が消えたあとに残った「生きているように見える痕跡」だ。SNSのアカウントは数か月ログインされ続け、捜索の最中に地元警察のページへ「いいね」がついた。さらに失踪5日後、1700km離れた南島の町で「本人と話した」と警察に連絡した女性がいる。
※ オークランド:ニュージーランド北島にある同国最大の都市。人口約170万人と、国全体の3分の1が集まる。首都はウェリントンだが、経済と留学の中心はこちら。
事件の概要
🗓️ 発生日:2020年3月7日(土)未明〜午前9時ごろ
🌫️ 場所:ニュージーランド北島、オークランド西部からワイタケレ山地のピハ・ロード一帯
👤 行方不明者:エロイ・ジャン・ロラン(当時18歳。フランス・モンペリエ出身の語学留学生)
🔍 状況:夜明け前に下宿を出てバスと電車を乗り継ぎ、西オークランドのフルートベール・ロード駅に午前7時26分到着。以後、確認された目撃情報はない
🕯️ 現状:3日後に届出。延べ1600時間超の捜索も手がかりなし。現在も行方不明者として登録され、家族が捜索を続けている
エロイがフランスからニュージーランドへ渡ったのは2019年9月だった。英語を学ぶために語学学校へ入り、オークランド北部の郊外バーケンヘッドでホストファミリー※と暮らし始めた。家族によれば、登山とセーリングが好きで自然に強い関心を持つ青年だったという。当初の生活は順調に見えた。景色に感激し、友人ができ、飲食店のアルバイトも見つけた。とりわけ心を惹かれたのが西海岸のピハ※で、母親には「あそこの黒い砂※を瓶に入れて持って帰る」と約束していた。
※ ホストファミリー:留学生を自宅に受け入れ、部屋と食事を提供する家庭。語学留学では一般的な滞在形態。ただし相手が成人の場合、家庭側に保護者としての法的責任はない。
※ ピハ:オークランド中心部から西へ約40km、タスマン海に面した人口800人ほどの町。サーフィンの名所として国際的に知られる一方、警察署も常設の公共サービスもなく、出入りできる道路は実質1本しかない。
※ 黒い砂:ピハの砂浜が黒いのは、周辺の火山活動でできた鉄分の多い砂が堆積しているため。夏は裸足で歩けないほど熱くなる、ニュージーランド西海岸の象徴的な風景。
ところが2019年の終わりごろから様子が変わっていったと周囲は述べている。語学学校の同級生に想いを寄せたものの相手には交際相手がおり、その交際相手がニュージーランドへ来たあたりから精神的にさらに不安定になっていったと伝えられている。人を疑うような発言が増え、陰謀論や、当時ニュースになり始めていた新型コロナウイルス※の話を繰り返すようになった。英語教師は状態を心配し、予定を早めて帰国するよう勧めている。飲食店の仕事は2つとも続かなかった。うち1件は勤務中に取り乱したためだと伝えられているが、これは伝聞で確認された話ではない。家族は帰国便を5月から3月21日へ前倒しした。彼が消えたのは、その2週間前である。
※ 2020年3月のニュージーランド:新型コロナウイルスが世界へ広がり始めた時期。同国は3月中旬以降に外国人の入国を原則禁止し、下旬には全国的なロックダウンへ入った。報道はコロナ一色となり、彼の家族もフランスから現地へ渡れなくなった。
判明している事実
未明の移動は分単位で記録が残っている
午前5時ごろ、彼はスマートフォンでピハまでの経路を検索している。5時46分にバスでオークランド中心部へ出て、交通ハブのブリトマート駅から西行きの電車に乗った。フルートベール・ロード駅に降り立ったのが7時26分。防犯カメラには、青と白のパーカー、青いジーンズ、茶色のトレッキングブーツ、小さな黒いリュックという姿がはっきり写っている。日の出は午前7時ごろ。暗いうちに家を出て、明るくなった直後に西の玄関口へ着いたことになる。
午前9時、山道で一度だけ拾われた電波
駅を出たあとの確認された目撃情報はない。警察が唯一つかんだのは、午前9時ごろにワイタケレ山地※のピハ・ロード上で記録された携帯電話の位置情報だった。駅からおよそ11km地点。1時間46分で11kmは、体力のある18歳ならあり得ない速さではないが、普通に歩くペースよりかなり速い。しかもこの区間は起伏が激しく、歩道のない曲がりくねった車道が延々と続く。そしてもう一つ重要なのは、この地点がちょうど「オークランド側の基地局の電波が届かなくなる境目」とほぼ一致することだ。位置情報が途切れたことは、彼の移動がそこで終わったことを意味しない。
※ ワイタケレ山地:オークランド西部からピハにかけて広がる森林丘陵。シダ類とカウリ(ニュージーランド固有の巨木)が密生し、歩道はほとんどない。道路から数メートル入るだけで外の景色が見えなくなるほど植生が厚く、圏外の範囲も非常に広い。現地では原生林一帯をまとめて「ブッシュ」と呼ぶ。
警察への届出は3日後だった
下宿先が届け出たのは3月10日。空白の3日間は不自然に見えるが、彼は成人で、自分で費用を払って滞在している留学生だった。以前にも数日ふらりと出かけたことがあったため、今回もそうだろうと考えていたという。家族は地球の反対側にいて、彼が戻っていないこと自体をすぐには知らなかった。この遅れが、初動の捜索範囲をさらに広げてしまった。
1600時間の捜索で出てきたのはTシャツ1枚
3月から5月にかけて、警察は延べ1600時間以上を投じて森を捜索した。だが地形と植生が徹底的に邪魔をした。樹冠が空を覆っているためヘリコプターもドローンも役に立たず、においは下草と野生動物にかき乱されて追跡犬が機能しない。見つかったのは隣町カレカレの近くに落ちていたTシャツ1枚だけで、鑑定の結果は彼のものではなく、のちに地元住民が「以前なくした自分のものだ」と名乗り出た。ルート上に彼の持ち物は一つも残されていなかった。
失踪後も残り続けた「生きているような痕跡」
彼が消えたあとも、SNSアカウントにはログインの記録が残り続けた。友人たちは、届出のあとも数週間にわたって彼のインスタグラムから自分の投稿に「いいね」がついたと話している。フェイスブックも断続的にログインされ、警察が捜索を続けている最中に、彼のアカウントからオークランド警察のページに「いいね」がついたことも確認されている。前日に黒一色の画像へ変えられていたプロフィール写真は、いつの間にか以前の写真へ戻っていた。さらにオーストラリアで彼のPayPalアカウントが動いた記録も残った。こうした活動は約5か月続いたのちに止まった。警察は調べたが、結果を公表していない。
もう一つ、事件を複雑にしている証言がある。失踪から5日後の3月12日、南島の町テ・アナウ※のホリデーパークで働いていた女性が「エロイと話した」と警察に連絡してきたのだ。彼女自身もフランス人で、同郷だと分かって会話が弾んだという。相手の男性は18歳、南フランス出身、英語を学ぶ留学でニュージーランドに来ていると話し、誕生日は10月1日、ミドルネームはジャン——祖父と同じ名前だったので覚えていた、と証言している。すべてエロイの情報と一致する。男性は白い車に乗り、もう一人の男性と一緒だったが、車種も同乗者も特定できなかった。警察はこの証言を「信用に足るが裏づけが取れない」と評価し、現地を捜査したものの、映像も車も見つけられなかった。
※ テ・アナウ:ニュージーランド南島南西部、フィヨルドランド国立公園の玄関口にあたる観光の町。ピハとは国土のほぼ両端で、実際の移動距離は約1700km。車なら約24時間の運転に加えて、北島と南島を結ぶフェリーが必要になる。
また2022年に地元紙のジャーナリストが書いた記事には、別の未確認の話が紹介されている。有志の捜索隊が活動していたとき、ピハの町の住民が「3月7日の午前11時ごろ、ゴミを出しに外へ出たら条件の合う若い男性が前を通った。挨拶をしたが返事はなく、ひどく沈んだ顔をしていた」と語ったというものだ。青いジーンズにリュック、一人だった、とも。事実なら彼が目的地まで到達していたことになるが、この住民は警察に届け出ておらず、捜索隊にも名前を明かさなかった。
主な仮説
仮説1:森に入り、道を見失った
捜査を率いたカラム・マクニール警部の見立てがこれだ。「私の考えはいまも『ブッシュ』だ。ビーチへの近道を試そうとして距離を見誤り、自分の体力を過大評価したのではないか。あそこは相当に厳しい場所だ」と語っている。ピハ・ロードのカーブからは海岸を見下ろせる場所が何か所もあり、目には近く映る。だが実際には急な下り斜面と密林が数キロ続く。写真を撮るためでも用を足すためでも、いったん道路から数百メートル離れれば戻る方向が分からなくなる。反証は「何も見つかっていない」という一点だけだが、あの広さと植生では、見つからないこと自体が否定材料になりにくい。
仮説2:ピハに着き、海に流された
母親への約束を果たすために砂浜へ下りた、という筋書きは動機として自然だ。ピハの海は美しいが離岸流が極端に強く、これまでに複数の死者が出ている。膝までの深さでも体を沖へ引かれる感覚がある、と現地に立った人たちが口を揃える海だ。ただし弱点もある。ピハへ通じる道は実質1本、歩道はなく、車道を歩く人はよく目立つ。土曜の午後2時ごろに到着していたなら町は最も賑わう時間帯で、誰一人として警察に届けていないのは不自然だ。前述の「午前11時に町で見かけた」という未確認の話が事実なら、この仮説は一気に現実味を帯びる。
仮説3:本人が自ら姿を消した、あるいは自ら命を絶った
最も多く語られてきた見方の一つでもある。根拠として挙げられるのは、家を出る前日にフェイスブックのプロフィール画像が黒一色に変えられていたこと、そして周囲が精神的な不調を心配していたことだ。ただし、これを裏づける材料は他にない。黒い画像は同じ年に世界へ広まった抗議運動の投稿と混同されがちだが、その動きが起きたのは2020年5月以降で時期が合わない。一方、反証は具体的だ。彼は帰国便を予約し、荷造りを始めていた。母親への土産の約束もあり、ピハへ向かう理由そのものは自然に説明がつく。家族はこの説を取っていない。あくまで並んでいる複数の見方のうちの一つであり、確認された事実ではない。当時の彼の状態についても、周囲が心配していたという証言があるだけで、医学的な判断が下されたわけではないことは断っておきたい。
仮説4:第三者が関わった、または南島へ移動した
テ・アナウの証言、数か月続いたアカウントの活動、オーストラリアでの決済記録。線でつなげば「彼は生きていて、誰かと行動していた」という絵が描ける。証言した女性は匿名のまま警察にだけ連絡しており、作り話をする動機が見当たらない。ただこの仮説には物理的な壁がある。5日で1700kmとフェリー越えは可能でも簡単ではなく、国内線は航空会社によって身分証の確認があり、外国籍の彼はパスポート以外の身分証を持っていない。逆に「フランス人」「ジャン」「南フランス」はいずれもありふれた組み合わせで、報道を見た誰かが本人になりすました可能性を指摘する声もある。アカウントの活動も、家族が情報を知っていた、自宅の端末にログインが残っていた、という説明で片づく余地が残る。第三者の関与を示す物証は、いまのところ一つもない。
海外の反応
1. 謎の名無しさん
地元の人間だけど、ブッシュに迷い込んだ説がいちばん現実的だと思う。あそこは本当に広くて手つかずで、使われなくなった古い作業道や罠の見回り道が残っていて、道に見えるものが途中でふっと消える。慣れていない人間が一度入ったら、短時間で深刻な状況になり得る場所だよ。
2. 謎の名無しさん(>>1への返信)
ピハとワイタケレにはそこそこ通ったけど、その「道に見えるものが途中で消える」感覚は分かる。踏み跡をたどっているつもりが、いつの間にか誰も通っていない斜面に立っている。周りは同じシダの壁で、来た方向が本気で分からなくなる。
3. 謎の名無しさん(>>1への返信)
一度ハイキングで入ったことがあるけど、数メートル先の地面に何か落ちていても見えないレベルの藪だった。上空からも樹冠に遮られて何も見えない。延べ1600時間かけて出てこなかったと聞いても、正直まったく驚かない。
4. 謎の名無しさん
自分が引っかかっているのは、午前9時の位置情報が「たまたま電波の切れ目」と重なっていることなんだよな。あそこが終点だという証拠にはならない。むしろ捜索の重心があの一点に引っ張られたぶん、実際の到達地点とズレていた可能性すらある。
5. 謎の名無しさん
テ・アナウの証言がどうしても頭から離れない。作り話にしては舞台の選び方が不自然すぎる。失踪現場から国土の反対端で、しかも「そこにいるはずがない」場所だから、嘘ならすぐ否定されてしまう。わざわざそんな嘘をつく理由が思いつかない。
6. 謎の名無しさん(>>5への返信)
自分は逆に懐疑的だ。ジャンというミドルネームはフランスではありふれているし、「南フランス出身」も範囲が広すぎる。18歳で英語を学びに来ているフランス人はニュージーランドに山ほどいる。一致した項目だけを数えて、一致しなかった項目を数えていないのでは。
7. 謎の名無しさん(>>5への返信)
仮に人違いだったとしても、彼女が警察に連絡したこと自体は正しい判断だったと思う。名前も公表せず、注目も浴びていない。得るものが何もない人がわざわざ連絡してきた、という事実は重い。
8. 謎の名無しさん
逆の可能性も考えたい。失踪はその時点でニュースになっていたし、SNSが公開設定なら誕生日もミドルネームも拾える。誰かがその情報で本人のふりをしていた、というほうが、あの距離を5日で移動したという説明よりは自然な気もする。
9. 謎の名無しさん
細かい話だけど、フランス人同士なら「南フランスから来た」ではなく「モンペリエから」と言うはずだと思う。モンペリエはそこそこ大きな都市でフランス人なら誰でも知っている。アメリカ人同士が「西部から来た」とは言わず「カリフォルニア」と言うのと同じ感覚だよ。
10. 謎の名無しさん(>>9への返信)
それは彼女が訛りから南部だと判断しただけで、本人が「南フランス」と言ったとは限らないのでは。証言の逐語記録が公開されていないから、そこの解像度が上がらない。結局どの記事も要約でしか伝えていないんだよな。
11. 謎の名無しさん
自分にとって一番説明しづらいのはアカウントの件だ。数日なら端末が残っていたで説明できるけど、5か月は長い。しかも捜索の真っ最中に警察のページへ「いいね」がついたというのは、偶然の自動処理では片づけにくい。
12. 謎の名無しさん(>>11への返信)
家族や親しい友人がパスワードを知っていて、情報が来ていないか確認のために開いていた、という線もあると思う。自分もバックパック旅行に出る前、何かあったときのためにいくつかのアカウント情報を親に渡していった。
13. 謎の名無しさん(>>11への返信)
自宅のノートパソコンにログイン状態が残っていれば、パスワードを打たなくてもプロフィールは開く。誰かがそれを触っていた可能性はある。ただ、警察のページに「いいね」がついた一点だけは、その説明でもうまく収まらない気持ち悪さが残る。
14. 謎の名無しさん
オーストラリアの決済も、それ単体ではあまり材料にならないと思う。帰国便がオーストラリア経由なら宿や交通の自動引き落としが動くことはあるし、サブスクの無料期間終了で課金されただけかもしれない。詳細が出ていないから議論のしようがない。
15. 謎の名無しさん
知りたいのは、警察がログインのIPアドレスや端末情報を取得できていたのかという点だ。アクセス元がフランスなのかオークランドなのか南島なのかが分かれば、生存の議論は一段進む。取れていて公表しないのか、そもそも取れなかったのか、そこが見えない。
16. 謎の名無しさん
精神的にしんどい時期だったと周囲が話しているという部分が、どうしても重く感じる。18歳で地球の反対側、身近に相談できる相手がいない状況では、普通なら小さくすむつまずきが際限なく膨らんでいく。誰かが一言かけられていたら、と考えてしまう。
17. 謎の名無しさん(>>16への返信)
自分も家族も友人もいない国で暮らした経験があるから、その感覚はよく分かる。何かあっても、事情を知っている人に相談するには何日もかかる距離にいる。日常の小さな不調が、逃げ場のないまま積み重なっていくんだよ。
18. 謎の名無しさん
家族が自死説を受け入れていないのは当然だし、その気持ちは尊重されるべきだ。ただ家族が否定していることは、それ自体が証拠にはならない。逆に警察が有力視していることも証拠ではない。どの説にも決め手がないまま並んでいる状態なんだと思う。
19. 謎の名無しさん
帰国便を予約して荷造りまで始めていた人が、その2週間前に、という流れがどうしても腑に落ちない。もちろん人の心はそんなに単純じゃないと分かってはいるけど、少なくとも「準備を進めていた」という事実は軽くない。
20. 謎の名無しさん
母親に黒い砂を持ち帰る約束をしていた、という部分がずっと引っかかっている。ピハへ向かう理由としてこれ以上ないくらい自然だし、早朝に家を出たのも、市内を横断してから6時間歩くなら当たり前の行動になる。動機の面では普通の日帰り遠出に見えるんだよ。
21. 謎の名無しさん
2022年に地元紙が出した長い記事に、ピハの町で午前11時ごろ見かけたという住民の話が載っている。ゴミを出しに外へ出たら前を通ったので挨拶したが返事がなく、とても沈んだ様子だった、と。青いジーンズにリュックで一人だったという描写まで一致している。
22. 謎の名無しさん(>>21への返信)
その人が警察に届け出なかったというのが不思議でならない。地元ではかなり大きく扱われた失踪だったはずだし、捜索隊が目の前で活動しているのに名前も名乗らなかった。人違いだと自信が持てなかったのか、関わりたくなかったのか。
23. 謎の名無しさん(>>21への返信)
もしピハまで到達していたなら、海の線が一気に濃くなると思う。あそこは膝までの深さでも足元をすくわれる。旗の間で泳いでいる人でも数秒で横に流されるのを実際に見た。水際に立つのすら怖い場所だった。
24. 謎の名無しさん
ピハの波は本当に怖い。子どもを連れて見物に行っただけなのに、監視の旗の内側にいた若い子たちが足を取られて一瞬で沖へ持っていかれるところを見てしまった。海に慣れていない人が一人で入ったら、助けを呼ぶ暇もないと思う。
25. 謎の名無しさん
25kmを6時間というのは、体力のある18歳なら普通に歩き切れる距離だと思う。彼は登山が好きで、長く歩くのを苦にしないタイプだったという友人の証言もある。歩いてピハを目指すこと自体は無謀な計画ではなかったはずだ。
26. 謎の名無しさん(>>25への返信)
ただ11kmを1時間46分は速すぎる。あの上り坂を含めて時速6km超えは、荷物を持って歩く速度じゃない。走っていたか、途中まで誰かの車に乗せてもらったか。後者だとしたら、その運転手はいまだに名乗り出ていないことになる。
27. 謎の名無しさん
ヒッチハイクなら記録がどこにも残らないんだよな。ピハ・ロードは一本道で、地元の車も観光客の車も通る。乗せた側が事件を知らないまま何年も過ぎている可能性だってある。そう考えると「目撃情報ゼロ」も少しは説明がつく気がする。
28. 謎の名無しさん
そもそもフランス人がわざわざ南半球まで英語を学びに行くのかと最初は思ったけど、当時はかなり一般的だったらしい。イギリスへは子どものころから行き慣れていて、進学や就職の前に景色の違う場所で一年過ごす、という感覚なんだそうだ。
29. 謎の名無しさん(>>28への返信)
ワーキングホリデーで来る若いフランス人は本当に多い。自分も20代のころ、シェアハウスで三人と一緒に住んだことがある。飲食業では「フランス出身」がワインの知識の裏づけとして歓迎されるので、仕事も見つけやすいんだよ。
30. 謎の名無しさん
結局は森か海か、そのどちらかなんだろうと思っている。ただ、こういう事件でいつも思うのは、家族が知りたいのは説の優劣ではないということだ。どこにいるのか、それだけを5年間ずっと探し続けている。せめてそこにたどり着いてほしい。
未解決の謎
この事件が動かないのは、証拠が矛盾しているからではなく、証拠そのものがほとんど存在しないからだ。確定しているのは、午前7時26分に駅を出たという記録と、午前9時ごろに山道で一度だけ拾われた電波だけ。その間に何があったのかを語る映像も、目撃者も、落とし物も、5年かけて一つも出ていない。しかもその位置情報は「圏外に入る直前の最後の点」であって、旅の終点を示すものではない。捜索する側は、始点だけが分かっていて終点が分からないまま、密林と海岸線を相手にしなければならなかった。
タイミングも徹底的に不利だった。彼が消えた直後から世界はロックダウンに入り、ニュージーランドは特に厳しい入国制限を敷いた。家族はフランスから動けず、現地で声を上げることも、自分たちの足で探すこともできない。警察も感染対策に人員を割かれ、報道はコロナ一色で、18歳の留学生が消えたというニュースはほとんど流れなかった。捜索にとって最も貴重な最初の数週間が、事件の外側の事情でまるごと削られたことになる。
そして決着を妨げているのが「彼が消えたあとの痕跡」だ。数か月続いたログイン、捜索中の警察ページへの「いいね」、オーストラリアでの決済、1700km離れた町での目撃証言。どれも単体なら別の説明がつく。他人が端末を触っていた、自動課金だった、人違いだった——いずれも十分あり得る。だが四つが並ぶと、それぞれを個別に片づけていく作業のほうが不自然に見えてくる。かといって全部を「生きていた証拠」として束ねると、今度は目撃情報が皆無であることと噛み合わない。どちらへ倒しても余りが出るのだ。
エロイ・ロランはいまも行方不明者として登録されている。家族によれば、検視当局から「行方不明・死亡推定」への変更を検討していると連絡があったという。それでも両親は捜索を続け、近年は南島にも足を運んでいる。母親に約束された黒い砂の瓶は、まだ届いていない。
情報提供の連絡先:ニュージーランド警察 ワイテマタ地区(電話 105、国番号 +64)/行方不明者ファイル参照番号 200310/8987。


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