1974年の夏、マサチューセッツ州ケープコッドの先端にある町プロビンスタウンの砂丘で、ひとりの女性の遺体が見つかった。名前も、どこから来たのかも分からないまま、彼女は「砂丘の女性(レディ・オブ・ザ・デューンズ)」と呼ばれ、州でもっとも長く身元の分からない殺人事件の被害者になった。マフィアの仕業、ボストンの有名ギャングの関与、さらには映画『ジョーズ』のエキストラだったのではないかという説まで飛び交った。
48年後の2022年、遺伝的系図調査※で彼女の名前がようやく分かった。テネシー州出身のルース・マリー・テリーさん。そして翌2023年、捜査当局は、彼女の死は当時の夫によるものだったと判断して捜査を終えた。その夫は、新婚旅行から妻の車を運転して、ひとりで帰ってきていた。
※ 遺伝的系図調査:遺体などから取ったDNAを、一般の人が登録した家系調査用のDNAデータベースと照らし合わせ、遠い親戚を手がかりに家系図をたどって本人を割り出す手法。2018年に米国の「ゴールデン・ステート・キラー」の逮捕につながったことで広く知られるようになった。
事件の概要
🗓️ 発生日:1974年7月ごろ(遺体の発見は7月26日。死後およそ2週間とみられた)
🌫️ 場所:米マサチューセッツ州ケープコッド、プロビンスタウンのレースポイント近くの砂丘
👤 被害者:ルース・マリー・テリーさん(当時37歳、テネシー州出身)
🔍 状況:道路から少し入った砂丘で、浜辺用の敷物の上にうつぶせで見つかった。死因は頭部への強い打撃。身元を分からなくするためとみられる損壊があった
🕯️ 結末:2022年10月に身元判明。2023年8月、地区検事局が「夫ガイ・マルダヴィンが死の責任を負う」と判断して捜査を終了。夫は2002年に死亡しており、起訴はされていない
ケープコッドは、ボストンから車で2時間ほどの、大西洋に突き出た腕のような形の半島で、夏になると全米から観光客が集まるリゾート地だ。その先端のプロビンスタウンは芸術家の町としても知られる。遺体を見つけたのは、吠える犬のあとをついていった12歳の少女だった。遺体のそばに争った跡はなく、頭の下には青いバンダナとジーンズが置かれていた。長い赤褐色の髪はポニーテールにまとめられ、足の爪にはピンクのペディキュアが塗られていたという。
警察は行方不明者の届け出や、その時期に町を出入りした車の記録を洗ったが、該当する人物は見つからなかった。身元を示す物は何も残っておらず、彼女は同じ年の10月、名前のないままプロビンスタウンの墓地に埋葬された。
判明している事実
48年間、名前のない墓だった
捜査は何度も掘り起こされた。1979年には粘土による復顔像が作られ、遺体は1980年と、DNA鑑定のために2000年にも掘り起こされた。2010年には頭蓋骨のCTスキャンが撮られ、それをもとに新しい復顔画像も公開された。何人もの行方不明女性が候補に挙がったが、DNAなどですべて否定され、長いあいだ「マサチューセッツ州でもっとも長く身元の分からない殺人被害者」と呼ばれ続けた。
遺伝的系図調査で身元が判明
2022年、遺骨のDNAが民間の鑑定会社に送られ、家系調査用のデータベースで遠い親戚が見つかった。そこから家系図をたどり、同年10月31日、FBIボストン支局が「砂丘の女性」はルース・マリー・テリーさんだと発表した。1936年にテネシー州の小さな町ウィットウェルで生まれ、若いころミシガン州の自動車工場で働き、のちにカリフォルニアへ移り住んでいた女性だった。
新婚旅行から、妻の車で一人で戻った夫
身元が分かったことで、捜査はマサチューセッツ州警察に引き継がれた。調べで分かったのは、ルースさんが1973年か1974年にガイ・マルダヴィンという男と結婚し、1974年の夏に新婚旅行に出ていたことだった。地区検事局によると、マルダヴィンはルースさんの車を運転してひとりで戻り、周囲に「彼女は死んだ」と話していた。一方、ルースさんの家族には「新婚旅行中にケンカをして、それきり連絡がない」と説明していたという。
家族が聞かされていた「宗教団体」の話
ルースさんの兄は、妹と連絡が取れなくなったあとカリフォルニアまで出向き、私立探偵を雇った。しかし探偵の報告は、彼女は持ち物を売り払い、宗教団体に入って自分の意思で去った、というものだった。義理の姉妹のひとりは、証人保護プログラム※に入ったのではないかと考えていたと報じられている。家族の側では、彼女が殺されたとは思っていなかったことになる。
※ 証人保護プログラム:米国で、組織犯罪などの裁判で証言する人を守るため、政府が新しい名前と住まいを用意し、それまでの人間関係を絶たせる制度。本人が家族と連絡を取れなくなるため、失踪と見分けがつかないことがある。
夫は過去の失踪事件でも疑われていた
マルダヴィンには、それ以前にも疑いをかけられた過去があった。1960年、シアトルで当時の妻とその娘が行方不明になったとき、彼は最有力の容疑者とされ、自宅の浄化槽からは人の遺体の一部も見つかった。だが二人のものだとは証明できず、遺体を確認できないまま殺人で起訴するのを検察がためらったとされる。1950年にカリフォルニア州北部で起きた男性の射殺と若い女性の失踪でも、有力な容疑者に挙げられていた。どの件でも起訴されることはなく、2002年にカリフォルニアで亡くなった。
主な仮説
仮説1:夫ガイ・マルダヴィンによる犯行(捜査当局の結論)
2023年8月28日、ケープコッドと周辺の島々を管轄する地区検事局は「マルダヴィン氏がテリーさんの死の責任を負っていると判断した」と発表し、捜査を終えた。根拠として挙げられたのは、新婚旅行から妻の車でひとりで戻ったこと、周囲には「死んだ」、家族には「ケンカして連絡がない」と食い違う説明をしていたことなどだ。本人がすでに死亡しているため裁判は開かれておらず、法廷で有罪が確定したわけではない。それでも、過去の妻と継娘の失踪とあわせて考えれば、当局の判断に異を唱える声はほとんど聞かれない。
仮説2:映画『ジョーズ』のエキストラだった説
身元不明だったころ、もっとも有名になった説がこれだ。作家のジョー・ヒル(スティーヴン・キングの息子)が2015年ごろ、1974年夏にマサチューセッツ州の島で撮影された『ジョーズ』の独立記念日の浜辺の場面に、青いバンダナとジーンズ姿の女性が映っていると指摘した。ただ、ヒル本人もジーンズの種類が違うことや、同じ場面に青いバンダナの女性がほかにもいることを認めており、元警察署長も「まずありえない」と懐疑的だった。身元判明後、ヒルは両者の写真を並べて投稿し、「同一人物ではないかもしれない」「髪の色が違う」と書いている。ルースさんが撮影に参加していたことを示す報道や発表は、今のところ見当たらない。
仮説3:ボストンのギャング、ホワイティ・バルジャー関与説
1981年、事件のころにボストンの悪名高いギャング、ホワイティ・バルジャーが被害者に似た女性と一緒にいるのを見たという話が出た。バルジャーが被害者の歯を抜いて身元を隠すことがあったとされることから、手口が似ているとも言われた。しかし具体的なつながりは何も証明されず、バルジャーは2018年に刑務所内で殺害された。当局が夫の犯行と判断したことで、この説も裏付けを失った。
仮説4:連続殺人犯の告白説
別の殺人事件で服役中の男が、ケープコッドで女性を殺したと手紙に書き、現場に似た絵を送ったこともあった。だが当局は、男が重い精神疾患を抱えており、事実と異なる告白をすることがあるとして、信用性を疑った。結局この告白も、身元判明と当局の結論によって裏付けのないものになった。
海外の反応
1. 謎の名無しさん
新婚旅行から夫がひとりで帰ってきて、妻がどこへ行ったか分からないって言い張ったの?いくら70年代でも、それで通るのはおかしいだろ。
2. 謎の名無しさん(>>1への返信)
「奥さんはどこに?」「さあ、たぶん死んだんじゃないかな」「うーん、これは迷宮入りですな」……って感じか。
3. 謎の名無しさん(>>2への返信)
「えーと、ケンカして出ていきました。あと死にました。いや、死んでから出ていったのかな。よく分かんない。ミステリーですね」
4. 謎の名無しさん
この夫、周りに「ルースは宗教団体に入った」とか「証人保護プログラムに入った」とか信じ込ませてたっぽいんだよね。人生でほとんど安らげなかった人に見える。せめて今は安らかに眠っていてほしい。
5. 謎の名無しさん(>>1への返信)
冗談はさておき、夫がやったと「みんな分かっている」のと、それを証明できるのは別の話。遺体が誰なのかすら分からない状態ならなおさらだよ。
6. 謎の名無しさん
この男が疑われてる別の件にも目を向けたい。1960年にシアトルで2番目の妻とその娘が消えたとき、自宅の浄化槽から人の遺体の一部が出てきたのに、二人のものとは証明できなかった。1950年にはカリフォルニア北部で、パン配達の運転手の男性が浜で撃たれて見つかり、一緒に出かけた17歳のウェイトレスは今も見つかっていない。この男はその町で暮らしてた。
7. 謎の名無しさん(>>6への返信)
浄化槽から人の遺体が出てきて、しかも妻と継娘が行方不明なのに、「誰のものか確定できないので、どうぞ普段どおりの生活に戻ってください」ってこと?そのせいで次の犠牲者が出たんじゃないのか。
8. 謎の名無しさん
ここの人たちは聞きたくないだろうけど、逃げおおせた理由は「合理的な疑い」なんだよ。カリフォルニアの女性の遺体がマサチューセッツで見つかって、誰も本人だと分からない。浄化槽の件も、近づけたのが彼だけだと証明できなきゃ有罪にはできない。悔しいけど、70年代なら妻が宗教団体に入って消えるのも実際ありえた話だからね。
9. 謎の名無しさん
マーガレット・アトウッドの言葉を思い出した。「男は女に笑われるのを恐れる。女は男に殺されるのを恐れる」。この事件はまさにそれだと思う。
10. 謎の名無しさん
ルース・マリー・テリーさん、やっと名前が戻ってきたんだね。家族にもようやく区切りがついたならよかった。DNAでこういう古い事件が次々に動いていくのは、待っている他の家族の希望にもなると思う。
11. 謎の名無しさん
意外なのは、結末がこんなにありふれたものだったのに、何十年も身元すら分からなかったってこと。夫が犯人なら、もっと早くたどり着けそうなものなのに。
12. 謎の名無しさん(>>11への返信)
本人はカリフォルニア住まい、家族はテネシー、遺体はマサチューセッツだからね。そのうえ夫が身元を分からなくするためにかなり手を加えていた。家族の話だと彼女は自由人タイプで、少し前に会ったばかりだったから、しばらく連絡がなくても最初はそこまで心配しなかったんだろう。
13. 謎の名無しさん
当時はDNAの照合なんてないし、州ごとの警察が行方不明者の情報を共有する仕組みも今よりずっと弱かった。テネシーの家族がいくら行方を気にしても、マサチューセッツの身元不明遺体に結びつく道がなかったんだと思う。
14. 謎の名無しさん
悲しいのは、この男が一度も裁かれないまま死んだこと。前の妻と継娘、さらに別の男性とその連れの女性まで手にかけた疑いがあるのに、どれも逃げ切ったわけだから。
15. 謎の名無しさん
しかも新婚旅行の最中に、というのがつらすぎる。いつだって許されないことだけど、人生の新しい始まりのはずの旅で。ルースさん、あなたはもっと大切にされるべき人だった。
16. 謎の名無しさん
この事件の教訓は、女性が「いなくなっても誰も困らない存在」として扱われていた時代があったってこと。お金も頼れる家族もない女性ならなおさら。そういう空気が、こういう男をのさばらせてきたんだと思う。
17. 謎の名無しさん
長年この事件を読んできて、説だけは本当に山ほどあった。マフィアの処刑、『ジョーズ』のエキストラ、ホワイティ・バルジャー……。で、最後の答えはいちばんありふれたものだった。暴力的な夫に殺された女性。他の身元不明者の事件も、結局は同じ答えなんじゃないかと思ってしまう。
18. 謎の名無しさん(>>17への返信)
同じことを考えてどんよりしてた。突飛な説が正しかったほうがマシだったって意味じゃないけど、こんなに平凡で、予想どおりの筋書きだったってことが、かえってこたえるんだよね。
19. 謎の名無しさん
『ジョーズ』に映ってた女性の写真と、今回公開された本人の写真を見比べたけど、正直あまり同じ人には見えない。説を言い出した作家本人も、判明後に「髪の色が違う」って書いてたし。
20. 謎の名無しさん
ジョーズ説、昔はけっこう本気で信じてたんだよな。バンダナもジーンズも同じで、撮影も同じ年の夏。でも後で知ったら、あの場面には青いバンダナの女性が他にも何人かいたらしい。人間って、見たい物を見ちゃうんだなと反省した。
21. 謎の名無しさん
つまり「新しい妻はたぶん死んだよ」って言ったのに、誰も気に留めなかったってこと?何それ。普通そこで警察に行くでしょ。
22. 謎の名無しさん(>>21への返信)
「ケンカして、出ていって、死んじゃったんだ」「そうか、まあよくある話だよな」……当時の周りの反応、こんな感じだったのかもね。
23. 謎の名無しさん(>>21への返信)
一応言っておくと、お兄さんはちゃんと動いてたよ。夫がひとりで戻ってきたあと、カリフォルニアまで行って私立探偵を雇った。でもその探偵が「宗教団体に入って自分から去った」と報告しちゃったんだよね。
24. 謎の名無しさん
未解決事件ってすぐ連続殺人犯の説が出るけど、実際には女性を殺すのは知らない男より、夫や恋人、父親みたいな身近な男であることのほうがずっと多い。暗い夜道より、家の中のほうが危ないこともあるんだよ。
25. 謎の名無しさん(>>24への返信)
この件はその両方なのが怖い。身近な夫で、しかも他にも何人も殺した疑いのある男。どっちの説も、ある意味で当たってたことになる。
26. 謎の名無しさん
この男の経歴、調べたら意味が分からない。大学の講師、食堂のコック、銀製品の会社の副社長、骨董商……。どうしてこんなにいろんな職に就けたんだ。人をだますのがよっぽどうまかったんだろうな。
27. 謎の名無しさん
身元不明だったころに公開された似顔絵や復顔像、今回の本人写真とはあまり似てないね。口元と輪郭はなんとなく近いけど、目と鼻、髪の質感が全然違う。顔の傷みがひどかったから、推測で補うしかなかったんだろう。
28. 謎の名無しさん(>>27への返信)
頭蓋骨から顔を起こす技術には限界があるからね。復顔像は「この人を知ってる」という連絡を呼ぶきっかけにはなるけど、決め手にはなりにくい。結局48年かけて最後に効いたのはDNAだった。
29. 謎の名無しさん
警察はどうやって夫が犯人だと突き止めたんだろう。DNAの証拠があったのか、それとも状況証拠の積み重ねなのか。正直、状況だけでもかなり真っ黒だとは思うけど。
30. 謎の名無しさん(>>29への返信)
発表を読むかぎり、決め手は状況のほうみたい。妻の車でひとりで戻ってきたこと、周りには「死んだ」、家族には「ケンカして連絡がない」と言っていたこと。本人はもう死んでるから裁判にはならず、当局が「責任は彼にある」と判断して捜査を閉じた、という形だね。
未解決の謎
48年間「砂丘の女性」と呼ばれてきた人には、ルース・マリー・テリーという名前が戻った。身元判明から間もない2022年12月、家族が用意した名前と写真入りの墓標がプロビンスタウンの墓地に取り付けられた。幼いころに養子に出され、母と会えないままだった息子のリチャード・ハンチェットさんは「美しい場所で、母にひどいことが起きた」と語っている。2024年11月には、捜査の経緯をたどる3回シリーズのドキュメンタリーも米国のテレビで放送された。
それでも、判明したあとに残った謎は少なくない。カリフォルニアに住んでいた夫婦が、なぜ大陸の反対側のケープコッドにいたのか。ルースさんがいつ、どこで命を落としたのか。当局は夫が責任を負うと判断したが、本人はすでに亡くなっており、裁判で事実が一つずつ確かめられることはもうない。法廷で有罪と決まったわけではなく、あくまで捜査当局の結論だという点は押さえておきたい。
マルダヴィンが疑われた1950年と1960年の事件も、決着はついていない。1950年に消えた17歳の女性と、1960年に消えた妻とその娘は、いまも見つかっていない。ルースさんの身元を突き止めたのと同じ遺伝的系図調査が、こうした古い事件にも使われるのかどうかは、今のところ報じられていない。
『ジョーズ』のエキストラ説も、本人が映っていなかったと公式に否定されたわけではない。ただ、それを裏付ける話は判明後も一つも出てこなかった。多くの人が長いあいだ追いかけたのは映画の一場面や有名ギャングの影だったが、答えは新婚旅行から妻の車で帰ってきた夫の、食い違う説明の中にあった。この事件がいちばん重く残すのは、そのことかもしれない。
出典:r/UnresolvedMysteries 元スレ / NBC Boston / CBS News / Wikipedia / Oxygen

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