1983年6月、ロサンゼルス近郊の町で、夜の買い物に出た女性が帰らなかった。殺人の罪で裁かれた男は「自分ではない」と言い続け、2000年には証拠のDNAを調べてほしいと検察に願い出た。願いは退けられ、彼が刑務所を出たのは逮捕から約38年後の2022年だった。
検査が示したのは、彼のものではないというだけではなかった。一致したのは、別の事件で服役し、2020年に獄中で死亡していた男のDNAだった。犯人の名は見えてきたのに、「なぜ誰も調べなかったのか」という問いだけが残っている。
事件の概要
🗓️ 発生日:1983年6月
🌫️ 場所:米カリフォルニア州ロサンゼルス郡イングルウッド
👤 被害者:ロバータ・ワイダーマイヤーさん。夫のビリー・レイさんと、その友人ジョージ・ピンソンさんも銃撃の標的になった
🔍 状況:深夜に買い物へ出たまま帰宅せず、車ごと奪われた。行方を追った夫らに犯人が発砲し、夫が負傷。ロバータさんはのちに車のトランクで遺体で見つかった
🕯️ 結末:有罪となったモーリス・ヘイスティングスさんは2022年10月に釈放され、2023年3月に事実上の無実※と認定された
※ 事実上の無実(factually innocent):単に有罪が取り消されたのではなく、その罪を犯していないと裁判所が認めること。逮捕と起訴の記録も消され、州の補償を受ける道が開ける。
イングルウッドはロサンゼルス国際空港に近い町である。妻の帰りが遅いのを案じた夫は友人と探しに出て、盗まれた彼女の車を見つけた。追いかけたところ、運転していた人物が銃を撃ち、夫は頭に傷を負いながらも一命を取り留めた。
逮捕されたのは当時31歳のヘイスティングスさんだった。物的証拠は彼と結びつかず、事件当夜の居場所を証言する人も複数いたが、検察は死刑を求めた。最初の陪審は評決に至らず、2回目の陪審が有罪とした。1988年の判決は、仮釈放のない終身刑だった。
判明している事実
検査されないまま保管された証拠
当時の検視で性的暴行の証拠採取キットが作られ、犯人のものとみられる生体試料が保管されていた。ヘイスティングスさんは2000年に地方検事局へ検査を求めたが、拒まれた。報道はこの拒否の理由を伝えていない。2021年、検事局の有罪判決審査部門※に無実を申し立て、ようやく検査が動いた。結果は2022年6月に出て、試料は彼のものではなかった。元スレの本文は検査を「2021年6月」と書いているが、NBCなどの報道と原告側の弁護士は2022年としている。
※ 有罪判決審査部門(Conviction Integrity Unit):確定した有罪判決に誤りがないかを、検察が自ら調べ直す部署。
データベースが示した別の男
2022年10月、DNAの型を州のデータベースに登録すると、武装した誘拐事件で有罪になった男と一致した。その事件では女性が車のトランクに入れられていた。男は別の誘拐と強姦で服役中の2020年に死亡している。ロサンゼルス郡地検は2023年、この男が実行犯だと確信していると表明した。本人がこの事件で起訴されたことはなく、法廷で争われることもなかった。
事件の直後、男は警察の手の中にいた
ヘイスティングスさん側の弁護士やCBS、NBCの報道によると、この男は事件から3週間足らずで車の窃盗により拘束された。被害者の物に似た宝飾品と小銭入れを持ち、犯行に使われたのと同じ種類の銃も所持していたという。それでも殺人事件の捜査対象にはならず、釈放された。のちに、元交際相手をトランクに閉じ込めて連れ去っていたことも分かったとされる。
釈放と無実の認定
2022年10月、地検とロサンゼルス・イノセンス・プロジェクト※が共同で請求し、判事は有罪を取り消した。当時のジョージ・ガスコン地方検事は「この事件の立証を信頼できなくなった」と述べている。ヘイスティングスさんの母親は、同じ年の6月に亡くなっていた。釈放後、彼は「この日が来るのを何年も祈っていた」と語り、会見では「誰かを責めたいわけじゃない。恨みを抱えてここに立っているわけじゃない」と続けた。
※ イノセンス・プロジェクト:冤罪の救済に取り組む団体。ロサンゼルスの組織はカリフォルニア州立大学ロサンゼルス校と連携している。
補償と約37億円の和解
カリフォルニア州の補償委員会は2023年、拘束された1万3898日分として194万5720ドルを認めた。1日140ドルの計算である。さらに彼は同年、刑事2人と地検の捜査官を連邦裁判所に訴えた。2025年8月、イングルウッド市が2500万ドル(約37億円)を支払う内容で和解し、原告側は州で最大の冤罪和解だとしている。「どれだけお金をもらっても、奪われた38年は戻らない」というのが、72歳になった本人の言葉だ。
主な仮説
犯人については、地検の見解がほぼ固まっている。今も答えが出ていないのは、なぜ無実の人が有罪になり、なぜ長く放置されたのかという点である。
仮説1:見込みに合わせて事件が組み立てられた
民事訴訟での原告側の主張である。刑事らは目撃証言をゆがめ、アリバイを裏付ける証拠や無実に有利な毛髪の証拠を隠し、凶器と同じ型の銃を彼が持っていたと偽ったとされる。原告側の法律事務所は、担当刑事が訴訟の中で証拠を埋もれさせたことを認めたとも説明している。ただ、和解で終わったため裁判で事実が認定されたわけではなく、市や被告側は報道の取材に答えていない。
仮説2:確定した有罪を守る力が検査を止めた
死刑まで求めた事件の判決が揺らげば、検察には大きな痛手になる。2000年の拒否もその延長ではないかと見る声は多い。検査が動いたのは、新しい地検体制の審査部門に申し立てが届いてからだった。ただし、拒否の理由を当時の担当者が語った記録は報道の中に見当たらず、組織の意図までは確かめられない。
仮説3:別々の事件として処理され、誰も線を引かなかった
車の窃盗の担当者が持つ情報と、殺人捜査の情報がつながらなかったという見方である。悪意がなくても、容疑者を絞ったあとに現れた情報は目に入りにくい。ただし宝飾品と銃の一致まで揃っていたのなら、見落としの一言で済ませるのは難しい。
仮説4:当時の技術の限界が尾を引いた
1988年の時点でDNA鑑定はまだ広く使われておらず、裁判で調べられなかったこと自体は時代の制約だったともいえる。しかしこの説で説明できるのは最初の裁判までで、2000年の拒否の理由にはならない。
海外の反応
※ 元スレは釈放直後の2022年のもので、州の補償や和解はまだ決まっていない時点の書き込みである。
1. 謎の名無しさん
この世のどんな大金を積んでも、40年近い人生の埋め合わせにはならないよ。
2. 謎の名無しさん(>>1への返信)
みんな見落としがちだけど、人生は一度きりなんだ。その半分以上を、やってもいない罪で塀の中で過ごした。取り戻す方法がない。腹が立って仕方ない。
3. 謎の名無しさん(>>1への返信)
しかも無罪になって終わりじゃない。冤罪が晴れた人はみんな、傷は一生続くし社会に戻るのは本当に大変だと言う。制度ごと見直さないとだめだ。
4. 謎の名無しさん
読んでいて胃が痛くなった。金持ちだったら仕事を辞めて、残りの人生を冤罪救済の活動に使いたいくらいだ。
5. 謎の名無しさん(>>4への返信)
この話を夫に読み聞かせて、宝くじが当たったらイノセンス・プロジェクトに大金を寄付しようと決めた。あの人たちは天使だよ。
6. 謎の名無しさん
「合理的な疑いを超える」って基準は、無実の人を閉じ込めないためにあるはず。なのに、こういう話がこんなに頻繁に出てくるのが理解できない。
7. 謎の名無しさん
検査を頼んでから実現するまでの20年以上が、いちばん許せない。調べるだけで分かったことじゃないか。
8. 謎の名無しさん(>>7への返信)
あのとき断った検事は、今どんな気持ちでいるんだろう。まあ反省の弁なんて聞いたことがないけど。
9. 謎の名無しさん
DNA検査を断る理由って何なんだろう。ただ「だめ」とは言わないよね。手続きがどうなっているのか、これは嫌味じゃなくて本当に知りたい。
10. 謎の名無しさん
カリフォルニアの冤罪補償はお粗末だよ。人生をめちゃくちゃにされても、やった側は誰も罰を受けない。
11. 謎の名無しさん(>>10への返信)
州の補償は1日140ドル。365日×38年で計算すると約194万ドルだ。それでも38年だぞ。自分が入ったときとは世界がまるで変わっている。それで笑顔でいられるなんて、とんでもない精神力だよ。
12. 謎の名無しさん
200万ドルが何になるんだよ。人生の半分を奪われて、もう70近いのに。その10倍でも足りないと思う。
13. 謎の名無しさん
警察の無能か、それとも不正か、どっちがどれだけ絡んでいるのか知りたい。2000年に検査を頼んだのに今まで何も起きなかったなんて普通じゃない。
14. 謎の名無しさん
「恨みを抱えてここに立っているわけじゃない」って、自分には絶対言えない。残りの年月が、なんて言えばいいのか、満ち足りたものになってほしい。
15. 謎の名無しさん(>>14への返信)
外に出たいと願ってきたのに、残りの時間を怒りで使ってしまったら意味がない、ということじゃないかな。心の傷は癒えなくても、楽しい記憶を作ることを選んだんだと思う。
16. 謎の名無しさん
立派だとは思うけど、彼には壊れる権利も、恨む権利も全部あるよ。穏やかでいることを期待しちゃいけない。
17. 謎の名無しさん
お母さんが亡くなったのが2022年の6月で、DNAが別人と分かったのも同じ6月なんだろ。あと少し早ければ、息子が無実と認められる日を見られたのに。
18. 謎の名無しさん(>>17への返信)
こういう遅れはよくある話なんだ。結果が出ても裁判所の手続きを踏むまで時間がかかるし、命令が出たあとも役所の歯車はのろい。本当に悪夢だよ。
19. 謎の名無しさん
忘れないでほしいのは、検察が死刑を求めていたこと。最初の陪審がまとまらなかったから今こうして話せるけど、最悪の場合は無実の人が処刑されていた。
20. 謎の名無しさん(>>19への返信)
死刑に反対する気持ちは分かるけど、この件の核心はそこじゃないと思う。終身刑でも38年は戻らない。問題は検査の機会を握りつぶしたことだろ。
21. 謎の名無しさん
自分にとってはこれが本物のホラーだ。無実だと分かっている本人が40年近く閉じ込められる。ゾンビや吸血鬼よりよほど怖い。
22. 謎の名無しさん
自分は刑務所を出て12年になる。本当に罪を犯して入ったのに、今でもほぼ毎晩、獄中にいる悪夢を見る。この人のトラウマは想像もつかない。
23. 謎の名無しさん(>>22への返信)
経験者の言葉は重いな。釈放のニュースだけ見ると「良かったね」で終わるけど、当人にとってはそこからが長いんだと思う。
24. 謎の名無しさん
イノセンス・プロジェクトの説明を読んだら、物的証拠は何もなくて、アリバイを証言する人も大勢いたとある。言葉が出ない。
25. 謎の名無しさん(>>24への返信)
それでも2回目の陪審は有罪にしたわけだよね。提示された証拠が偏っていたら、普通の市民には見抜けない。陪審だけを責めるのも違う気がする。
26. 謎の名無しさん
1988年のDNA鑑定はまだ始まったばかりで、その地区では使えなかったのかもしれない。だから当時調べなかったことには驚かないよ。
27. 謎の名無しさん(>>26への返信)
そう、驚くのは2000年に断ったほうだ。その頃にはDNA鑑定はかなり当たり前になっていた。費用の問題だとしても、人の一生と天秤にかけるものじゃない。
28. 謎の名無しさん
「制度の問題」って言葉の陰に隠れないでほしい。検査を断った書類には誰かの署名があるはずだ。その人はきちんと説明すべきだと思う。
29. 謎の名無しさん(>>28への返信)
気持ちは分かるけど、個人を吊るしても次の冤罪は防げないよ。検察が自分で判決を調べ直す仕組みや、検査を求める権利を強くするほうが先じゃないかな。
30. 謎の名無しさん
被害者のご家族のことも考えてしまう。やっと本当の犯人が分かったと思ったら、もう死んでいて裁きようがない。この事件は誰のことも救えなかった。
未解決の謎
実行犯については、DNAという強い根拠が示された。残っている謎は、犯人探しではなく司法の側にある。
最大の問いは、2000年の拒否の理由である。試料は保管され、検査の技術もあり、本人が調べてくれと頼んでいた。それでも検査は行われず、誰がどんな根拠で断ったのかは報道からは分からない。もしあの時に調べていれば、彼は22年早く外に出られたかもしれない。当時の照合で真犯人とされる男までたどり着けたかは不明だが、この男が生きているうちに事件の責任を問えた可能性もある。
もう一つは、1983年の捜査の中で何が起きていたかだ。事件の直後に警察が被害者の物に似た品を持つ男を拘束していたのなら、なぜ殺人の捜査に結びつかなかったのか。訴訟の主張どおり証拠が隠されたのか、情報が埋もれただけなのか。和解によって、この問いは法廷で決着しないまま閉じられた。訴えられた地検の捜査官もすでに亡くなっている。
そしてロバータさんの遺族にとって、事件は40年近く「解決済み」だった。その答えが誤りだったと分かったとき、裁くべき相手はもういなかった。2500万ドルの和解は一人の人生への償いの形にはなっても、なぜ誰も調べなかったのかという問いには答えていない。
出典:r/UnresolvedMysteries 元スレ / AP通信、NBCニュース、CBSロサンゼルス、カリフォルニア州補償委員会の年次報告


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