2014年10月20日の夜、オーストラリア・シドニー郊外のホームセンターの防犯カメラが、21歳の青年を最後に映していた。友人と一緒に、買ったばかりの木材を返品している——それだけの、何の変哲もない映像だった。その4日後、家族は彼の車を見つける。シドニーの西に広がるブルーマウンテンズ※の奥、カナングラ・ボイド国立公園の未舗装路が尽きる場所だった。車は無人。以来11年、リュックも携帯電話も衣類も、そして本人も、ただの一度も見つかっていない。
※ ブルーマウンテンズ:シドニーの西に広がる山岳地帯。穏やかな響きの名前とは裏腹に、深い峡谷と数百メートルの断崖が幾重にも刻まれた険しい原生林で、気軽に散策できる場所ではない。カナングラ・ボイド国立公園はその南側にあたる。
17日間の捜索には警察、ヘリコプター、遺体捜索犬、地元の熟練ブッシュウォーカーまで動員された。この公園で行われたものとしては過去最大規模だったという。それでも、出てきたものは何もなかった。
事件の概要
🗓️ 最後の目撃:2014年10月20日 午後8時過ぎ
🌫️ 場所:オーストラリア・ニューサウスウェールズ州 カナングラ・ボイド国立公園
👤 行方不明者:セヴァク・シモニアン(当時21歳)
🔍 状況:シドニー市内で目撃されたのを最後に消息を絶つ。4日後、家族が国立公園の林道終点で本人の車を発見。車内には肥料、木材の板、新品の携帯電話、そして本人の「蛇よけブーツ」が残されていた
🕯️ その後:17日間の大規模捜索でも遺留品は一つも出ず。2019年、検死官が法的死亡を認定。ただし死因・死亡時期・死亡場所はいずれも特定できていない
セヴァク・シモニアンはニューサウスウェールズ州ベルローズで、両親ときょうだいと暮らしていた。友人たちは彼を「物静かで、頭が良く、自然が好きな青年」と語る。休みにはブッシュウォーキング※に出かけ、自宅では魚とサンゴを育て、有機農業に関心を持っていた。平日はナラビーンのバニングス※で働き、夜はインド料理店の配達もしていた。
※ ブッシュウォーキング:オーストラリアで山歩き・トレッキングを指す言い方。「ブッシュ」は人の手が入っていない原生林のこと。
※ バニングス:オーストラリア最大手のホームセンターチェーン。木材や園芸用品を扱う。
山に入ること自体は、彼にとって特別なことではなかった。ただ家族によれば、行き先は誰かに伝えていくのが常だったという。この日、家族は何も聞かされていなかった。
判明している事実
最後の姿は防犯カメラの中に
確認されている最後の姿は、2014年10月20日の夜。チャッツウッドのバニングスの防犯カメラが、午後8時を少し回った頃、友人のザレ・オハニアンと一緒に木材を返品するセヴァクを記録していた。両親は、その後いったん彼が帰宅したと考えている。キッチンの食べ物が動かされていたからだ。翌日の夕方、彼は配達のシフトに現れず、勤務先も家族も連絡が取れなくなった。2日間探しまわった末、両親は警察へ行方不明届を出した。
車に残されたもの、消えたもの
警察が車内を調べると、肥料、木材の板、箱に入ったままの新品のノキアの携帯電話、そしてセヴァクがいつも履いていた「蛇よけブーツ」が出てきた。一方、普段使っていた携帯電話は見当たらなかった。家族は「あのブーツなしで奥地の藪に入るなど、あの子は絶対にしない」と証言している。
友人はなぜ「あの道」を知っていたのか
車を見つけたのは警察ではない。父ときょうだい、そしてザレの3人だった。検死官※の認定によれば、ブルーマウンテンズを探そうと言い出したのはザレで、彼は一行をカナングラ・ボイド・ロードへ導いた。公園の入口から約27キロ、行き止まりに車はあった。検死官はのちに、これが単なる幸運な当て推量だったとは「きわめて考えにくい」と述べ、ザレはセヴァクの行き先を知っていたはずだと結論づけている。ただし、なぜ知っていたのかは最後まで解明されなかった。
※ 検死官:英連邦圏に置かれている司法官(コロナー)。事件性のある死や原因不明の死について公開の審問を開き、死因や状況を認定する。犯人を裁く刑事裁判とは別の手続き。
公園史上最大の捜索で、何ひとつ出なかった
捜索は10月25日に始まり、カナングラ・ボイド国立公園で行われたものとしては過去最大の規模になった。歩道、尾根、谷、水系を、ヘリコプター、四輪駆動車、トレイルバイク、ボランティアのブッシュウォーカー、遺体捜索犬、そしてSES※の隊員が17日間かけて潰していった。セヴァクにつながるものは、何ひとつ見つからなかった。捜索の指揮官は検死審問で、もし捜索開始後も彼が生きて動けていたのなら、捜索隊と出くわすか、何らかの方法で注意を引けたはずだと証言している。
※ SES:州緊急事態サービス。オーストラリア各州にある災害・救助対応組織で、実働の大半は訓練を受けた無償のボランティアが担っている。山岳での遭難捜索にも出動する。
大麻の小規模栽培と「ゲリラ栽培」への関心
捜査の過程で、セヴァクが小規模に大麻を栽培していたことが分かった。複数の友人が検死審問で、彼が人の来ない藪の奥に栽培地を作る「ゲリラ栽培」に関心を持っていたと述べ、ザレも関わっていたと考えていると証言している。警察は大麻の種と栽培用具、そしてカナングラ・ボイド国立公園やサバイバル技術に関する検索履歴を確認した。車の肥料と木材も、栽培地の準備に向かう人間の荷物として辻褄が合う。ただし捜査では、彼が組織犯罪に関わっていた形跡も、失踪が薬物の借金や暴力と結びついていた形跡も出てこなかった。
そしてもう一つ。ザレ・オハニアンは、最後にセヴァクと会った時期について警察に嘘をついていた。防犯カメラの映像が見つかると、彼は話の一部を変えている。通話記録には、セヴァクが消えたあと彼が何度も連絡を取ろうとした形跡が残っていた。友人たちは検死審問で「ザレは認めている以上のことを知っていると思う」と述べたが、なぜ車の場所が分かったのかと問い詰めても、彼は説明を拒み続けた。警察は再聴取を予定していた。だが2016年、ザレはブラジルで死亡する。体内に隠して運んでいたとされるコカインのカプセルが破裂したためだった。彼が何かを知っていたとしても、それは彼と一緒に消えた。
主な仮説
仮説1:栽培地の下見中に起きた滑落・遭難
もっとも単純で、もっとも支持されているシナリオ。肥料と木材、押収された栽培用具、公園とサバイバル技術の検索履歴——すべてが「これから藪の奥へ入っていく人間」の姿を描いている。人目につかない場所を選ぶ以上、行き先は歩道から外れた斜面や谷になる。そこで足を滑らせれば、数十メートル下の見えない谷底まで落ちる地形だ。遺体が茂みや岩の裂け目に入り込めば、真上を捜索隊が歩いても気づかない。ただしこの説は、彼が「蛇よけブーツ」を車に置いていった理由を説明できない。
仮説2:ザレが隠していたのは「事件」ではなく「栽培」だった
検死官が認定したのは「ザレは行き先を知っていた」ことであって、「ザレが死に関与した」ことではない。この仮説では、彼が黙り続けた理由はもっと即物的だ。場所を説明すれば、自分も栽培に関わっていたと認めることになる——そう考えれば、車を見つけさせておきながら理由だけは言えないという矛盾した行動にも、いちおうの筋は通る。ただしこの説も、彼がなぜ最後に会った時期について嘘をついたのかまでは説明しきれない。
仮説3:第三者が関わった可能性
人の来ない藪に大麻の栽培地を作るという発想は、彼だけのものではない。すでに誰かが使っている場所に踏み込んでしまえば、相手にとっては見られたくない現場を見られたことになる。あるいは、そもそも彼自身が車を運転してあの林道の終点まで行ったのかどうかも、証明はされていない。ただし捜査は、組織犯罪との接点も、借金も、報復の痕跡も見つけていない。可能性として残っているだけの仮説である。
仮説4:検死官が排除しきれなかった「自死」の可能性
検死官は最終的に、事故・自死・第三者の関与のいずれについても断定するだけの証拠がないと述べた。つまり形式上は、自死も排除されていない。ただし記録に照らせば、この説を支える材料は乏しい。セヴァクには精神疾患の診断歴がなく、自ら命を絶とうとしていたことを示す証拠も出ていない。加えて、肥料と木材の板と未開封の新品の携帯電話は、どう見ても「この先も続けるつもりの人間」の荷物である。検死官が最後まで消しきれなかった三つの可能性の一つとして、ここで触れるにとどめる。
海外の反応
1. 謎の名無しさん
残念だけど、一人で原生林に入って、そのまま帰れなかった——という話だと思う。自分もハイカーで登山系のコミュニティをいくつも見ているけど、経験者が消える、怪我をする、体調を崩す、野生動物にやられる、汚染された水を飲んでしまう、その頻度は普通の人が思っているより桁違いに多い。
2. 謎の名無しさん(>>1への返信)
これが正解だと思う。本当によくある話だ。あそこは険しい土地で、栽培地の下見で歩道を外れて怪我でもしたら、自力では出てこられない。ただ、箱に入ったままの新品の携帯だけは引っかかる。あれは大麻の件専用に、普段の番号と分けて使うつもりだったんじゃないか。
3. 謎の名無しさん(>>2への返信)
自分もその線が一番ありそうだと思う。ただ、あの「蛇よけブーツ」を車に置いていったことだけは、やっぱり不思議なんだよな。藪に入るならまず履くものだろうに。
4. 謎の名無しさん
ブルーマウンテンズだぞ。密で、容赦なくて、起伏だらけの藪だ。歩道から10メートル外れて方向を見失っただけで、二度と見つからないことがある土地なんだよ。
5. 謎の名無しさん
それと、この手の話で「経験者だった」という事実は過大評価されすぎだと思う。経験があるからこそ、慣れと自信で馬鹿な賭けに出てしまうことがある。初心者なら絶対に近づかない斜面に、経験者は平気で足を踏み入れるんだ。
6. 謎の名無しさん(>>5への返信)
慣れは油断を生むからね。しかもそれ以前の問題として、どれだけ経験を積んでいても、心臓発作のような急変や、踏んだ地面が崩れるような事故には勝てない。むしろ経験者ほど、人が行かない、到達しにくい、それだけ危険な場所へ入っていく。
7. 謎の名無しさん
ブルーマウンテンズの住民だけど、準備もせずに藪に入った旅行者が消えるのは、ここでは日常茶飯事だよ。地元の熟練ブッシュウォーカーですら、ちょっと歩いてくると言って出かけたきり、何年も経ってから斜面の底で遺体が見つかる。謎でも何でもない。この山は本当に危ない。一歩踏み外せば、それで終わりなんだ。
8. 謎の名無しさん
遺体捜索犬が空振りしたことを「だから遺体はあそこにない」の根拠にする人がいるけど、犬を買いかぶりすぎだと思う。深い谷では風が上から下へ吹き下ろすし、匂いは水に流されるし、岩の裂け目に落ちていれば地表まで上がってこない。17日間何も出なかったのは、あの地形なら十分あり得る。
9. 謎の名無しさん
ザレが車のありかに見当をつけられたこと自体は、必ずしも後ろ暗さの証明にはならないと思う。特に二人が山仲間だったのなら。自分にも友人と二人でしか行かない場所がいくつかあって、もしその友人が消えたら真っ先にそこを見に行く。外から見れば怪しく映るかもしれないけど、実際には何も後ろ暗いことはない。
10. 謎の名無しさん(>>9への返信)
同意。あれは友人なら知っていておかしくないことだと思う。むしろ彼が見つけられたという事実のほうが、自分には「山での不慮の事故」に傾く材料に見える。
11. 謎の名無しさん
場所を知っていたことと、問い詰められても説明しなかったことは、分けて考えたほうがいい。前者は山仲間なら普通にあり得る。でも後者は普通じゃない。友人の家族が目の前で泣いているのに、「なぜここが分かったのか」だけは最後まで言えなかったんだから。
12. 謎の名無しさん
そもそも、あの車を本人が運転して行った証拠はあるんだろうか。別の場所で何かが起き、車だけを誰かがあそこへ置いた。そのうえでザレが皆をそこへ導けば、山での悲劇として片付く。だいたい、その日の夕方に仕事のシフトが入っている人間が、奥地の栽培地に本格的に取りかかろうとするだろうか。単純な答えが正しいことが多いのは分かっているけど、ザレの知識と、いつものブーツを履いていなかったことだけは引っかかる。
13. 謎の名無しさん(>>12への返信)
ザレの死に方を考えると、彼が違法薬物の世界に深く足を突っ込んでいたのは間違いないし、セヴァクの栽培計画にも関わっていたんだろう。ただ、もし彼が車を置いたのなら、なぜ肥料や栽培用の材料をわざわざ残した?あれは捜査の目を自分の側にまで呼び込みかねない材料だ。無実の単独ハイキングが失敗した、という絵にしたいはずだろう。
14. 謎の名無しさん(>>13への返信)
無実のハイキングに見せかけたい、とまでは言っていないよ。理由はどうあれ「彼は山にいて、事故か遭難に遭った」と見えればいい。それだけで警察も地域も家族も山に張り付くし、本当に起きたことから目が逸れる。材料を残したのは単なる詰めの甘さかもしれないし、危ないことをしに行っていたと匂わせるためかもしれない。
15. 謎の名無しさん
検死官が言ったのは「幸運な当て推量とは考えにくい」であって、「ザレが殺した」ではないんだよな。この二つは全然違う。行き先を知っていた理由が二人で作ろうとしていた栽培地だったのなら、口を割れないのは当然だ。説明した瞬間、自分の罪を認めることになる。
16. 謎の名無しさん
単純な答え——藪で迷って死んだ——が一番ありそうなのは分かる。ただ、彼に犯罪がらみのつながりが一切なかったと本当に断言できるんだろうか。実際にはなくても、本人が「自分にはつてがある」と思い込んでいた可能性もある。取引のつもりで呼び出されて襲われた、という筋書きも一応は描けてしまう。
17. 謎の名無しさん(>>16への返信)
ザレが体内に隠して薬物を運ぼうとして死んだと知って、自分の中では組織的な流通との接点はほぼ確定した。違法な栽培地が集まる場所では、この手の話は珍しくない。カリフォルニアのハンボルト郡——大麻栽培地帯として知られ、失踪者の多さでも有名な土地——の話とそっくりに読める。
18. 謎の名無しさん
そこは慎重にいきたい。ザレが2年後にどう死んだかは、2014年にセヴァクに何が起きたかを直接には語らない。捜査は組織犯罪との接点も、借金も、報復の形跡も見つけていないんだ。藪の奥に自分用の畑を作ろうとしていた若者を、いきなりカルテルの物語に載せるのは飛躍が過ぎると思う。
19. 謎の名無しさん
ブルーマウンテンズに行ったことがあれば、答えはかなり明白に思える。藪に入って、落ちた。あそこでは崖から、岩場から、急斜面から人が落ちるのは本当によくあることだ。正直に言うと自分が最初に思い浮かべたのは別の可能性だったけど、藪の奥に栽培地を作ろうとしていて道具まで積んでいたと読んで、その考えは引っ込めた。
20. 謎の名無しさん(>>19への返信)
同感。いかにもブルーマウンテンズで起きそうな話だ。熟練のブッシュウォーカーでも普通に危ない目に遭う。特に、整備された歩道から外れた瞬間にね。
21. 謎の名無しさん
オーストラリアには人を襲う大型の捕食動物こそ少ないけど、その代わり何千キロにもわたって藪が続いていて、そのほとんどが岩だらけだ。毒を持つ生き物もいるし、記録の残っていない古い坑道や洞窟も転がっている。彼も何かに目を引かれたか、分かれ道で右ではなく左へ行って、どこかの穴に落ちたんじゃないかと思う。あの山を歩くというのは、そういう可能性ごと引き受けることでもある。
22. 謎の名無しさん(>>21への返信)
記録の残っていない旧坑道という指摘は重い。ああいう縦穴は入口が草に覆われていて、上から見ても分からないことがある。落ちてしまえば声も届かないし、匂いも上がってこない。捜索隊がすぐ真上を通っていても、誰も気づかないまま終わる。
23. 謎の名無しさん
うちの義理の母が、この捜索に加わった熟練ブッシュウォーカーの一人だった。当時のことは今でも家でときどき話題に出る。どこを向いても救いのない、本当に悲しい出来事だったよ。
24. 謎の名無しさん
17日で捜索が打ち切られたことを責める気にはなれない。あの規模の原生林に、生存の可能性が消えた後も人と機材を張り付け続けるのは無理だ。ただ家族にとっては、打ち切りの日が「探してもらえる最後の日」になる。そこから先は、自分たちだけで探し続けるしかない。
25. 謎の名無しさん
うわ、なんて偶然。ちょうどこの事件のことを考えていたところだった。彼のきょうだいが出演した『ユー・キャント・アスク・ザット』の回を、最近見返したばかりで。余談だけど、あれは本当によくできた番組で、見られる環境がある人には強くすすめたい。
26. 謎の名無しさん(>>25への返信)
家族が自分の言葉で語るのを聞くと、この手の事件の見え方が変わるよね。ネットで仮説を並べているとつい忘れるけど、あの車の持ち主には毎日帰りを待っている人たちがいて、その待ち時間がもう11年続いている。
27. 謎の名無しさん
オーストラリアから。行方不明の人の話は本当に胸が締めつけられる。どこで、いつ、何が起きたのか、まだ誰にも分からない。それでも知られること自体が力になると思っているから、こうして話題にしてくれるのはありがたい。セヴァクに答えが届きますように。
28. 謎の名無しさん(>>27への返信)
自分もオーストラリア在住なんだけど、この件は国内の他の行方不明事件に比べて、報道も注目もずいぶん少なかった印象がある。家族がずっと探し続けている答えに少しでも早くたどり着けるように、こうして知られてほしい。
29. 謎の名無しさん
2019年の法的死亡宣告というのは、家族にとってどういう時間なんだろう。行政上の手続きは進むけれど、どこで、どうやって、という肝心の部分は空欄のままだ。銀行口座もパスポートも携帯電話も、2014年10月以降まったく動いていない。それでも、遺体が戻らない限り終われないものがある。
30. 謎の名無しさん
自分がずっと考えているのは、車に残されていた荷物のことだ。肥料と、木材の板と、箱を開けてもいない新品の携帯電話。あれは全部「またここに戻ってきて続きをやるつもりの人間」の荷物なんだよ。誰かに消されたのか、自分で足を踏み外したのかは分からない。でも少なくとも、あの日の彼は戻ってくるつもりだった。
未解決の謎
セヴァク・シモニアンの失踪が11年経っても解けないのは、選ぶべき仮説が足りないからではない。むしろ逆で、どの仮説も決定打を欠いたまま並んでいるからだ。検死官が「事故とも自死とも第三者の関与とも断定できない」と書いたのは、判断を避けたからではなく、判断するための材料が本当に何も出てこなかったからである。
いちばん筋が通るのは、やはり事故だろう。栽培地を探して歩道を外れ、人の来ない斜面で足を滑らせた——それだけで、あの地形なら遺体は永久に見つからなくなる。ブルーマウンテンズに住む人ほど、この結論を淡々と受け入れているのが印象的だった。彼らにとって、山で人が消えるのは謎ではなく、起こり得る事故なのだ。
それでも、二つの引っかかりが残る。一つは、いつも履いていた「蛇よけブーツ」が車に残されていたこと。もう一つは、ザレ・オハニアンが行き先を知っていた理由を、最後まで誰にも言わなかったことだ。彼が守ろうとしたのが二人の栽培地だったのか、それ以外の何かだったのか——確かめる機会は、2016年のブラジルで永久に失われた。
残されたのは、林道の終点に停められた一台の車と、そこに積まれたままの肥料と木材の板、そして開封もされていない新品の携帯電話だけである。家族はいまも、答えを探し続けている。
出典:r/UnresolvedMysteries 元スレ / ニューサウスウェールズ州検死官法廷 検死結果(2019年) / SBS Insight

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