【1996年】ユーロ96に沸いた夜に消えた25歳——11人が逮捕され、誰一人起訴されていない事件

【1996年】ユーロ96に沸いた夜に消えた25歳——11人が逮捕され、誰一人起訴されていない事件 未解決事件

1996年6月9日の未明、イングランド南西部の古都バースで、25歳の女性が夜の街から消えた。土曜の夜はサッカーの欧州選手権「ユーロ96」でどの店も沸いていて、彼女もその熱気のなかにいた。ナイトクラブのダンスフロアの端、スツールに腰かけていた午前1時10分ごろの姿。それが、彼女を知る人たちが確実に言える最後の姿だった。

※ ユーロ96:1996年6月にイングランドで開催されたサッカー欧州選手権。開催国だったこともあり、当時のイギリスはパブもクラブも連日試合の話題で埋まっていた。

それから13年が過ぎた2009年10月、高速道路のわきで草を刈っていた保守作業員が、黒いゴミ袋に入った人骨を見つけた。ようやく彼女は家に帰ることができた。それでも、誰がなぜ彼女を殺したのかは、30年たった今も分かっていない。

事件の概要

🗓️ 発生日:1996年6月9日(日)未明

🌫️ 場所:イングランド南西部・バース市ウォルコット通り(遺体発見はサウス・グロスターシャー州ソーンベリー近郊、M5高速道路ジャンクション14)

👤 被害者:メラニー・ホールさん(25歳)/バース大学卒、ロイヤル・ユナイテッド病院の事務職員

🔍 状況:友人らとナイトクラブ「キャディラックス」へ。店内で口論があり、交際数週間だった恋人は先に帰り、本人は店に残った。午前1時10分ごろの目撃を最後に消息を絶つ

🕯️ 発見/結末:2009年10月5日に遺骨を発見、7日に歯科記録で本人と確認。重度の鈍器による頭部外傷。犯人はいまも特定されていない

メラニー・ホールさんは1970年生まれ。ウィルトシャー州ブラッドフォード・オン・エイヴォンで育ち、1995年にバース大学で社会学と心理学の学位を取って、バース市内のロイヤル・ユナイテッド病院で事務職員として働いていた。明るくてよく笑う人で、両親のスティーブさんとパットさんとも仲が良かったと友人たちは語っている。社会人としての生活が、ようやく落ち着きはじめたところだった。

舞台になったバースは人口9万人ほどの小さな街だ。ローマ時代の浴場跡とジョージ王朝様式の街並みで知られる世界遺産の観光都市で、犯罪の少ない土地として地元の人にも認識されていた。中心部はとにかく狭く、どこへ行くにも徒歩数分でたどり着く。そしてもうひとつ、1996年という年の距離感を押さえておきたい。携帯電話を持っている人はまだほとんどおらず、クラブが閉まったあとの帰りの足は、公衆電話でタクシーを呼ぶか、誰かの車に乗せてもらうかの二択だった。連絡手段が手元にない状態で深夜の街に一人残されるということが何を意味するか——この前提が、事件の細部を読むうえで効いてくる。

判明している事実

最後の確実な姿は午前1時10分
6月8日の土曜夜、メラニーさんは友人たちとサッカーを観たあと、交際して数週間だった恋人と、もう一組のカップルとともにバース市街へ出た。向かったのはウォルコット通り90番地のナイトクラブ「キャディラックス」。店内で口論が起き、恋人は先に店を出て、彼女は残った。そして9日の午前1時10分ごろ、ダンスフロアの端のスツールに腰かけている姿が目撃されている。彼女を知る人間が「ここに確かにいた」と言える最後の瞬間は、ここまでだ。

似顔絵の男と、二つの未確認目撃
店内では、彼女によく似た女性に話しかけていた男が目撃されていた。警察が後に公開した電子似顔絵は、20代半ばから後半、中肉、黒い髪と黒い目、太い眉、そして周囲より明らかに洒落た茶色のシルクのシャツに、光を受けて目立つアクセサリー、というものだった。午前1時45分から2時ごろにかけては、同じウォルコット通り88番地の旧教会ホールの前で男女が激しく言い争っていたという未確認の目撃と、女性が近くのポディアム駐車場のほうへ誘われるのを見たという別の証言がある。ただし、いずれも「本人だと確認された」目撃ではない。

※ 電子似顔絵(e-fit):目撃者の記憶をもとに顔のパーツを合成して人相を作る、イギリス警察が用いる手法。手描きの似顔絵より写真に近い見た目になるのが特徴。

13年後、高速道路のランプ脇で
両親が行方不明届を出したのは6月11日。エイヴォン川や周辺の駐車場・路地の捜索、ウォルコット一帯の聞き込みが行われ、同年11月にはBBCの公開捜査番組で再現映像が放送された。それでも決め手は出ず、2004年11月に法的な死亡が認定される。遺骨が見つかったのは2009年10月5日。イングランド西部を南北に貫く幹線道路M5のジャンクション14、北行きの合流路わきで、草木を刈っていた保守作業員が黒いゴミ袋の中の人骨を見つけた。周囲の草むらからもさらに遺骨が出た。10月7日に歯科記録で本人と確認され、検死では頭蓋骨・頬骨・顎の骨折を伴う重度の鈍器外傷が判明する。一方で、その夜身につけていたはずの淡いブルーのシルクの服、クリーム色のロングジャケット、黒いスエードのミュール、小切手帳と銀行カードの入った黒いバッグ、Nextの腕時計、シルバーのピアスは、どれも今日まで一つも出てきていない。

※ クライムウォッチ:BBCが長年放送してきた公開捜査番組。未解決事件の再現映像を流して視聴者からの情報提供を募るもので、イギリスでは重大事件の捜査の節目に使われる定番の手段になっている。

青いロープに残った微量のDNA
遺体は黒いゴミ袋に包まれ、青いポリプロピレン製のロープで何重にも縛られていた。太さ4ミリの、建設現場でケーブルを引くのに使われるようなありふれた種類のものだ。警察は、遺棄は殺害から数日以内に行われたとみている。場所の選び方にも儀式めいたところはなく、車を停め、斜面を降り、数分で走り去れるという実用一点張りの判断に見える。そしてこのロープから、遺骨の発見から何年も経って部分的なDNAが採取された。2019年10月に公表された時点で、専門家はこれを「壊れやすいが有望」と表現している。データベースを検索しただけで犯人の名前が出てくるような強いプロファイルではない。ただ、根拠のある容疑者が浮かんだときに、状況証拠を立件の線まで押し上げるてこにはなりうる、という位置づけだ。

11人の逮捕、起訴ゼロ、そして30年目の再呼びかけ
2003年には2人が逮捕され、バースの南8キロほどにあるインゲルスバッチの養豚場が捜索されたが、何も出なかった。2009年と2010年にも逮捕があり、2013年には1996年夏の捜査線上に白いフォルクスワーゲン・ゴルフが浮かんで、新たな目撃の呼びかけが行われている。2016年6月には、ロープのDNAを受けて45歳の男が逮捕された。2019年10月の時点で、逮捕された人数は計11人。起訴された人間は、そのうち一人もいない。そして2026年3月4日、BBCの公開捜査番組があらためてこの事件を取り上げ、捜査を率いるベン・ラベンダー主任警部が生放送で情報提供を呼びかけた。慈善団体クライムストッパーズは、逮捕と有罪判決につながる情報に最大2万ポンドの懸賞金を提示している。番組には父のスティーブさんと、きょうだいにあたるドミニクさんが出演した。

主な仮説

仮説1:クラブで声をかけた「似顔絵の男」による犯行

もっとも素直な読み方である。ただしこの説には二つの難所がある。ひとつは、30年かけても彼が名乗り出ることも特定されることもなかったこと。ただ話しかけただけの無関係な客なら、度重なる公開捜査のどこかの段階で自分から出てきてもよさそうなものだ。もうひとつは、騒ぎにならずに彼女を店の外へ連れ出せた説明がつきにくいこと。混み合った店内で、面識のない相手が抵抗も悲鳴もなしに女性を連れ出すのは、そう簡単ではない。

仮説2:もともと面識のあった人物による犯行

近年、捜査を率いる立場の人間が「メラニーさんは犯人を知っていた可能性がある」という見立てを公の場で口にしている。これは証明された事実としてではなく、人々の記憶を掘り起こすための呼びかけだ。「夜の街で出会った見知らぬ男」から、「1990年代半ばの彼女の生活圏を通り過ぎていた顔見知り、あるいはその一歩手前の人たち」へ視線を移してほしい、という趣旨である。店の外へ自然に連れ出せたことも、深夜に車を出せたことも、この説なら無理なく説明がつく。ただし裏づけがあるわけではなく、特定の誰かを指した発言でもない。

仮説3:最初の現場は建設現場や資材置き場だった

ロープとゴミ袋の出どころに注目する見方。4ミリの青いポリプロピレンロープは建設現場の定番で、大型のゴミ袋も、鈍器になりうるものも、同じ場所で一度に揃う。この説が正しければ厄介な含みも出てくる。ロープに残ったDNAが犯人のものとは限らなくなるからだ。現場で作業員が結んだ跡だという可能性が残る。裏を返せば、そのロープが切られ結ばれた場所を特定できれば、「そこに出入りできた人間」という形で範囲を絞れることにもなる。

仮説4:別件で有罪になった殺人犯による犯行

ネット上でくり返し名前が挙がるのが、タクシー運転手だったクリストファー・ハリウェルである。彼が殺害して有罪判決を受けた2人のうち1人は、やはりナイトクラブで最後に目撃された女性だった。ただしエイヴォン・アンド・サマセット警察は、この事件と彼を結びつける証拠はないと明言している。地理的にも、彼の活動圏だったスウィンドンとバースは60キロ近く離れていて、客を乗せて人目のない場所へ向かうという彼のやり方とは距離感が合わない。そもそもメラニーさんがタクシーに乗ったという目撃も、公衆電話でタクシーを呼んだ形跡も出ていない。この説は、いまのところ推測の域を出ていない。

海外の反応

1. 謎の名無しさん
ずっと引っかかっているのが、別件で有罪になったタクシー運転手のクリストファー・ハリウェルが関わっていないかという線。彼が殺した2人のうち1人は、やはりナイトクラブで最後に目撃された女性だった。

2. 謎の名無しさん(>>1への返信)
あの男の被害者が2人で打ち止めだとは、どうしても思えない。犯行の間に9年も空いているのが不自然すぎる。まだ見つかっていない被害者か、彼と結びつけられていない事件が残っていると思っている。

3. 謎の名無しさん(>>1への返信)
ガーディアンが2019年の記事で触れているけれど、過去に彼の名前がこの事件に結びつけられたことはあっても、エイヴォン・アンド・サマセット警察は「結びつける証拠はない」とはっきり否定している。ネット上の推測が先行しているだけだと思う。

4. 謎の名無しさん(>>1への返信)
地理的にも少し苦しい。スウィンドンとバースは60キロ近く離れていて、客を乗せて裏通りに入るという彼のやり方とは距離感が違う。そもそもメラニーがタクシーに乗った目撃も、公衆電話でタクシーを呼んだ形跡も出ていないんだよな。

5. 謎の名無しさん
長い書き込みを謝る必要なんてない、こういう丁寧なまとめが一番読みたいやつだ。アメリカに住んでいるせいか、この事件は今まで一度も耳にしたことがなかった。事件への関心って、まず地元、次に国内、最後にようやく国外へと広がるものなんだろうな。

6. 謎の名無しさん
本当に怖いのは、刑務所にいるか死んでいるかでない限り、犯人は今もどこかで普通に買い物をして普通に会話しているということ。周りの誰ひとり、その人が何をしたか知らないまま30年が過ぎている。

7. 謎の名無しさん
バース出身なので、この事件はずっと頭の片隅にある。同じバースで1980年代に起きたメラニー・ロードさんの事件(30年以上たってようやく解決した)と並べて、夜遊びの支度をしている私たちに親がよく言っていた。友達と固まっていろ、誰か一人だけで帰らせるな、と。あの二つの名前のおかげで無事だった地元の女の子は、たぶん少なくない。

8. 謎の名無しさん
当時のバースが安全そのものだったかというと、そうでもない。同じころこの地域では別の連続性犯罪の捜査も続いていて、地元の女性はそれなりに警戒していた。「静かで安全な街だったのに」という記憶は、後から均されたものかもしれない。

9. 謎の名無しさん
口論があったとされる場所について一つ補足しておくと、クラブのすぐ横というわけではない。バースの中心部はとにかく狭くて、どこへ行くにも徒歩数分という距離感なので、あの一帯には他の店も住宅もいくらでもある。「近くで口論があった」という情報だけで本人と結びつけるのは、たぶん早い。

10. 謎の名無しさん
高速道路わきの斜面が遺棄場所に選ばれるのは、実はそれほど意外ではないと思う。ああいう交通の縁にあたる土地は、誰の目も行き届かない。電車に乗っていても、ここなら何年も見つからないだろうという斜面が窓の外にいくらでも流れていく。

11. 謎の名無しさん
当時の恋人は捜査の対象から完全に外れたのだろうか。報道を追っても、そこがどう処理されたのかだけがすっぽり抜けている。何をめぐって口論したのかも、彼が店を出たあとどこへ向かったのかも、公表されている情報の中には見当たらない。

12. 謎の名無しさん(>>11への返信)
身近な人間から順に確認していくのは、疑いをかけているというより捜査の手順で、警察が真っ先にやったはずのことだ。実際、その後の30年で彼が容疑者として名指しされたことは一度もない。情報が出てこないのは、そこが早い段階で片付いたからだと考えるほうが自然だと思う。

13. 謎の名無しさん
そもそも午前1時10分より後の目撃が全部本人だったと、100パーセント言い切れる人は誰もいない。「似ている女性」止まりの証言ばかりだ。深夜で、酒も入っていて、注意も散漫な状況での人違いはまったく珍しくない。

14. 謎の名無しさん
ロープの話がいちばん気になっている。あれは1本の長いロープではなく、4本の切れ端を繋いだもので、しかも袋を縛る以外に用途の分からない結び目がいくつも残っていたという。建設現場でケーブルを引くのに使われて、そのまま捨てられていた類のものだろう。だとすると、ロープから出たDNAが犯人のものとは限らない。

15. 謎の名無しさん(>>14への返信)
その見方が正しいなら、資材置き場か建設現場が最初の現場だった可能性が出てくる。ゴミ袋もロープも、鈍器になるものも、全部そこで手に入るからだ。事件のあった週に、最後の目撃地点と遺棄現場を結ぶ線の上で出た侵入・器物損壊の通報を洗い直す価値はあると思う。

16. 謎の名無しさん
数年前まで、仕事でM5のジャンクション14の北行きランプを毎日通っていた。あの場所がこんな事件の現場だったとは知らなかった。ただ、バースから出るのにあそこを通るのは直行ルートではないんだよな。私はブリストル北部から通っていたから、なおさらそう感じる。

17. 謎の名無しさん(>>16への返信)
直行ルートじゃないからこそ、土地勘のある人間の選択に見える。地図を広げて選んだのではなく、暗い中でも降りられる斜面だと体で知っていた誰か。しかも真夜中にバースから北へ向かう理由があった人間、ということになる。

18. 謎の名無しさん
骨になった状態で2009年に見つかったのに、1996年に亡くなったとどうやって確認できたんだろう。13年ぶんの幅があると、亡くなった時期を絞るのはかなり難しいはずなのに。

19. 謎の名無しさん(>>18への返信)
警察は、殺害から数日のうちに遺棄されたと見ているらしい。包み方も縛り方も時間をかけて計画した跡がなくて、とにかく急いで処理したように見えるとのこと。それに、生きていた痕跡が1996年6月9日を境にぴたりと途切れている。

20. 謎の名無しさん
あの似顔絵が決め手にならないのも分かる気がする。20代後半、中肉、黒い髪に太い眉——これだとイギリスの白人男性のかなりの部分が当てはまってしまう。むしろ茶色のシルクシャツという服装のほうが、手がかりとしてはまだ強い。

21. 謎の名無しさん
読んでいてe-fitという単語で手が止まった。イギリス以外の読者には馴染みのない言葉だから、一言でいいので説明を添えてもらえると助かる。知らない専門語でつまずくと、そこで話から意識が離れてしまうんだ。

22. 謎の名無しさん(>>21への返信)
イギリスの刑事ドラマを普通に見ていれば出てくる言葉だし、そもそも今のコメントを書く時間で調べがつく。新しい言葉に出会うたびに身構える必要はないと思う。単語が一つ分からないだけで、話の筋は十分に追えるはずだ。

23. 謎の名無しさん
私は消えた持ち物のほうが気になる。淡いブルーのシルクの服、クリーム色のロングジャケット、黒いスエードのミュール、小切手帳とカードの入った黒いバッグ、Nextの腕時計、シルバーのピアス。遺体は袋に入れて捨てたのに、持ち物だけは別に処分している。慌てていたなら一緒に放り込みそうなものなのに。

24. 謎の名無しさん(>>23への返信)
屋根裏や物置に押し込まれたまま、持ち主が亡くなって遺品整理で中古に流れる——というのは実際に起きることだ。30年ものになると、当時を何も知らない誰かの手元にある可能性のほうが高い。警察が持ち物のリストを出し続けているのは、そういう日を待っているからだと思う。

25. 謎の名無しさん
結び方には職業の癖が出る。同じ結びを毎日繰り返している人の手つきは、素人のそれとは形がはっきり違うものだ。ロープに残っていた余分な結び目を、その人の仕事の痕跡として読み解ければ、絞り込みの軸になるかもしれない。

26. 謎の名無しさん
1996年という年を、今の感覚で読んではいけないと思う。携帯電話を持っている人はまだほとんどいなくて、クラブを出たあとの帰りの足は、公衆電話でタクシーを呼ぶか、誰かの車に乗せてもらうかの二択だった。連絡を取る手段が断たれた状態で、深夜の街に一人取り残されるというのがどういうことか。

27. 謎の名無しさん(>>26への返信)
そう、その時代だからこそ「送っていくよ」の一言が自然に通ってしまう。知らない相手でも、友人の知り合いでも、断る理由を探すほうが面倒に感じる場面はいくらでもあった。悪意を持った人間にとっては、それが一番手間のかからない方法だったはずだ。

28. 謎の名無しさん
30年のあいだに、人の事情は変わる。当時は職場での立場や家庭の事情、あるいはその人自身が別の後ろ暗いものを抱えていて言えなかったことが、今なら言えるという人はいるはずだ。警察が節目ごとに呼びかけを続けているのは、その一人を待っているからだろう。

29. 謎の名無しさん(>>28への返信)
懸賞金の額より効くのは「もう怖くない」という状況の変化だと思う。当時怖かった相手が死んだ、離婚した、縁が切れた——そういう変化で口が開くケースは実際にある。金額を積み上げるより、そちらのほうが筋がいい。

30. 謎の名無しさん
ご両親が30年ものあいだ、記者会見で同じ電話番号と同じ名前を繰り返してきたという事実が、一番こたえる。「これは終身刑のようなものだ」と語っていたのを読んで、しばらく言葉が出なかった。求めているのは奇跡ではなく正直な一言だけだ、というあの訴えが、いつか誰かに届いてほしい。

未解決の謎

この事件の中心には、いまも「クラブの中から外までの、ほんの数百メートルと数十分」という空白がある。午前1時10分に彼女はスツールに座っていた。午前2時ごろ、そこから角を曲がったあたりで男女が言い争っていたという未確認の目撃がある。この二つの断片の間に何が起きたのかが分からないまま、30年が過ぎた。

2009年に遺体が見つかったことで、分かったことは確かにある。彼女が頭部への激しい暴行で亡くなったこと。遺棄は殺害から間もない時期だったこと。犯人が黒いゴミ袋と青いロープを用意できる環境にいたこと。そしてM5のジャンクション14という、地図を眺めて思いつく場所ではなく、体で知っていないと選べない斜面が使われたこと。それでも、肝心の「誰が」という一点だけは空白のまま残った。11人が逮捕され、全員が起訴されずに帰されている。

残っている線は三つだ。ロープに残った壊れやすい部分DNA。一つも出てこない持ち物。そして、あの夜バースにいた人たちの記憶。どれも単独では決め手にならないが、この三つは互いを補い合える。名前がひとつ浮かべば、弱いDNAが意味を持ちはじめる。中古市場に流れた時計やピアスが一つ出てくれば、そこから誰かの家に線が伸びる。捜査関係者が「解決可能な事件だ」と言い続けているのは、材料が保存されていて、時間の幅も地図も狭いからだ。

そして2026年3月、事件から30年という節目を前に、捜査は再び公開の場に出てきた。両親はずっと、奇跡を求めているのではないと語ってきた。ほしいのは正直な一言だけだ、と。当時は言えなかった、あるいは大したことではないと思って黙っていた——そんな記憶を抱えたままの誰かが、まだどこかにいる。キャディラックスからM5の合流路までの距離は、車ならわずかなものだ。その道筋を、頭の中で何千回もたどってきた人間が、きっと一人はいる。

出典:r/UnresolvedMysteries 元スレThe Guardian(2019年10月4日)Sky News / エイヴォン・アンド・サマセット警察 公式発表(2026年3月4日)

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