「ガス室は怖くない、楽園へ早く行けるだけだ」51年後に解けたゾディアック340暗号の中身

「ガス室は怖くない、楽園へ早く行けるだけだ」51年後に解けたゾディアック340暗号の中身 未解決事件

1969年11月、サンフランシスコの新聞社に340個の記号が届いた。連続殺人犯ゾディアックが「一面に載せてくれ」と書き添えた暗号である。FBIの暗号班が挑み、その後も世界中の愛好家が手を出したが、誰にも読めないまま51年が過ぎた。

解いたのは捜査機関ではなかった。2020年12月、アメリカ、オーストラリア、ベルギーに住む3人の民間人が、約65万通りの読み順をコンピューターで試し、ようやく文章を取り出した。そこに書かれていたのは「ガス室は怖くない、楽園へ早く行けるだけだ」という強がりで、犯人の名前はどこにも無かった。

この暗号は、同じ文字に複数の記号を割り当てる同音換字※に、記号の並び順を入れ替える転置※を重ねたものだった。読み順が分からない限り、どれだけ記号を数えても意味のある文章にならない。

※ 同音換字:Eのようによく使う文字に何種類もの記号を割り当て、記号の出現回数から文字を推測されにくくする暗号。/転置:文字の順番そのものを決まった手順で並べ替える暗号。

なお、名前が書かれているとされる13文字の暗号は、今回の340暗号とは別物で、いまも解けていない。そちらの話は「私の名前は——」に続く13の記号の記事で扱った。

事件の概要

🗓️ 発生日:暗号の送付は1969年11月8日。解読は2020年12月5日、FBIの確認公表は12月11日

🌫️ 場所:アメリカ・カリフォルニア州サンフランシスコ(送り先はサンフランシスコ・クロニクル紙)

👤 被害者:確認されている死者5人(1968年12月〜1969年10月)。ほかに襲撃から生き延びた2人

🔍 状況:記号340個の暗号「Z340」を犯人が新聞社へ郵送。51年後に民間の3人が解読し、FBIが独自に確認した

🕯️ 結末:解読文に犯人の名前は無く、事件は未解決のまま。FBIは捜査継続中としている

ゾディアックは、1968年12月から翌年10月にかけてサンフランシスコ湾岸で5人を殺害した連続殺人犯で、正体はいまも分かっていない。新聞社に手紙を送り続け、後の手紙では自分の殺害数を37人と主張したが、確認されている数はそれよりずっと少ない。

最初の暗号Z408は、1969年7月末付けの手紙で3つの新聞社に分けて送られた。これは公開から1週間ほどで、カリフォルニア州サリナスの教師ドナルド・ハーデンと妻のベティが解いてしまう。ベティが「文中に kill という語があるはず」と読んだのが糸口だった。その約3か月後に届いたのがZ340である。おどけたカードの追伸には、新しい暗号を一面に載せてほしい、無視されるとひどく寂しいのだ、という趣旨のことが書かれていた。

判明している事実

FBIは1969年の時点で並べ替えを疑っていた
サンフランシスコ市警は1969年11月12日にZ340をFBIへ送り、FBIの研究所は翌13日に受け取っている。同年12月18日付けの報告によると、Z408の解読表を当てはめても文章にならず、FBIは換字と並べ替えを組み合わせた方式の可能性まで調べた。読みは当たっていたことになるが、このときは正しい手順にたどり着けなかった。

20行の暗号は4つに分けて入れ替えられていた
Z340は横17列・縦20行の格子に、63種類の記号を並べたものだ。解読チームの論文によると、最初の9行、次の9行、19行目、20行目の4区画に分かれていて、それぞれ「1つ下へ、2つ右へ」と端を折り返しながら飛ぶ順に読むようになっていた。チェスのナイトの動きに似ていて、犯人は紙とペンだけで作ったのだろうと解読者たちはみている。

約65万通りの中から「ガス室」が浮かんだ
解読者は3人とも捜査機関の人間ではない。アメリカ・バージニア州のソフトウェア開発者デヴィッド・オランチャクは2006年からこの暗号に取り組んでいた。オーストラリアの数学者サム・ブレイク(メルボルン大学の客員研究員)は、同大学のスーパーコンピューターを使って約65万通りの読み順を作った。オランチャクがそれを、ベルギーのプログラマー、ヤール・ファン・エイケが作った解読ソフト「AZdecrypt」にかけていくと、ある読み順から TRYING TO CATCH ME と GAS CHAMBER という語句が出てきた。この語句を固定して計算し直すと、PARADICE や SLAVES が続いて現れた。

解読文は放送された電話の話題と一致した
解読文の全体は次のような内容だった。「俺を捕まえようと、さぞ楽しんでいることだろう。テレビ番組に出たのは俺じゃない。それで俺について言っておきたいことがある。ガス室は怖くない。楽園へ早く行けるだけだ。働かせる奴隷はもう十分にいる。ほかの連中は楽園に着いても何も持っていない。だから死を恐れる。俺は怖くない。新しい人生は楽園で楽なものになると知っているからだ。生は死である」。楽園は原文でも PARADICE と誤った綴りで書かれている。暗号の郵送から17日さかのぼる1969年10月22日、ゾディアックを名乗る男が、著名な弁護士メルヴィン・ベリーの出演するテレビの生番組に何度も電話をかけ、「ガス室には行きたくない」と話していた。その男は後に無関係と判断されている。51年前の出来事と文面が噛み合ったことが、この解読が本物だと判断された理由のひとつである。

作り手の書き損じが解読をさらに難しくしていた
最初の9行で解読表はそろったが、次の9行に当てはめると途中で崩れた。ファン・エイケが調べると、15行目で犯人が記号を1つ飛ばしていて、そこから後ろがずれていた。さらに LIFE IS の2語は並べ替えの手順から外れて、2つ目の区画の右上に残っていた。3人は2020年12月5日にFBIへ報告書を提出した。FBIは独自に確かめ、関係者への連絡を待って12月11日に確認を公表している。論文によると、12月5日はその年の340日目で、狙ったわけではない偶然だったという。3人の解法をまとめた論文は2024年に公開された。

主な仮説

仮説1:暗号の狙いは中身ではなく注目だった

51年かけて出てきたのが挑発だけだったことから、もっとも素直な見方がこれである。オランチャク本人も、解読文を「いつもの目立ちたがりのがらくた」という趣旨の言葉で評した。読ませることより、「新聞が載せて警察が頭を抱える」状況そのものが目的だったとすれば、中身が空でも筋は通る。

仮説2:最初のZ408が解かれたので、わざと難しくした

1週間で解かれた直後に、並べ替えを加えた暗号を送ってきたのは偶然ではない、という見方だ。この解読で「Z340はでたらめな記号の羅列にすぎない」という説は力を失った。計算機も手近に無い時代にこの手順を考えたのなら、解かれないことに相当な自信があったのかもしれない。当時の計算環境で解くのは現実的でなかっただろうとも言われている。

仮説3:テレビの件を打ち消すために書かれた

文章の冒頭近くで「テレビ番組に出たのは俺じゃない」と書いているのは、偽者が注目を集めたことへの苛立ちだという見方である。電話の男が「ガス室には行きたくない」と弱音を吐いたのに対し、本物は「ガス室は怖くない」と言い返した形になる。ただし、読み取れるのはそこまでで、なぜ暗号という形で言い返したのかを説明する材料は無い。

仮説4:最後の語順にはまだ別の読み方がある

末尾の LIFE IS をどこに置くかは解読者の判断に任されている。3人は論文で「生は死である(LIFE IS DEATH)」と末尾に置いたが、置き場所は主観的なものだと認めている。暗号としての解は固まっていても、犯人が最後に何と言いたかったのかは、わずかに揺れが残る。

海外の反応

1. 謎の名無しさん
待って、これは本気でとんでもないニュースじゃないか。半世紀以上も誰も読めなかったものを、今この時代に読める日が来るとは。

2. 謎の名無しさん
称賛は解いた本人たちに送ろう。どうやって解いたのか、動画で順を追って説明してくれている。理屈が分からなくても見入ってしまうよ。

3. 謎の名無しさん
ゾディアックの残りの暗号が、自分が生きているうちに解けるなんて思ってなかった。とくに340は絶対に無理だと思ってた。ただただ呆然としてる。

4. 謎の名無しさん(>>3への返信)
いちばん面白いのは、何十年も「犯人の正体が分かるはず」と挑まれてきたのに、中身が「捕まるのは怖くない」というぼやきだけだったことだね。こんな文章をここまで凝った暗号にする意味はあったのか。

5. 謎の名無しさん
話題になってたから来た初心者なんだけど、ほかの暗号よりとくに340が難しいと言われてたのはなぜ? 字数なら一番長いわけでもないよね。

6. 謎の名無しさん(>>5への返信)
最初の408は1週間ほどで解かれたのに、これは同じやり方がまったく通じなかったから。記号の順番まで入れ替えてあったと確かめられたのは今回が初めてで、並びのまま読んでいた人は全員はずれてた。

7. 謎の名無しさん
意味のある文章が画面に出てきた瞬間の興奮って、どんなものだったんだろう。51年分の答えを自分が最初に読むんだぞ。想像するだけで手が震える。

8. 謎の名無しさん(>>7への返信)
本人に聞いてみたらいいよ。解読者の一人はRedditにアカウントを持ってて、解読したことを自分で投稿してたくらいだから。

9. 謎の名無しさん
俺は今57歳で、70年代の初めは湾岸に住む小学生だった。手紙で子どもの乗ったバスを襲うと脅されてから、毎朝パトカーが来て、警官がタバコとコーヒーを済ませてからバスの後ろについてきた。友達と1日1個だけ質問していいことになって、聞くのは銃のことばかり。その夏まで続いたよ。

10. 謎の名無しさん(>>9への返信)
こういう書き込みが大好きだ。記事で読む事件が、その場で生きていた人の口から出てくると急に本物になる。こういう話だけ集めて読めたらいいのに。

11. 謎の名無しさん
さっきのバスの人が書いてた、警官が吸い殻と発泡スチロールのカップをドブに放り投げるって話、ここまで70年代らしい光景は初めて読んだかもしれない。

12. 謎の名無しさん
要するにこれ、オヴァルチンの解読リング※だろ。何十年もかけて解いたら「オヴァルチンを飲もう」だったってやつの、連続殺人犯版だ。

※ オヴァルチンの解読リング:アメリカの古いラジオ番組が配っていた景品の暗号解読器。映画『クリスマス・ストーリー』で、少年が苦労して解いた秘密の暗号が麦芽飲料オヴァルチンの宣伝だった場面が有名。

13. 謎の名無しさん(>>12への返信)
そう、がっかり感が同じ。「奴隷がいるから楽園は楽だ」って、最初の暗号と同じ話じゃないか。でも冷静に考えたら、名前を書いてくれると期待するほうがおかしかったのかも。

14. 謎の名無しさん
解けたこと自体はすごいけど、結果としては拍子抜けだな。どうかしてる人間のうわごとが、また一つ増えただけに見える。

15. 謎の名無しさん(>>14への返信)
もしかすると、暗号の目的はそれだけだったんじゃないか。警察の時間と労力を無駄にさせること。だとしたら50年以上も成功し続けたことになる。

16. 謎の名無しさん
後の暗号はでたらめだって説には昔から懐疑的だった。あれだけ警察をからかって喜ぶ奴が、中身の無い暗号で満足するとは思えない。最初のが早く解かれたから、難易度を上げてきたんだよ。

17. 謎の名無しさん(>>16への返信)
同感。解けない暗号を作るのは実は簡単で、難しいのは「いつか解ける」ものを作ること。同じ操作をあと何回か重ねるだけで、たぶん永遠に解けなくなってたはずだ。

18. 謎の名無しさん
動画を見たけど、余っている LIFE IS は、最後にぽつんとある DEATH とつなげるんだと思う。「楽園で……LIFE IS DEATH」で終われば、全部きれいに収まるじゃないか。

19. 謎の名無しさん(>>18への返信)
俺は少し違う読み方だな。「新しい人生は楽なものになる」でいったん切って、そのあとに「楽園では生は死だ(IN PARADICE LIFE IS DEATH)」と続くんだと思う。

20. 謎の名無しさん
いやいや、語順を変えて DEATH IS LIFE IN PARADICE、つまり「楽園では死こそが生だ」だよ。この男の言いそうなことを考えると、これがいちばんしっくりくる。

21. 謎の名無しさん
信じてもらえないかもしれないけど、子どものころ、当時いちばん疑われていた男の隣の家に住んでた。庭に入ったボールを取らせてもらおうとドアを叩いたら「入って取りなよ」と言われて、家の中を通って庭まで行った。帰って母に話したら、それはもう取り乱してたよ。子どもの目には普通の家だった。

22. 謎の名無しさん(>>21への返信)
それは親なら卒倒するわ。ただ、その男は結局一度も起訴されずに亡くなったし、後のDNA鑑定でも一致しなかったはず。それでも隣人の記憶はずっと残るんだろうな。

23. 謎の名無しさん
ゾディアックがアメコミ好きだったって話をあまり見かけないのが不思議。衣装、覆面、シンボルマーク、なぞなぞ。どう見てもスーパーヴィランの真似をしてる男だと思うんだけど。

24. 謎の名無しさん(>>23への返信)
間違いなく相当なオタクだよね。パルプ雑誌の悪役だけじゃなく、切り裂きジャックの真似も意識してたと思う。警察を挑発して、新聞社に証拠の品を送りつけるところとか。

25. 謎の名無しさん
次のバットマン映画※の予告を見たら、悪役のリドラーがゾディアックそのままだった。話がきれいに一周して戻ってきた感じがする。

※ 2022年公開の『ザ・バットマン』。マット・リーヴス監督が、リドラー像の参考にしたとしてゾディアックの名を挙げている。

26. 謎の名無しさん
ゴールデン・ステート・キラー※の逮捕で学んだのは、どこかに捕まらなかった老人がまだ生きていて、怯え始めているかもしれないと願ってもいいってこと。

※ ゴールデン・ステート・キラー:1970〜80年代にカリフォルニアで犯行を重ねた連続殺人犯。2018年、DNAの家系調査により70代で逮捕された。

27. 謎の名無しさん(>>26への返信)
いや、怯えてなんかいないと思う。生きてるなら老人ホームで満面の笑みだよ。50年後も話題の中心にいるなんて、あの男には最高のご褒美だし、警察には勝ったまま人生を終えるんだから。

28. 謎の名無しさん
俺の予想では、ゾディアックの正体は驚くほど平凡な男だよ。付き合いの狭い地味な人間で、ホラーや犯罪ものが好きだった。手紙で映画『エクソシスト』に触れてたくらいだしね。たぶん前科も無く、退屈な人生を送ったんだと思う。

29. 謎の名無しさん
残念だけど、13文字の暗号は作者の確認が無いと解きようがない。短すぎて、ぴったり合う答えが山ほど出てしまう。正解を引き当てても、ほかの答えと見分ける方法が無いんだ。

30. 謎の名無しさん
この事件は映画で見た程度の知識しか無いけど、夫婦で一緒に暗号を解いたって話がいちばん好きだな。朝のコーヒーを飲みながら、ガウン姿で殺人犯の文章を解いてる二人を想像してしまう。

未解決の謎

Z340の解読で確かになったのは、ゾディアックが何を書いたかであって、誰が書いたかではない。文章に名前も場所も無かったため、FBIも犯人の特定につながる手がかりは無いと結論した。一方で、暗号の解そのものの確かさは高い。ドイツの暗号研究者の計算では、この方式で答えが一つに絞れる文字数は多くても152字で、340字の暗号はそれを大きく超えている。

裏を返せば、残る2つが解けない理由もそこにある。13文字のZ13と32文字のZ32は短すぎて、それらしい答えをいくら作っても正解と言い切れない。オランチャクも、どれが正しいか判断するのは事実上不可能だと述べている。解読の翌月には、フランスの技術者が2つとも解いたと主張したが、ブレイクは疑問視している。

犯人探しも止まったままだ。2002年には手紙の切手や封筒の唾液から部分的なDNAが取られたが、当時の最有力容疑者とは一致しなかった。2021年には民間の調査団体が犯人を特定したと発表したものの、警察は認めていない。警察が名前を挙げた唯一の容疑者は、起訴されないまま1992年に死亡している。

FBIは2020年の時点で「捜査は続いている」と述べ、それ以上の説明を避けた。51年かけて開けた箱に入っていたのは、追われることを楽しむ男の強がりだった。あの文章を書いた本人がその後どう生きて、どう死んだのか、あるいは2020年の解読のニュースを見たのか、それを知る手段はいまも無い。

出典:r/UnresolvedMysteries 元スレ / Wikipedia / 解読チームの論文(arXiv、2024年) / ABC News(オーストラリア) / The Register / Discover誌

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