1996年5月5日の夜、富山県氷見市に住む当時19歳の女性2人が、家族に「肝試しに行く」と告げて軽乗用車で出かけた。そのあと、友人のポケットベル※に「今、魚津市にいる」というメッセージが届く。それを最後に、2人の消息は途絶えた。魚津市の山あいには、北陸で指折りの心霊スポットとして知られた廃ホテル、通称「坪野鉱泉」があった。2人はそこへ向かったとみられ、手がかりのないまま年月が過ぎるうちに、失踪は「神隠し」とまで呼ばれるようになった。
※ ポケットベル:電話からの呼び出しを受けて、短い数字や文字のメッセージを画面に表示する携帯端末。携帯電話が広まる前の1990年代に、若者の連絡手段として普及した。
車が見つかったのは、それから約24年後の2020年3月だった。場所は廃ホテルではなく、そこから40キロほど離れた射水市の港の海底。きっかけは、失踪から18年たって警察に寄せられた、車が転落するのを「目撃した人物がいる」という情報だった。2021年5月、この経緯を伝える英語の記事が海外掲示板のRedditで紹介されると、4700を超える支持を集め、220件あまりのコメントが付いた。日本でもよく知られたこの出来事を、海外の読者はどう読んだのか。日本の報道で分かっていることを整理したうえで、その反応を紹介する。
事件の概要
🗓️ 発生日:1996年5月5日(日)の夜
🌫️ 場所:富山県。2人が向かったとみられたのは魚津市の廃ホテル「坪野鉱泉」。車が見つかったのは射水市の富山新港(伏木富山港の新湊地区)
👤 行方不明者:氷見市に住んでいた当時19歳の女性2人。友人同士だった
🔍 状況:家族に「肝試しに行く」と告げ、1人の軽乗用車で外出した。友人のポケットベルに「今、魚津市にいる」と送ったのを最後に、連絡が取れなくなった
🕯️ 発見/現状:2020年3月4日、富山新港の海底から軽乗用車が引き揚げられ、車内から人骨が見つかった。同年4月、DNA型鑑定の結果、2人と確認された。富山県警は「現時点では事件性を疑う状況は確認されていない」としている
坪野鉱泉は、魚津市の市街地から9キロほど離れた山あいにあった温泉ホテルの跡だ。1980年代の初めに営業をやめ(廃業の年は報道によって異なる)、建物は取り壊されないまま残された。やがて窓ガラスは割られ、壁は落書きで埋まり、「幽霊が出る」と若者が肝試しに訪れる場所になった。県内外の暴走族のたまり場にもなっていたと報じられている。週刊女性によると、2人も失踪の前に1、2度訪れたことがあったという。
その夜の足取りは、途中までは分かっている。週刊女性によると、氷見市を出た2人は、まず射水市の「海王丸パーク」(のちの報道では「旧海王丸パーク」と表記されている)に立ち寄った。当時、夜になると若者が集まる場所だったという。午後10時すぎには、車が国道8号を魚津市の方向へ走り、途中のガソリンスタンドで給油したことが確認されている。そのあと友人のポケットベルにメッセージが届き、足取りはそこで途切れた。
判明している事実
山を捜しても、手がかりは出なかった
富山県警は、2人が坪野鉱泉に出かけて消息を絶ったとみて、事件と事故の両面で捜査を始めた。ヘリコプターも投入した大がかりな捜索が行われたが、車も2人も見つからなかった。週刊女性が引用している北陸の月刊誌『月刊北國アクタス』1997年6月号の記事には、県警の話として「廃墟ビル周辺では血痕や着衣など被害者の遺留品らしきものは何も見つからなかった」とある。2人が実際に廃ホテルまで行ったのかどうかは、今も分かっていない。手がかりのないまま年月が過ぎるうちに、廃墟で暴走族に襲われたのではないか、北朝鮮に拉致されたのではないか、といった噂が語られるようになった。どれも裏づけのない話だった。
18年後に寄せられた「目撃した人物がいる」という情報
失踪から18年がたった2014年の末、県警に情報が寄せられた。週刊女性によると、1996年のゴールデンウイークに、旧海王丸パークの付近で車が転落するのを目撃した人物がいる、という内容だった。情報を寄せたのが誰なのかは、報道では明らかにされていない。県警はこの情報をもとに調べを進めた。文春オンラインによると、目撃者とされる3人を特定したのは2019年で、話を聞いたのは2020年に入ってからだった。元スレの投稿者は「警察は情報を得てから6年間動かなかった」と書いているが、日本の報道が伝える経緯は、それとは少し違う。ただ、3人の特定までになぜ4年以上かかったのかは、詳しく説明されていない。
「車が後ろ向きに急発進し転落した」
目撃者とされる3人は、いずれも男性だ。報道によると、3人は県警にこう証言した。1996年の大型連休の深夜、港の駐車場に止まっていた車に、若い女性2人が乗っていた。「運転席と助手席に乗っていた女性に声をかけようと近づいた際、車が後ろ向きに急発進し転落した」。そして「怖くなって立ち去った。通報はしなかった」。2人はこの夜、魚津へ向かう前にも同じ場所に立ち寄っている。証言のとおりなら、魚津の方面から地元へ戻る途中で、もう一度そこに寄ったことになる。
2020年3月4日、海底から引き揚げられた車
元スレが紹介した英語メディアの記事によると、県警は証言をもとに金属探知機やダイバーを使って海中を調べ、水深およそ8メートルの海底で車を見つけた。車は2020年3月4日に引き揚げられた。場所は射水市の富山新港(伏木富山港の新湊地区)で、旧海王丸パークがあったあたりだ。坪野鉱泉からは40キロほど離れていて、2人の地元の氷見市と魚津市の間にある。車内からは複数の人骨のほか、車を使っていた女性の名前が入ったガソリンスタンドのカードも見つかったと報じられている。失踪からは約24年がたっていた。元スレのタイトルは「25年後」としているが、これは英語記事が出た2021年から数えた数字とみられる。
DNA型鑑定で身元を確認、死因は特定できず
文春オンラインによると、警察の発表では、見つかった人骨は死後10年以上がたっていて、死因も、年齢や性別も特定できなかった。当初は、車の識別番号や車内の所持品から2人のものとみられていた。その後、DNA型鑑定の結果、遺骨は2人のものと確認された。日本経済新聞は2020年4月、県警が「19日までに」確認したと伝えている。事件か事故かについて、富山県警少年女性安全課の担当者は、週刊女性の取材にこう答えた。「目撃者とされる者については複数回の聴取を行った。何らかの理由で車が海に転落したのはわかっているが、現時点では事件性を疑う状況は確認されていない」。あわせて「今後必要に応じて捜査をしていく」とも説明している。同誌によると、遺族の一人は3人の証言について「全く信用していません」と話した。
主な仮説
仮説1:驚いた拍子の操作ミスによる事故
元スレでいちばん支持を集めた見方だ。深夜の駐車場で、知らない男性たちが近づいてくる。驚いて車を出そうとしたところ、ギアが後退に入っていた。あるいは、下がり始めた車を止めようとして、ブレーキとアクセルを踏み間違えた。目撃証言の「後ろ向きに急発進」と合い、県警の「事件性を疑う状況は確認されていない」という説明とも矛盾しない。弱点は、裏づけになるものが証言しかないことだ。遺骨からは死因も特定できていない。
仮説2:証言そのものを疑う見方
海外でも日本でも根強いのが、「目の前で人の乗った車が海に落ちたのに、3人そろって20年以上も黙っていられるものだろうか」という疑問だ。文春オンラインの筆者も、「警察に通報できない何らかの事情があったと思うのは、下衆の勘ぐりだろうか」と書いている。ただし、これは疑問であって、証拠ではない。県警は3人から複数回話を聞いたうえで、事件性を疑う状況は確認されていないとしている。証言と食い違う事実が公表されたこともない。
仮説3:坪野鉱泉で何かがあったという説
失踪からの24年間、最も広く語られてきた筋書きだ。廃墟が暴走族のたまり場だったことから、そこで事件に巻き込まれたのではないかという噂が生まれ、拉致説まで語られた。だが、車が見つかったのは廃ホテルから40キロ離れた港だった。廃墟の周辺から遺留品は見つかっておらず、2人がそこまで行ったのかどうかさえ確かめられていない。遺骨が2人のものと確認されたことで、拉致説も成り立たなくなった。元スレには「廃ホテルで怖い思いをして、動揺したまま港に寄ったのでは」という推測もあるが、これも想像の域を出ない。
海外の反応
1. 謎の名無しさん
真相はもう分からないだろうけど、これは車の中の2人と目撃した側の両方が、とっさにパニックを起こした結果だと思う。夜の駐車場で人が近づいてきて、驚いて車を出そうとしたらギアがバックに入っていた。車が下がり始めて慌て、ブレーキのつもりでアクセルを踏み込む。駐車場から店に突っ込む事故と同じ仕組みだよ。
2. 謎の名無しさん(>>1への返信)
いちばんありそうな筋だと思う。目撃した側にしてみれば、自分たちが近づいたせいで落ちた、と感じたはずだ。責められるのが怖くて言い出せず、時間がたつほど、ますます名乗り出にくくなる。
3. 謎の名無しさん
交通事故の現場に居合わせたことがあるけど、最初のうちは、そこにいた全員がただ立って見ていた。誰か一人が動いて、ようやく皆が続いた。突然のことが起きると、人は自分で思っているほどまともに動けない。
4. 謎の名無しさん
記事を読む限り、近づいてきた人に驚いて、前に出すつもりがギアをニュートラルかバックに入れてしまったんだろう。若いころ、急いでいて同じ間違いを何度かやった。実はつい数週間前にも、自宅のガレージでニュートラルに入れてしまって、10代のとき以来だなと思ったところ。
5. 謎の名無しさん(>>4への返信)
ニュートラルよりバックだと思う。ニュートラルで転がり始めただけなら、ブレーキを踏めば間に合ったはずだ。「急発進した」という証言とも合わない。
6. 謎の名無しさん
警察は事件性を疑っていないそうだけど、遺骨を調べた結果については詳しい話が出てこない。そこが引っかかる。
7. 謎の名無しさん(>>6への返信)
調べられることが、ほとんど残っていなかったんだと思う。24年も海の中にあったんだから、残るのは骨だけだ。車は水を通すからね。
8. 謎の名無しさん(>>7への返信)
日本の報道を読むと、死因は特定できなかったそうだ。事件性を疑う状況はないというのも、遺骨から分かったことじゃなくて、車や現場の様子と、目撃者から聞いた話を合わせた判断なんだろう。分からないことは分からないまま、というのが正直なところだと思う。
9. 謎の名無しさん
本当に問うべきなのは、情報が入ってから海の中を捜すまでに、なぜ何年もかかったのか、だと思う。
10. 謎の名無しさん(>>9への返信)
日本語の記事を翻訳して読んでみた。2014年に警察に入ったのは「転落を見た人がいる」という情報で、警察が目撃者の3人を突き止めたのが2019年、話を聞いたのが2020年の1月だそうだ。情報を6年間ただ放っておいた、というのとは少し違うみたいだよ。
11. 謎の名無しさん(>>10への返信)
それでも、突き止めるまでに4年以上かかったわけだろう。事情は分からないけど、待っていた家族にとっては長すぎる4年だったと思う。
12. 謎の名無しさん
そもそも目撃した人たちは、深夜の駐車場で、何のためにその車に近づいたんだろう。まずそこが知りたい。
13. 謎の名無しさん(>>12への返信)
廃ホテルの関係者だった可能性は? 閉鎖されていても私有地だから、敷地に入ってきた車を確かめに行った、とか。
14. 謎の名無しさん(>>13への返信)
いや、車が見つかったのは廃ホテルじゃなくて港だよ。廃ホテルは2人の地元から60キロほど離れた山の中で、港は地元とホテルの間にある。当時は夜になると若者が集まる場所だったらしい。報道では、車の中の女性に声をかけようとして近づいた、となってる。
15. 謎の名無しさん
時系列を整理してみる。夜10時すぎに魚津の方向でガソリンを入れて、友人のポケベルに「魚津にいる」と送った。そして深夜には、地元へ戻る途中にある港にいた。つまり帰り道だったわけだ。行きにも寄った場所に、帰りがけにもう一度寄った。それだけのことに見える。
16. 謎の名無しさん
引っかかるのは車の向きだ。海辺に止めるなら、普通は海のほうを向けて止めるだろう。バックしてすぐ海に落ちるほど、岸壁の端を背にして止めていたんだろうか。幅の狭い場所だったのか、まっすぐ下がらずに弧を描いたのか。図でもあれば分かるんだけど。
17. 謎の名無しさん(>>16への返信)
景色を見るためじゃなく、車の中でしゃべっていただけなら、向きは気にしないと思う。それに、当時その岸壁に車止めや柵があったのかどうかも分からない。現場を知らないまま、おかしいと決めつけるのは難しいな。
18. 謎の名無しさん
寝ぼけてギアをバックに入れた経験なら、自分にもある。1984年、ラスベガスの立体駐車場で車中泊をしていたら、警備員が1台ずつ確かめながら近づいてきた。慌てて出ようとしたらバックに入っていて、後輪が車止めを乗り越えて動けなくなった。壁の向こうは大通りだったから、運がよかっただけだ。
19. 謎の名無しさん
アクセルとブレーキの踏み間違いも、ギアの入れ間違いも、本当によく起きる。自分も一度、バックのつもりで前に進んで、スターバックスの店に突っ込みかけたことがある。
20. 謎の名無しさん
車種が気になって調べたら、日本の報道では「軽自動車」となっていた。日本独自の規格の小さな車だそうだ。ギアが勝手に動く欠陥じゃないかという声もあるけど、そう考える根拠は今のところ何もないと思う。
21. 謎の名無しさん
目の前で車が海に落ちるのを見て、3人そろって20年以上黙っていた。中に人が乗っていたのを知っていて、だ。「怖かった」という説明だけで納得しろと言われても、自分には難しい。
22. 謎の名無しさん(>>21への返信)
かばうつもりはないけど、分からなくはない。自分たちが近づいたせいだと責められる、と思い込んだんだろう。アメリカでも、警察と関わりたくなくて通報しない目撃者はいくらでもいる。国の違いというより、人間の弱さの話だと思う。
23. 謎の名無しさん
日本は裁判の有罪率が99%だと聞いたことがある。一度疑われたら終わりだと思って、黙っていたんじゃないかな。
24. 謎の名無しさん(>>23への返信)
その数字はよく誤解されてる。99%というのは、起訴された事件の有罪率※のこと。検察が確実に立証できる事件しか起訴しないから、そうなるんだ。目撃者として名乗り出たら有罪にされる、という意味じゃないよ。
※ 有罪率:日本の刑事裁判で有罪となる割合は99%を超える。ただしこれは起訴された事件に限った数字で、警察が調べた事件のすべてが起訴されるわけではない。
25. 謎の名無しさん
この件は、英語圏では「心霊スポット失踪事件」として紹介されてきた。廃ホテルで暴走族に襲われたとか、北朝鮮に連れ去られたとか、24年のあいだにいろんな噂が語られたらしい。でも結末は、廃ホテルから40キロ離れた港の海の底だった。噂のどれとも違っていたんだ。
26. 謎の名無しさん(>>25への返信)
怖い場所の噂が、かえって皆の目を山のほうへ向けさせてしまったのかもしれないね。「肝試しに行く」と聞けば、誰だってまず廃ホテルを捜す。帰り道の港までは、なかなか考えが及ばない。
27. 謎の名無しさん
池や川に沈んだ車から、何十年も前に行方不明になった人が見つかる。同じことはアメリカでも起きてる。フロリダでは、22年前に消えた男性が、住宅地の池に沈んだ車の中から見つかった※。水の中は、いちばん近くにあるのに、いちばん捜されない場所なんだと思う。
※ フロリダの件:1997年に行方が分からなくなった男性が、2019年、住宅地の池に沈んだ車の中から見つかった。衛星写真に車が写っていることに、以前その近所に住んでいた人が気づいたのがきっかけだった。
28. 謎の名無しさん
まさかこの地名を目にするとは思わなかった。2017年に交換留学で3か月、射水市に住んでいたんだ。田んぼが広がる静かな町で、車が見つかった港のあたりも、夜は本当に静かだった。
29. 謎の名無しさん
スレのタイトルは「25年後」になってるけど、車が引き揚げられたのは2020年3月だから、正確には24年弱だね。25年というのは、元の英語記事が出た2021年から数えた数字だと思う。
30. 謎の名無しさん
日本に住んでいたことがあって、大好きな国だから、こういう話を読むと胸が痛む。何があったのか、全部が分かる日はもう来ないのかもしれない。それでも、2人が家族のもとへ帰れたことだけは、よかったと思いたい。
未解決の謎
2人がどこにいたのかは、24年かかって分かった。分からないままなのは、あの夜、港で何が起きたのかだ。車がなぜ後ろ向きに動いたのかを語っているのは、目撃したとされる3人の証言しかない。遺骨からは死因を特定できず、証言を別の角度から確かめる材料は、公表されている限り見当たらない。県警は「現時点では事件性を疑う状況は確認されていない」としながら、「今後必要に応じて捜査をしていく」とも説明している。
時間についての疑問も残る。3人はなぜ通報しなかったのか。18年たって警察に情報を寄せたのは誰だったのか。そこから3人を特定するまでに、なぜ4年以上かかったのか。元スレで多くの支持を集めたのは、「驚いた拍子の操作ミスと、怖くなって立ち去った目撃者。どちらも人間のとっさの反応だ」という読みだった。その一方で、「怖かった」の一言では20年以上の沈黙を説明しきれない、という声も最後まで消えなかった。国が違っても、引っかかる場所は同じだったことになる。
坪野鉱泉の建物は、もう残っていない。2022年公開のホラー映画『牛首村』のロケ地にもなったが、北陸中日新聞によると、2024年の春から解体工事が進み、跡地はほぼ更地になった。「心霊スポットに消えた2人」という物語は、24年のあいだ、噂とともに広まり続けた。けれども2人がいたのは、廃墟ではなかった。地元へ帰る途中の、若者が集まる港だった。
肝試しに出かけた夜、2人は行きにも同じ港に立ち寄っている。そこから魚津へ向かい、友人にメッセージを送り、また同じ場所へ戻ってきた。分かっているのはそこまでだ。車が海へ落ちるまでの数分間に何があったのかは、今も確かめられていない。
出典:r/UnresolvedMysteries 元スレ / 参考:文春オンライン、週刊女性PRIME、日本経済新聞、北陸中日新聞、TokyoReporter

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