1974年の夏、アメリカ・ニュージャージー州に住む14歳の少女が、自分たちで新聞に出した「ベビーシッター募集」の広告に応じてきた見知らぬ男と会うため、朝のバスにたった一人で乗り込んだ。指定された停留所で降りたところまでは、複数の乗客がはっきりと覚えていた。だが彼女はそのまま忽然と姿を消し、半世紀が過ぎた今も見つかっていない。数日後、家族のもとにかかってきた身代金要求の電話には、背筋の凍るような一言が録音されていた——。
事件の概要
🗓️ 発生日:1974年6月24日
🌫️ 場所:アメリカ・ニュージャージー州バーリントン〜マウントホリー
👤 被害者:マーガレット・エレン・フォックス(当時14歳)
🔍 状況:新聞のベビーシッター募集広告に応じ、「ジョン・マーシャル」と名乗る男と会うため単身バスで移動。降車後に消息を絶つ
🕯️ 結末:現在も未発見。1974年6月28日に身代金1万ドルを要求する電話、2019年にFBIがその音声を公開
マーガレット・エレン・「マギー」・フォックスは1960年生まれ。大家族の中で育ち、きょうだいとはとても仲が良かったという。おしゃれや化粧に関心を持ち始める年ごろだったが、姉妹や親しい女友達が少なく、学校ではいじめにも遭って孤立しがちだったと弟のジョーは語っている。
1974年6月、マーガレットは11歳のいとこリンと一緒に、夏休みの小遣い稼ぎとして地元紙に「ベビーシッターやります」という広告を出した。まさかその広告が、彼女を最後に見る朝へつながっていくとは、家族の誰も想像していなかった。
判明している事実
広告に応じた「ジョン・マーシャル」
1974年6月19日、「ジョン・マーシャル」と名乗る男が広告の番号(いとこリンの家)に電話をかけてきた。5歳の息子のベビーシッターが必要だという。週給40ドル(現在の約260ドル相当)にプールの使用まで付く好条件。リンは11歳で一人バス通いになるため親が反対し、話は14歳のマーガレットに回った。父親は男と電話で何度かやり取りしたが、男は最後まで住所も素性も明かさなかった。
最後の目撃はハイ通りとミル通りの角
6月24日朝8時40分、弟ジョーに見送られてマーガレットはマウントホリー行きのバスに乗車。翌朝、刑事レナード・バーが同じバスに乗ると、2人の女性が彼女を覚えていた。指定どおりハイ通りとミル通りの角で降り、青い目とそばかすの目立つ小柄な少女だったと証言。別の目撃者は、彼女が赤い車の男に「ジョン・マーシャルさんですか」と尋ねる姿を見ていたが、その男は後に無関係と判明した(車はビートルでもなかった)。これが最後の確かな目撃となった。
番号はスーパー内の公衆電話だった
男が指定した電話番号は、マウントホリーの先にあるランバートンのスーパーマーケット店内の公衆電話だった。当局はほぼ計画的な誘拐と判断。事件が報じられると、複数の親から「偽のベビーシッター募集で娘を誘い出そうとした男がいた」との通報が相次いだ。犯人は複数の少女に電話をかけ、応じてしまった一人がマーガレットだった可能性が高い。
身代金要求と「バターの一言」
6月28日、フォックス家に身代金1万ドルを要求する電話がかかってきた。翌日には同じ要求の手紙、6月30日には「取引は無しだ」という2通目の手紙が届いた。2019年6月24日、失踪から45年を機にFBIは録音の一部を公開。そこで男はこう告げていた——「1万ドルは大金かもしれないが、あんたの娘の命はその上に乗ったバターだ」。直後にマーガレットの母が「どちら様ですか」と問う声が入っている。
似顔絵と赤いフォルクスワーゲン
1974年8月、FBIは手配中の男の似顔絵を公開した。白人男性35〜40歳、身長約178cm、体重90〜105kgほど、青い目に赤みがかった金髪の角刈り、白い歯が目立つ人物。赤〜オレンジ色のフォルクスワーゲンに乗るとされ、これは電話の男が「迎えに行く」と告げた車と同じだった。この男は失踪の1か月前にもマウントホリーで少女を誘おうとしたという。
主な仮説
仮説1:あのスーパーを知る人物による計画的犯行
犯人は問題のスーパーに勤めていた「本物のジョン・マーシャル」の名前を騙り、店内の公衆電話番号を連絡先に使った。つまり少なくとも一度はあの店に足を運び、従業員の名前と電話を把握していた人物だと考えられる。同僚に罪をかぶせようとしたのか、たまたま目に入った名前をとっさに借りたのか——いずれにせよ店周辺の地理と人間関係に通じていた者、という点で多くの推理が一致している。
仮説2:赤い車の男、あるいは似顔絵の男
マーガレットが「ジョン・マーシャルさんですか」と声をかけた赤い車の男は、本人の否定によって早々に容疑を外れた。だが「否定を鵜呑みにしただけでは」と疑う声は根強い。さらにFBIの似顔絵が示す「赤〜オレンジのフォルクスワーゲンに乗る男」は、失踪の1か月前にも別の少女を誘おうとしていた。約束の赤い車は目くらましで、実際は別の車で近づいた可能性も指摘されている。
仮説3:身代金の電話と手紙は「便乗犯」の仕業
身代金要求の電話がかかってきたのは失踪から4日後、事件が新聞で報じられた翌日だった。しかも2通目の脅迫状は、当時アメリカを騒がせていた過激派組織「SLA」※を気取った文面だったという。フォックス家は特に裕福でもなく、最初から狙い撃ちされた家庭でもない。ここから「金銭目的の誘拐ではなく、真犯人とは無関係の愉快犯が割り込んだだけ」と見る懐疑派は多い。一方でFBIが45年後にわざわざ音声を公開したことは、捜査側がこの声を本物と考えている裏返しだともいえ、評価は割れている。
※ SLA(シンバイオニーズ解放軍):1970年代のアメリカで、新聞王の孫娘パトリシア・ハーストを誘拐したことで知られる過激派グループ。当時、連日ニュースを賑わせていた。
仮説4:連続犯による犯行だった
「偽のベビーシッター募集」で少女を呼び出す手口は、カナダ・アルバータ州で1981年に起きたケリー・クック事件や、エイミー・ミハリェヴィッチ事件とも酷似している。周到な段取りから見て初犯とは考えにくく、他にも被害者がいた連続犯だったとすれば、真犯人はすでに死亡し、余罪ごと闇に葬られた可能性もある。
海外の反応
1. 謎の名無しさん
電話がかかってきたスーパーに本物のジョン・マーシャルがいた、という点がどうにも引っかかる。犯人はあの店の常連か従業員仲間で、誰かに罪をかぶせようとして名前を借りたんじゃないか。
2. 謎の名無しさん(>>1への返信)
いや、そこまで計算してなくて、たまたま見聞きした名前をその場で使っただけかもしれない。ただどちらにせよ、あの店に一度は足を運んでる人物なのは間違いないよね。
3. 謎の名無しさん
少なくとも犯人はあのスーパーをある程度知ってた。従業員の名前と店内の公衆電話番号を使ってるんだから、最低でも一度は中に入ってる。逆に言えば残された手がかりはそれくらいしかないのが辛い。
4. 謎の名無しさん(>>3への返信)
当時あの周辺の家を片っ端から捜索していれば何か出たかもしれないのに、そこまではやってなかったらしいのが悔やまれる。地道な聞き込みだけで終わらせたのかな。
5. 謎の名無しさん
昔が今よりずっと放任だったのは分かる。でも会ったこともない男のところへ、住所も知らないまま娘を一人でバスに乗せて行かせるって、さすがに信じられない気持ちになる。
6. 謎の名無しさん(>>5への返信)
私は80年代にベビーシッターをしてたけど、それでも親が雇い主の家へ挨拶に行って、住所も電話番号も控えていた。時代のせいだけにしちゃいけない気がするよ。
7. 謎の名無しさん
お父さんが後年「私たちは彼女を守りすぎたくらいだった。本人も過保護だと言っていた」と語っていたらしい。それでこの結末なのが、余計に胸に刺さる。
8. 謎の名無しさん(>>7への返信)
でもさすがに「守りすぎた」の一言では片づけられないよね。相手の顔も住所も知らないまま送り出したのは、当時の基準で見てもかなり無防備だったと思う。
9. 謎の名無しさん
この事件、私の地元のすぐ近くなんだ。70〜80年代の子どもは本当に自由で、今思えば紙一重の場面がいくらでもあった。運が悪ければ自分もこうなっていたかもしれない、と背筋が寒くなる。
10. 謎の名無しさん
「放し飼い育児」の負の面だよね。子どもにある程度の自由は必要だけど、この時代は明らかに振り切れすぎてた。未解決の子ども失踪が80年代以前に山ほどあるのは、たぶん偶然じゃない。
11. 謎の名無しさん
最初に電話に出た女性が「ジョン・マーシャルはここにいません」と答えたの、地味に引っかかる。公衆電話なら普通「ここは店の電話ですけど」って言わない?
12. 謎の名無しさん(>>11への返信)
たぶん「そんな名前の人はいませんよ」くらいの返事を、親が「そういう人は住んでいない」と受け取っただけかも。いたずら電話だと思って適当にあしらった可能性もあるしね。
13. 謎の名無しさん
男は「赤いフォルクスワーゲンで迎えに行く」と言っていたらしい。でも実際は違う車で来て、きょろきょろしている少女に「今日は別の車なんだ」と声をかければ簡単に連れ去れる。赤い車は最初から目くらましだったんじゃないか。
14. 謎の名無しさん(>>13への返信)
だとしたら、彼女が「ジョン・マーシャルさんですか」と尋ねたあの赤い車の男を、警察が本人の否定だけで簡単にシロにしたのが引っかかる。私ならまずそこを疑うけどな。
15. 謎の名無しさん
これは失踪じゃなくて計画的な誘拐だと思う。住所がない=最初から家なんて存在しない。公衆電話を使い、すぐ車に乗せて連れ去る。決まった犯行現場を作らず数秒で終わらせる手口で、あまりに用意周到すぎる。
16. 謎の名無しさん(>>15への返信)
同意。しかも広告に応じた最初の子を狙ったってことは、マーガレット個人が標的だったわけじゃない。誰でもよかった、というのがこの事件の一番怖いところだと思う。
17. 謎の名無しさん
警察が地域中の「ジョン・マーシャル」全員に当たったのは意外だった。普通、犯人が本名を名乗るわけがないのに。でも「確認しなかったせいで取り逃がした」とだけは言われたくないから、地道にやるしかないんだろうな。
18. 謎の名無しさん
45年前の声を聞いて「あれは近所の誰々だ」なんて分かるものかな。私は20年前の知人の声すら思い出せない。よほど特徴的な声でない限り、聞き分けるのは厳しい気がする。
19. 謎の名無しさん
あの録音の声、けっこう特徴的だったよ。FBIの情報提供ページに長年載っていて、エイミー・ミハリェヴィッチ事件のすぐ隣にあった。誰かの記憶に残っていてもおかしくないと思う。
20. 謎の名無しさん
身代金の電話が失踪の4日後、しかも事件が報道された翌日っていうタイミングが引っかかる。手紙は当時世間を騒がせた過激派事件を気取った文面だったらしいし、狙われたのは裕福な家庭でもない。犯人本人じゃなく、事件に便乗した愉快犯の可能性が高いと思う。
21. 謎の名無しさん
だったらなぜFBIは45年も経ってから、しかも音声のほんの一部だけ公開したんだろう。逆に言えば、それだけあの声を本物だと考えている証拠なのかもしれない。
22. 謎の名無しさん(>>21への返信)
たしかに。ただの愉快犯の録音なら、わざわざ半世紀近く温めて公開する意味がない。捜査側は今も「あの声=犯人」と睨んでいる気がする。
23. 謎の名無しさん
手口がカナダ・アルバータのケリー・クック事件にそっくりで鳥肌が立った。あちらも「ベビーシッター募集」で少女を呼び出し、ガソリンスタンドの電話を使い、親は男に一度も会っていない。遺体は数か月後に見つかったけれど犯人は今も捕まっていない。
24. 謎の名無しさん(>>23への返信)
本当に不気味なほど似てる。若い子が新聞や掲示板に出したこういう募集広告が、当時の捕食者にとって格好の入り口になっていたんだね。時代そのものの怖さを感じるよ。
25. 謎の名無しさん
父親がベビーシッターの件で電話をやり取りしていた、というのもよく考えると不自然。あの時代、その手の連絡は普通は母親がやる役回りだったはず。振り返ると最初から違和感だらけの話だったんだよ。
26. 謎の名無しさん
個人的には、真犯人はもう亡くなっていると思う。音声公開が遅れたのは、生前は証拠が足りず動けず、死んだ後に世論へ賭けたからじゃないか。だとすれば真相が出るとしても、記録の中だけかもしれない。
27. 謎の名無しさん(>>26への返信)
同じことを考えてた。プロファイル的にも初犯とは思えない手際で、他にも被害者がいてもおかしくない。もし本人が死んでいるなら、余罪ごと闇に消えてしまった可能性がある。
28. 謎の名無しさん
あの「命はバターだ」という言い回しが頭から離れない。金を要求しているのに、どこか相手を嬲って楽しんでいる響きがある。身代金より、家族を支配して優越感に浸るのが本当の目的だったんじゃないかと思ってしまう。
29. 謎の名無しさん
初めての仕事にわくわくしながら家を出た14歳が、そのまま帰ってこない。ご両親は娘が生きているのか死んでいるのかも分からないまま亡くなったんだよね。想像するだけで胸が締めつけられる。
30. 謎の名無しさん(>>29への返信)
弟さんがバス停まで見送ったのが最後、というのがまた辛い。何十年経っても「あの朝」を思い返しているんだろうな。どうか彼女がどこかで安らかであってほしい。
未解決の謎
事件が半世紀ものあいだ解けない最大の理由は、犯人が「決まった犯行現場」を一切残さなかったことにある。実在しない住所、スーパー店内の公衆電話、そして迎えの車という段取りは、少女を数秒で車に乗せて消えるためだけに組まれていた。物的証拠は脅迫状などから採取された指紋くらいで、それも一致する人物は見つかっていない。捜査線上に浮かんだ12人の関係者は、全員がシロと判定された。
それでも犯人像の輪郭だけは見えている。あのスーパーに少なくとも一度は足を運び、従業員の名前と店内の電話番号を知っていた人物。失踪の1か月前にも同じ手口で少女に声をかけていたとされ、その周到さから初犯とは考えにくい。カナダのケリー・クック事件など、酷似した「ベビーシッター募集」型の誘拐が他にもあることから、連続犯だった可能性も消えていない。
一方で、いつまでも腑に落ちない点も残る。彼女が「ジョン・マーシャルさんですか」と尋ねた赤い車の男が、本人の否定だけであっさり容疑を外れたこと。最初に電話に出た女性の不自然な受け答え。そして身代金の電話が本物だったのか、便乗犯のものだったのか——FBIが45年後に声を公開した今も、答えは出ていない。わくわくしながら家を出た14歳がどこへ消えたのか、それを知る人物はもう口を閉ざしたまま、この世を去ったのかもしれない。

