2018年3月、ドイツのハノーファーから車で出発した30歳の男性が、そのまま消息を絶った。向かった先は、まもなく出産を控えた婚約者が待つポーランド北西部の村。走り慣れた600キロ、7時間ほどの道のりだった。ところが6か月後に彼が見つかったのは、婚約者の家でも道路脇でもなく、生まれ育った村にある両親の納屋だった。しかも後の捜査で、彼が家族に伝えていた行程と実際の足取りが、最初からまったく重なっていなかったことが分かってくる。
事件の概要
🗓️ 発生日:2018年3月28日深夜に出発/最後の連絡は29日午前10時30分ごろ
🌫️ 場所:ドイツ・ハノーファー 〜 ポーランド南東部フトクフ村
👤 当事者:マテウシュ・カヴェツキさん(当時30歳・建設作業員)
🔍 状況:婚約者の出産に立ち会うため愛車で出発。翌朝「渋滞でシュチェチンにいる」と父親に電話したのを最後に消息を絶つ
🕯️ 発見/結末:同年9月12日、実家の納屋で遺体で発見。警察は自死と判断して短期間で捜査を終えたが、遺族は今も再捜査を求めている
マテウシュさんの実家があるフトクフは、ポーランド南東部にある小さな農村だ。いちばん近い町ザモシチまで車で25分、歩けば5時間ほどかかる。2010年代のポーランドでは、こうした農村部の若い男性が仕事を求めて西ヨーロッパの都市へ出るのはごく普通のことで、彼も父親とともにドイツのハノーファーで建設の仕事に就いていた。
婚約者はポーランド北西部のリピア・グーラに住んでおり、二人は数年来の遠距離交際だった。出産予定日が近づいたため、彼は立ち会うつもりで3月28日の23時30分に車を出している。朝の渋滞を避けるための夜出発だった。見送ったのは父親で、そのときの様子におかしなところはなかったという。
判明している事実
「シュチェチンにいる」は事実ではなかった
29日の午前10時30分ごろ、連絡がないのを心配した父親の電話に彼は出て、「国境の渋滞にはまって、まだシュチェチンだ」と答えている。ほぼ同時に婚約者にも「あと2時間で着く」とメッセージを送った。ところが二度目の捜査で、レシートと防犯カメラの映像からこの説明が事実でないことが判明する。彼はそのときまだドイツ国内におり、ハノーファーから列車でオーデル川沿いの国境の町フランクフルト・アン・デア・オーダーへ移動していた。父に告げたシュチェチンは、そこから数百キロも北にある。
国境の町で、身元不明の同行者とホテルへ
30日の朝、彼はオーデル川に架かる橋を歩いて渡り、ポーランド側へ入ったとみられている。ドイツとポーランドの国境はシェンゲン圏※にあり、検問所も入国審査もない。橋を渡っただけでは記録は何も残らない。その日の夜、橋から徒歩5分の町スウビツェのホテルに、彼が別の人物と二人でチェックインしたことが防犯カメラで確認されている。ただしこの人物の性別も年齢も、その後どうしたのかも、警察は一切公表していない。
※ シェンゲン圏:域内の出入国審査を廃止したヨーロッパの枠組み。加盟国どうしの国境には検問所がなく、徒歩でも自由に通過できる。
記録に残る足取りは4月1日の深夜で途切れる
31日、彼はワルシャワ行きの列車に乗り、そこからバスでザモシチへ向かった。ワルシャワからザモシチへは列車のほうがはるかに速いのに、なぜバスだったのかは分かっていない。到着は4月1日の深夜0時ごろ。これが記録に残る最後の移動になった。ザモシチから実家のあるフトクフまでは徒歩で5時間ほど。若いころから通い慣れた道で、深夜であれば人目につかずに歩けた可能性がある。
愛車の青いBMWは今も見つかっていない
彼が乗っていたのは1998年式の青いBMW 525。当時のヨーロッパでは愛好家がつくタイプの車で、SNSにも車と一緒に写った写真が数多く残っている。その車が、鍵ごと消えた。ハノーファー駅の周辺にもなく、ドイツ国内に無数にあるナンバー自動読取装置※にも一度も記録されていない。
※ ナンバー自動読取装置:走行中の車のナンバープレートをカメラで自動的に読み取って照合する仕組み。ドイツの主要道路には広く設置されている。
遺体発見の4日後、家族が見つけたもの
9月12日、近所の住民がマテウシュさんの母親を訪ね、「7月ごろから納屋がひどく臭う。動物の死骸なら自分が片付ける」と申し出た。二人で納屋の中2階に上がったところ、衣類の山に見えたものが遺体だった。DNA鑑定で本人と確認され、そばには彼のリュックが残っていた。中身は吸い殻を入れた水のボトル、携帯電話、そして彼が苦手だったはずのオレンジジュースの空き瓶。警察は短時間の見分で自死と判断し、事件性なしとして捜査を終える。ところがその4日後、同じ納屋の干し草の中から、警察が見落としていた遺体の一部を家族が見つけた。これが捜査全体への不信を決定づけた。
主な仮説
仮説1:最初から実家を目指していた、とする見方
ポーランドの掲示板でもっとも支持されているのがこの読み方だ。フランクフルト・アン・デア・オーダーは婚約者のいるリピア・グーラへの道筋ではないが、ハノーファーからフトクフへ向かうなら自然に通る位置にある。つまり彼は出発の時点で婚約者の家ではなく実家を目指していた、と考えれば行程は一本の線になる。車を使わなかったのは事前に売るか誰かに譲ったからで、鍵が見つからないのもそのためだ、と説明される。父親になる重圧が引き金だったという補足がつくことが多いが、家族の証言では交際は安定しており、彼は結婚と子どもの誕生を楽しみにしていて、出発前の様子にも変わったところはなかったという。
仮説2:スウビツェの同行者が鍵を握る、とする見方
きょうだいのカタジーナさんは「あの人物が特定されない限り、この件は終わらない」と訴え続けている。金銭や車をめぐるトラブルに巻き込まれた可能性、あるいは同行者が何かを知っている可能性を、遺族は捨てていない。一方でスウビツェから先の移動は彼が一人でしていたとみられており、同行者が直接関わったと示す証拠は公表されていない。誰かが手を下したと確認されたわけではなく、あくまで「特定されていないから消せない」という段階の話である。
仮説3:4月から9月までのどこかに、ずれがある
家族は納屋を年間を通じてそれなりに使っていたと話しており、入口から中2階は見通せたという。それなら4月の時点で気づいていたはずだ、という指摘は根強い。一方で臭いの話が出るのは7月ごろから。ここから、家族が言うほど納屋を使っていなかったのではないか、あるいは彼はしばらく別の場所にいて、後から納屋に入ったのではないか、という見方が出ている。もっとも、腐敗の進み方も臭いの広がり方も気温と湿度で大きく変わるため、これだけでは矛盾とは言い切れないという反論もある。
仮説4:謎の大半は初動捜査そのものが生んだ
ドイツ警察とポーランド警察は、どちらが主導するかで最初から折り合わなかった。彼はポーランド国籍でドイツ在住、しかもどちらの国で消えたのかが分からない。携帯もドイツのSIMだったためポーランド側は追えず、最後の使用地がポーランドだからとドイツ側も動かなかった。現場は短時間で結論づけられ、残されていた二本のロープも詳しく調べられていない。答えの出ない問いの多くは事件性ではなく、保全されなかった現場そのものが作り出したのではないか——という見立てである。
海外の反応
1. 謎の名無しさん
家族が気づかなくて、隣の住民が臭いに気づいたっていうのがまず引っかかる。同じ敷地の建物なのに、そんなことある?
2. 謎の名無しさん
フトクフは農村で、一軒あたりの敷地がかなり広い。母屋から離れて、隣家寄りの畑の端に納屋が建っていたなら説明はつくと思う。
3. 謎の名無しさん(>>2への返信)
でも家族は「わりと頻繁に使っていた」と言っているんだよね。それだと何か月も一度も入っていないことになる。頻繁ってどのくらいの頻度なんだ。
4. 謎の名無しさん(>>1への返信)
風下かどうかで全然違うと思う。自分は腐敗した犬を見つけたことがあるけど、数日前に同じ道を通っていて何も感じなかった。
5. 謎の名無しさん
警察が見分を終えた4日後に、同じ納屋から家族がさらに見つけている。この一点だけが、どうしても時間の流れと噛み合わない。
6. 謎の名無しさん
ロープが緩くて一度落ちた、というのがいちばん自然な説明じゃないかな。意識を失った状態で落ちれば受け身も取れない。
7. 謎の名無しさん(>>5への返信)
見落としたというより、そもそも探していなかったんだと思う。自死という結論が先にあるなら、干し草をかき分ける理由がどこにもない。
8. 謎の名無しさん
警察が最初から結論を決めていたせいで現場が保存されなかった。そこが全部の元凶だと思う。ロープを調べていれば分かったことがいくつもあったはず。
9. 謎の名無しさん
騒がれているだけで、中身はありふれた話だと思う。父親になる直前で参ってしまい、知らない街で一晩過ごして、実家に帰って終わりにした。それだけ。
10. 謎の名無しさん(>>9への返信)
それでも車を一度も使っていないのが引っかかる。あれだけ車が好きだった人が、長い移動を全部列車とバスで済ませるかな。
11. 謎の名無しさん
ベルリンで育ったからスウビツェには何度も行っている。あそこは静かな観光の町なんかじゃないよ。国境の市場町で、夜まで開いている店も普通にある。
12. 謎の名無しさん
ハノーファーから来たなら、国境を越える通過点としてはむしろ自然な場所だと思う。ここを「不可解なルート」と呼ぶほうに違和感がある。
13. 謎の名無しさん(>>11への返信)
自分もスウビツェに住んでいたことがあるけど、薬物を手に入れるのは簡単ではないと思う。買おうとしたことはないから断言はできないけど。
14. 謎の名無しさん
同行者の情報を出さないのは、警察がもう特定していて追う必要がないからでは。ホテルなら受付の記録もカメラもあるはずだし。
15. 謎の名無しさん
立ち寄った場所を地図に置き直すと、最初から実家に向かってほぼ一直線なんだよね。婚約者の家に向かう線とはまるで重ならない。
16. 謎の名無しさん
フランクフルト・アン・デア・オーダーはリピア・グーラへの道ではないけれど、フトクフへの道ではある。この一点でだいぶ見え方が変わる。
17. 謎の名無しさん(>>16への返信)
つまりルートが不可解なのではなく、目的地が家族の思っていた場所と違っただけ、ということになるのか。それはそれで重い話だ。
18. 謎の名無しさん
車は解体されて部品でバルカン方面へ流れたんだと思う。うちの国ではよくある話で、ドイツから来た古いBMWは一日で形が無くなる。
19. 謎の名無しさん
それでもナンバー読み取りに一度も映らないのは引っかかる。ドイツはカメラだらけなのに、走行記録がまったくゼロというのは相当おかしい。
20. 謎の名無しさん
水に沈んでいる可能性を早々に切り捨てるのはどうかと思う。毎日使われている水路から、何十年も後に車が出てきた例はいくつもある。
21. 謎の名無しさん(>>19への返信)
その場でばらしてコンテナに積んでしまえば、ナンバーは一度も公道を走らない。積み替えられたら記録なんて残りようがないよ。
22. 謎の名無しさん
家族が最後の電話の内容を一言一句思い出せたら、何か引っかかる言い回しがあったかもしれない。声の調子とか、言い間違いとか。
23. 謎の名無しさん
ポーランドは今でも心の不調を口にしにくい国で、男が弱音を吐くと軽く見られる空気が残っている。家族が何も知らなかったこと自体は珍しくない。
24. 謎の名無しさん(>>23への返信)
それを持ち出すと何でも説明できてしまうのも危うい。本当に兆候がなかった可能性だって同じくらいある。文化の話で片付けたくはない。
25. 謎の名無しさん
追い詰められた人の行動は、健康なときの理屈では読めない。もう要らないから車を置いていく、というのは本人の中では筋が通っていたりする。
26. 謎の名無しさん
隣の住民のことをもっと知りたい。家族が気づかない臭いに気づいて、わざわざ片付けを申し出るというのは自然な流れなんだろうか。
27. 謎の名無しさん(>>26への返信)
自分が置いたのなら、わざわざ見つけさせる理由がない。放っておくほど分からなくなるんだから、まったく逆のことをしている。
28. 謎の名無しさん
そもそも本当にポーランドへ入ったのか、証拠はどこまで固いんだろう。切符は買っただけで使っていない可能性だってあるわけで。
29. 謎の名無しさん
ホテルにいたことは防犯カメラで確認が取れている。それに国境は書類も検問もないから、歩いて渡っても記録は何も残らないんだ。
30. 謎の名無しさん(>>28への返信)
二度目の捜査でこれだけ出てきたということは、最初の捜査は何も見ていなかったということでもある。個人的にはそこがいちばん怖い。
未解決の謎
この事件は、厳密には「何が起きたのか分からない」類のものではない。彼がどこで見つかり、警察がどう結論づけたかははっきりしている。それでも遺族が納得できずにいるのは、そこへ至るまでの一つひとつが、彼という人物の輪郭とうまく重ならないからだ。
いちばん説明のつかないのは車である。愛着があり、写真にも繰り返し写っていた青いBMWを、彼は長い移動の最初の一歩で手放している。売ったのか、置いていったのか、鍵ごと消えた理由は分からない。もし本人が手放したのなら、その時点で帰るつもりがなかったことになる。逆に手放していないのなら、車の行方を追うことが唯一残された手がかりになったはずだった。
そして、スウビツェのホテルに一緒に入った人物。警察はこの人物について、性別すら明かしていない。すでに特定済みで追う必要がないのか、それとも今も分かっていないのか、外からは判断できない。カタジーナさんが公の場でこの点を求め続けているという事実そのものが、遺族から見た「終わっていなさ」を物語っている。
納屋で何があったのかは、結局のところ彼にしか分からない。ただ、最初の数日で現場が保全されず、二つの国の警察がどちらも動かなかった時間が、わずかに残っていた手がかりまで奪ってしまったことは確かだ。答えの出ない問いの多くは、事件そのものよりも、問いを立てるのが遅すぎたことから生まれている。


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