ピクサーの公式YouTubeチャンネルで、いちばん再生されている動画は何か。『トイ・ストーリー』の予告編でも、短編アニメでもない。『カールじいさんの空飛ぶ家』(原題 Up)のブルーレイとDVDが発売中だと知らせる、1分3秒の告知動画である。2020年6月、海外掲示板Redditにこの不釣り合いを不思議がる投稿が立った。その時点の再生数は4億7765万3253回。チャンネル2位の『インクレディブル・ファミリー』公式予告(約1億3600万回)の約3.5倍にあたる。
しかも、この数字は公開から11年かけて積み上がったものではなかった。ウェブページの過去の姿を保存している「ウェイバックマシン」の記録では、2019年3月の再生数は約863万回。そこから1年2か月ほどで、4億6700万回あまり増えている。なぜこの1本だけが、なぜその時期に伸びたのか。ピクサーもYouTubeも説明しておらず、元スレから6年たった今も答えは出ていない。
事件の概要
🗓️ 時期:動画の公開は2009年11月11日(米国時間。ブルーレイ・DVDの米国発売の翌日)。Redditで話題になったのは2020年6月下旬
🌫️ 場所:YouTubeのピクサー公式チャンネル
👤 対象:『カールじいさんの空飛ぶ家』のブルーレイ・DVD発売を知らせる告知動画(1分3秒、題は「Up on Blu-ray and DVD!」)
🔍 状況:再生数が2019年3月の約863万回から、2020年5月には約4億7565万回に。同じチャンネルのほかの発売告知は、投稿者によればどれも100万回前後
🕯️ 現状:2026年10月3日時点で5億380万3873回。急増の理由について、ピクサーやYouTubeの説明は見つかっていない
『カールじいさんの空飛ぶ家』は、無数の風船を結びつけた家で空へ飛び立つ老人の冒険を描いた、ピクサーの長編アニメだ。日本では2009年12月に公開された。問題の動画は、米国でブルーレイとDVDが発売された翌日にピクサーのチャンネルへ載せられた販促用の映像で、告知としての役目はとうに終わっている。
元スレの投稿者がこれに気づいたきっかけは、友人からピクサーの動画が1本送られてきたことだった。チャンネルを開くと「いちばん再生されている動画」を確かめる癖があり、並べ替えてみたら、先頭にいたのがこの告知だったという。この記事で扱うのは犯罪ではなく、ネット上の説明のつかない現象だ。元スレで出た仮説と、あとから確かめられる数字を整理する。
判明している事実
チャンネル2位の約3.5倍、ほかの発売告知は100万回前後
投稿者が2020年6月に確かめた時点で、チャンネル内の再生数は1位がこの告知動画、2位が『インクレディブル・ファミリー』公式予告の約1億3600万回、4位が『トイ・ストーリー4』公式予告だった。同じチャンネルにはほかの作品のブルーレイ・DVD発売告知も並んでいるが、投稿者によればどれも100万回前後にとどまる。比較として投稿者が挙げたのは、ニュージーランド出身の歌手ロードのヒット曲「Team」のミュージックビデオで、告知動画の再生数はその2倍を超えていた。
2019年3月の時点では約863万回
ウェイバックマシンに残る動画ページの保存記録をたどると、再生数は2017年9月に約360万回、2019年2月20日に約822万回、同年3月23日に863万1170回だった。次の保存記録は2020年5月24日で、4億7564万5966回。428日間で約4億6700万回、1日平均でおよそ109万回増えた計算だ。1分3秒の動画でこの回数をこなすには、単純計算で、およそ800台の画面が24時間休まず再生し続ける必要がある。この間の保存記録はなく、いつ、どんな勢いで伸びたのかは分からない。
元スレが立つころには急増は収まっていた
2020年5月24日から7月11日までの48日間に増えたのは約322万回で、1日あたり約6万7000回。それまでの平均の16分の1ほどに落ちている。その後は2021年3月9日に約4億9376万回、この記事を書いている2026年10月3日に動画ページで確かめた数字が5億380万3873回だった。直近の5年半は、1日あたり5000回に届かない。元スレの数字から6年3か月で増えた分は、約2615万回にとどまる。なお、YouTubeは2026年8月に再生数の数え方を変えており(後述)、それ以前の数字とは厳密には比べられない。
コメント欄は閉じられ、残っていたのは十数件
投稿者によると、動画に残っていたコメントはどれも6年以上前のもので、その後は書き込みを受け付けなくなったらしい。スレッドでは、再生数に対してコメントが14件しかないことを指摘する声が上がった。2026年10月時点でも、動画ページにはコメントがオフになっている旨が表示される。YouTubeは2020年1月から、子ども向けに指定された動画のコメント欄を一律に閉じている。ただ、投稿者の説明どおりなら、新しいコメントは2014年ごろから付いていないことになり、この措置だけでは説明しきれない。
YouTubeが公式に説明している再生数の数え方
YouTubeのヘルプは、再生数などの指標が「コンピュータープログラムではなく実際の人間によるもの」であるよう確認している、と説明している。確認のために数字を一時的に止めたり、質の低い再生を除外したりすることがあるとし、その例に、複数の端末で同じ動画を視聴することを挙げている。広告として配信された動画の再生が、公開される再生数に加わることも書かれている。2026年8月24日からは、形式を問わず、動画の再生が始まった時点で1回と数える方式になった。当時の細かな基準や、個々の動画がなぜおすすめに出たのかについて、公式の説明は見当たらない。
元スレ以降、ピクサーやYouTubeがこの動画に触れた発表や、原因を突き止めた検証記事を探したが、2026年10月時点では見つからなかった。現在もチャンネル内で1位のままなのかどうかは、今回は確かめられていない。
主な仮説
仮説1:テレビ売り場のデモ映像として流され続けた
元スレでいちばん支持を集めた説。テレビ売り場で働いているという人が「色の鮮やかさの違いを見せるために、毎日あの映像を繰り返し流している」と書き込み、インド在住の人も「行ったことのある家電店のほとんどで流れている」と続いた。別の人の試算では、店が1日8時間・週5日開いているとして、約4000台のテレビがあれば1年で4億7000万回に届く。投稿者もこの説に傾いている。
弱点は三つある。売り場のテレビがYouTubeから直接再生しているのか、という疑問がコメント欄で出たが、確認できた範囲では答えが付いていない。発売以来ずっと流されてきたのなら、2019年3月まで約863万回しかなかったことと合わない。そしてYouTubeは、複数の端末で同じ動画を流すような再生を、除外されうる例として挙げている。
仮説2:子ども向けの再生リストに入り、おすすめの循環に乗った
もうひとつの有力説。ある参加者が調べたところ、この動画は2019年3月ごろから、子ども向けの動画を集めた再生リストに数多く入れられていたという。検索で見つかるだけで300ほどあるらしい、とも書いている。再生リストに入るとおすすめに出やすくなり、短い動画は飛ばされずに最後まで再生される。自動再生のまま同じ子どもに何十回も流れ、それがまたおすすめを強める、という循環だ。提唱者は、リストの多くはアジアや中東のものだとしつつ、米国の子どもも当然含まれると書いている。もっとも、どの地域で視聴されたのかを示すデータは公開されていない。
投稿者はこれに「同じリストに入っているほかの動画は、数十万回から数百万回しかない」と反論した。再生リストとおすすめの関係も、提唱者自身が経験則だと断っている。
仮説3:広告として配信された再生が数えられた
YouTubeのヘルプによれば、広告として流れた動画の再生も公開の再生数に加わる。再生数だけが多く、高評価やコメントが極端に少ないのは広告に使われた動画の特徴だ、という指摘は複数あった。ただ、ある参加者の概算では、この回数を広告で稼ぐには1000万ドル以上かかる。投稿者も、10年前の発売告知1本にだけなぜそこまで費用をかけるのか、と疑問を返している。クリック数を買う契約だったせいで延々と流れ続けたのでは、という推測も出たが、裏づけはない。
仮説4:数字そのものが実際の視聴を表していない
投稿者が最初に思いついたのは、YouTube側の不具合で数字が狂っている可能性と、再生数を計測する仕組みのテストにこの動画が使われた可能性だった。再生数を水増しするボットを疑う声もある。ただ、YouTubeは機械的な再生を除外していると説明している。不具合だとすれば、6年以上直されないまま残っていることになる。否定する材料はないが、裏づける材料もない。
海外の反応
1. 謎の名無しさん
大して役に立たない情報かもしれないけど、これだけ再生されてるのに、動画に付いてるコメントが14件しかないのが引っかかる。自分は、YouTubeのおすすめの仕組みが勝手に仕事をした結果だと思ってる。
2. 謎の名無しさん(>>1への返信)
なかでも怪しいのは、子ども向けアプリのYouTube Kidsだと思う。あと、広告として表示されてる可能性もある。よそのサイトに埋め込まれて再生された分も、数に入るはずだし。
3. 謎の名無しさん
調べてみたら面白いことになってきた。この動画、2019年の時点では800万回ちょっとしかなかったんだ。それが2019年3月から2020年5月の間に、数億回も増えてる。同じころに作られた子ども向けの再生リストに、この動画がやたらと入ってるんだよ。エルサゲート※すれすれの動画が混ざったリストもあった。誰が何のために作ってるのかは分からない。
※ エルサゲート:子どもに人気のキャラクターを使いながら、中身は子どもに見せられない動画がYouTubeに大量に出回った問題の通称。2017年ごろに広く知られた。
4. 謎の名無しさん(>>3への返信)
よく調べたね。ただ疑問がひとつある。同じ再生リストに入ってるほかの動画をいくつか開いてみたけど、ほとんどは数百万回で、20万回しかないものもあった。なんでこの1本だけが、ほかの何千倍も伸びたんだろう。
5. 謎の名無しさん(>>4への返信)
経験則だけど、再生リストに入るとおすすめに出やすくなるみたいなんだ。検索で出てくるだけで、300近いリストに入ってるらしい。長い動画は途中で飛ばされて数に入らないけど、これは短い。自動再生のまま、同じ子に何十回、何百回と流れたんだと思う。
6. 謎の名無しさん
短い動画だから、再生リストや「次の動画」の自動再生に紛れ込みやすいんだよ。YouTube Kidsならなおさら。1分の映像が別の動画のあとに流れても、小さい子は気づきもしないで最後まで見る。
7. 謎の名無しさん
笑いすぎて苦しい。うちの子、あの動画を数えきれないくらい繰り返し見てるんだよ。4億回って、たぶん全部うちの子だと思う。
8. 謎の名無しさん
YouTube Kidsのおすすめは、原色のはっきりしたサムネイルを「子ども向け」として重く見てる、と自分はにらんでる。色の派手なこの動画が選ばれるのも、エルサゲートの動画が伸びたのも、根は同じじゃないかな。
9. 謎の名無しさん
テレビ売り場で働いてる。うちの店では、テレビごとの色の鮮やかさの違いを見せるために、あの映像を毎日繰り返し流してるよ。
10. 謎の名無しさん(>>9への返信)
4億回の犯人はこいつだったのか!みんな、捕まえろ!
11. 謎の名無しさん(>>9への返信)
それは面白い!短くて、色が鮮やかで、人目を引く。そういう使い方をされてても不思議じゃない。ウォルマートや家電量販のベスト・バイみたいな全米チェーンが「これを流す」と決めたら、再生数が一気に跳ね上がるのも分かる。
12. 謎の名無しさん
ざっと計算してみた。店が1日8時間、週5日、年52週開いてるとする。63秒の動画なら、テレビ1台で1日457回、1年で約11万9000回再生される。4億7000万回を1年で稼ぐには、約4000台のテレビが要る計算になる。
13. 謎の名無しさん(>>12への返信)
それは週5日で計算した場合でしょ。テレビを売ってる店の多くは週7日開いてるし、動画は2009年から公開されてる。「複数の店で見た」と書いてる人もほかにいる。そう考えると、急にありえない話じゃなくなってきた。
14. 謎の名無しさん
絶対それだと思う。自分はインドに住んでるけど、こっちでも、行ったことのある家電店のほとんどで、あの映像がテレビで繰り返し再生されてるよ。
15. 謎の名無しさん
売り場の人に聞きたい。YouTubeから直接再生してるの?それともダウンロードしたファイル?商売で使うには、ネット経由だと途中で止まったりして当てにならない気がするんだけど。
16. 謎の名無しさん(>>15への返信)
自分も家電売り場で働いてたことがあるけど、うちはメーカーが用意したデモ映像をUSBメモリから再生してた。展示のテレビは、そもそもネットにつないでなかったよ。店によって違うんだろうけど、YouTubeを一日中流す店が4000台分もあるかな、とは思う。
17. 謎の名無しさん
数年前に日本を旅行したとき、大きな家電店のテレビ売り場で、風船で家が飛ぶ映像を見た気がする。色がきれいで足が止まったのは覚えてる。あの告知動画だったのか、映画の本編だったのかは、正直分からない。
18. 謎の名無しさん
広告に使われたんじゃないかな。好きなアーティストのMVで、再生数は何百万回もあるのに、高評価もコメントもやけに少ないのがあった。ボットで水増ししてるのかと思ってたら、「広告で流れてきて知った」というコメントが付き始めて、納得したことがある。
19. 謎の名無しさん(>>18への返信)
ありえるとは思う。でも、あのチャンネルには同じような発売告知がほかにもあるんだよ。なんでピクサーがこの1本にだけ大金をつぎ込むのか。2009年の動画を、最近の人気動画の前に広告として流すとも考えにくい。
20. 謎の名無しさん
広告に使われた動画って、再生数は何百万回もあるのに、高評価やコメントはほんの少し、というのが普通なんだ。この動画はそれにぴったり当てはまる。本当の謎は、なぜこの1本だけなのか。最初に「注文ページへのクリック数」を決めて契約して、反応が鈍いせいで延々と流れ続けた、とか。ただの想像だけど。
21. 謎の名無しさん
広告だけでこの再生数を出そうとしたら、1000万ドル以上かかる。制作費が1億ドルを超える映画の宣伝なら出せない額じゃないけど、ちょっと高すぎる気がする。
22. 謎の名無しさん(>>21への返信)
可能性は低いけど、広告の予算上限にうっかりゼロをひとつ多く入力して、1週間たつまで気づかない人はたまにいるんだよ。それでこの数字になった、とか。
23. 謎の名無しさん
かなり変な話だよ。保存されてる昔のページを見ると、1年ちょっと前の2019年3月23日には、再生数が863万1170回しかない。1年ほどで4億7000万回増えたことになる。テストに使われたか、ボットで水増しされたんだと思う。10年前の動画に広告を出す理由がない。残る可能性は、YouTube Kidsの自動再生がとんでもない量だった、くらいかな。
24. 謎の名無しさん(>>23への返信)
チャンネルの統計を載せてるサイトのSocial Bladeを見ると、9月から12月にかけて、チャンネル全体の再生数が異常に多い。その時期に公開された動画だけでは説明がつかないから、この動画が伸びたのはたぶんそのころだと思う。
25. 謎の名無しさん
チャンネルの「紹介動画」に設定されてた時期があったんじゃない?チャンネルを開いた人には全員、自動で再生される。でも発売告知なんて、わざわざ自分でクリックして見に行く人は少ないはずだから。
26. 謎の名無しさん(>>25への返信)
自動再生って再生数に入るのかな。質問サイトのQuoraに、YouTubeへ問い合わせたという人の回答があって、ページを開いた瞬間に自動で流れる埋め込み動画は数えない、と書いてあった。本当かどうかは確かめようがないけど。
27. 謎の名無しさん
どの説も面白いし、ありえそうではある。でも引っかかるのは、どれも「なぜこの動画だけなのか」を説明できてないこと。広告に使われた動画も、自動再生で流れる動画も、ほかにいくらでもあるはず。同じ条件のほかの動画と、何が違ったんだろう。
28. 謎の名無しさん
たぶん、子どもがiPadで見てるんだと思う。再生数が何億回もあるのにコメントは6件、みたいな妙な動画はYouTubeにいくらでもある。「フィンガー・ファミリー」※の動画がその例で、取り上げてるYouTuberもいたよ。
※ フィンガー・ファミリー:5本の指を家族に見立てた、英語圏の子ども向けの歌。同じ歌にさまざまなキャラクターを当てはめた動画が、YouTubeに大量に投稿されている。
29. 謎の名無しさん
コメント欄が閉じてるのは、子ども向け扱いの動画だからだと最初は思った。でも投稿主の話だと、残ってるコメントは6年以上前のものばかりなんだよね。もっと前から閉じてたことになる。ピクサーの担当者も、管理画面の数字を見て首をかしげてるんじゃないかな。
30. 謎の名無しさん
発売告知が5億回近く見られて、それでブルーレイは何枚売れたんだろう。見てるのが本当に小さい子や売り場の通りすがりなら、ほとんど誰も買ってないことになる。こんなに届いてるのに何も売れてない宣伝、ちょっと好きだ。
未解決の謎
元スレで出た説は、どれも「ありえる」で止まっている。テレビ売り場説と広告説は、なぜこの1本なのかに答えられない。再生リスト説は、同じリストのほかの動画が伸びていない理由を説明できない。不具合やボットの説には、外から確かめる手段がない。
数字からはっきり言えるのは、時期だけだ。公開から9年あまりで約863万回だった動画が、2019年3月から2020年5月までの間に約4億6700万回増え、元スレが立つころには伸びが大きく鈍っていた。10年かけて少しずつ積み上がったのではなく、どこかで何かが始まり、やがて終わったことになる。どの説を採るにしても、始まった理由と終わった理由の両方を説明しなければならない。
答えを知りうる立場の人はいる。YouTubeでは、動画の投稿者は管理画面で、再生がおすすめ・再生リスト・広告・外部サイトのどこから来たのかを確かめられる。ピクサーの担当者がその画面を開けば、少なくとも入口は分かるはずだ。だが、その中身は公表されていない。
2026年10月3日時点の再生数は5億380万3873回。ここ5年半は、ならせば1日5000回足らずしか増えていない。それでも、ピクサーの公式チャンネルで最も見られた動画のひとつが、およそ17年前の発売告知だという事実は変わらない。
出典:r/UnresolvedMysteries 元スレ / 問題の動画(YouTube・ピクサー公式チャンネル) / ウェイバックマシンの保存記録(2019年3月23日・2020年5月24日ほか) / 参考:YouTubeヘルプ(再生数などの指標の数え方)


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