2025年8月17日、米ペンシルベニア州ミドルタウンの配送センターに、宛名ラベルの付いていない小包が一つ届いた。伝票が剥がれたり破れたりして行き先の分からない荷物は、いったん脇によけておき、後で開けて差出人と宛先を割り出す——どこの配送会社にもある、ごく事務的な手順である。その日、規定どおりに開けられた箱の中には、緩衝材にくるまれた人間の手が入っていた。
作業員はただちに当局へ通報し、手は検視官※のもとへ運ばれた。分かったのは「成人女性のものとみられる」というところまでで、そこから先が進まない。人種も、正確な年齢も、身長も体重も特定できていない。彼女はいま、ドーフィン郡のジェーン・ドウ※と呼ばれている。
※ 検視官(コロナー):米国で不審死や身元不明の遺体を扱う職。医師とは限らず、必要に応じて監察医に解剖を依頼する。郡ごとに置かれ、選挙で選ばれる地域もある。
※ ジェーン・ドウ:英語圏で身元不明の女性を指す仮の呼び名。男性なら「ジョン・ドウ」。氏名が判明するまで、捜査記録や報道ではこの呼び方が使われる。
事件の概要
🗓️ 発見日:2025年8月17日
🌫️ 場所:米ペンシルベニア州ドーフィン郡ミドルタウンの配送センター(UPS)
👤 持ち主:成人女性とみられる身元不明者(ドーフィン郡ジェーン・ドウ)
🔍 状況:宛名ラベルのない小包を規定どおり開封したところ、緩衝材に包まれた手が入っていた
🕯️ 現状:犯罪としては扱われておらず、郡の検視官事務所が情報提供を呼びかけている
ミドルタウンは州都ハリスバーグの南東にある小さな町で、空港と州間高速道路が近く、物流の拠点が集まっている。東海岸へ向かう荷物の多くがこのあたりを通過するという。膨大な数の箱が毎日流れていく場所なので、伝票の読めない荷物が出ること自体は、まったく珍しくない。
異常だったのは中身のほうである。検視の過程で分かったのは、この手が乱暴に扱われたものではない、という事実だった。切断は手術用の器具による精密なもので、しかも発送より前のどこかの時点でエンバーミング※が施されていた。つまりこの手は少なくとも一度、遺体を扱うことを仕事にしている誰かの手元を通っている。
※ エンバーミング:遺体の血液を防腐液に入れ替えて腐敗を遅らせる処置。米国では葬儀社が土葬や長距離搬送の前に行うほか、大学の解剖実習用の献体にも同種の保存処置が施される。薬剤も設備も資格も必要で、家庭でできる作業ではない。
判明している事実
宛名ラベルがなかった
箱には行き先も差出人も書かれていなかった。ラベルを貼らないまま集荷ボックスに投函されたのか、輸送中のどこかで剥がれ落ちたのか、そのどちらなのかも分かっていない。前者なら、送った側は最初から記録を残す気がなかったことになる。後者なら、どこかに「届かない荷物」を待っている人がいるはずだが、いまのところ名乗り出た者はいない。
切り口が外科的だった
切断には手術用の器具が使われ、切り口は精密だったとされる。専門の道具と技術がなければ成立しない処置であり、この一点が事件の性格を大きく変えている。乱暴な事件の痕跡ではなく、解剖室や手術室の作法を思わせるからである。
発送前に防腐処置が済んでいた
エンバーミングができる場所は限られている。葬儀社、遺体安置所、大学の解剖実習室——いずれも資格と設備を持つ専門の現場だ。ただし防腐処置をしても腐敗が完全に止まるわけではなく、実際この手は乾燥が進んだ状態で届いていた。処置から発送までに、それなりの時間が空いていた可能性がある。
指紋を採取できなかった
検視官事務所は、乾燥した組織に水分を戻して指紋を採ろうと試みたが、うまくいかなかったと報じられている。身元へ最短でたどり着けるはずの経路が塞がれた形だ。判明しているのは「成人女性とみられる」ことだけで、人種・年齢・体格などの情報は公表されていない。米国の身元不明者データベースには未身元者として登録され、郡の記録では「J-2025-08-0656」という事件番号だけが彼女を指している。
州法では売買が違法ではない
ここが日本の感覚といちばん食い違う点だろう。ペンシルベニア州を含む米国の多くの州では、人体の一部を売買すること自体が違法ではない(移植用の臓器だけは連邦法で厳しく規制されている)。しかも誰が誰に何を売ったのかを追跡する仕組みがない。だから現時点でこの件は「犯罪」として扱われていない。今後の調べで、その手が盗まれたもの、あるいは犯罪によって得られたものだと判明すれば、検視官から警察へ引き継がれることになる。
主な仮説
仮説1:献体された遺体の流通経路から外れた
元スレでもっとも多くの支持を集めたのがこの説である。米国では、生前の手続きによって自分の遺体を医学教育や研究に提供する「献体」が広く行われている。日本と大きく違うのはその先だ。提供された遺体は大学へ直行するとは限らず、仲介業者※を経由し、部位ごとに分けられたうえで、外科医の手技訓練、医療機器メーカーの製品テスト、救急隊員の訓練といった用途に、全米各地へ送られていく。
※ 献体仲介業者(ボディ・ブローカー):遺族から遺体の提供を受け、研究機関や企業へ有償で引き渡す業者。移植用臓器と違って連邦レベルの統一規制がなく、州によっては登録も追跡も義務づけられていない。管理の不備や遺族への説明不足が過去に何度も問題になっている。
この筋なら、外科的な切断もエンバーミングも自然に説明がつく。専門の設備と技術を持つ場所で処置され、輸送に回され、その途中で伝票が失われた——という話になる。手が「成人女性のもの」以外に何も分からないのも、部位単位で切り離されて流通していたのなら不思議はない。
ただし、引っかかる点も残る。研究機関どうしの正規のやり取りであれば、密閉した容器に入れて保冷し、外箱に「保存された検体」と明示して送るのが普通で、緩衝材でくるんで一般の宅配便に載せる形にはなりにくい。そもそもUPSは規定上、人体の輸送を受け付けていない。正規のルートに乗っていたものが単に迷子になったと考えるには無理があり、「一度は正規の経路にあったものが、どこかでそこから外れ、誰かの手で私的に発送された」と見るほうが筋は通る。
仮説2:標本を集める愛好家の市場で取引された
米国には、医学標本や骨董的な人体資料を集める愛好家の市場が実在する。州法で売買が禁じられていない以上、専門店やSNSを通じた取引はそれ自体が違法行為ではない。防腐処置が済んで乾燥した状態というのは、生きた組織を扱う研究用の試料としてよりも、長期保存を前提とした標本の状態に近い。そして買い手が個人であれば、荷物が届かなかったときに配送会社へ「人の手が入った箱が行方不明だ」と申し出るのは、心理的にも社会的にも相当ハードルが高い。誰も名乗り出ない理由としては、これがもっとも納得しやすい。
仮説3:本人か遺族の手元へ戻されるはずだった
米国では、病気や事故で切断された自分の体の一部を引き取れる場合がある。宗教上の理由や、自分なりの区切りをつけるために持ち帰る人は実際にいる。もしそうなら、その手の持ち主はいまも生きていて、自分の身体の一部が自分のもとへ戻る途中で行方が分からなくなった、という話になる。ただしこの説は弱い。手術で切除した組織は一般にホルマリンなどで固定されるもので、遺体全体に施すエンバーミングとは処置が異なるとされるからだ。そして何より、自分の体の一部が届かなければ、まず間違いなく本人が探し回るはずである。
仮説4:管理の外へ持ち出された
遺体や標本を扱う施設から、記録に残らない形で外へ出た可能性も否定はできない。ペンシルベニア州では過去に、盗まれた人体の一部を売買したとして摘発された例がある。大学の遺体安置所の管理者が預かっていた献体から部位を持ち出し、複数の州にまたがって売却していたとされる事件も報じられた。この筋であれば、伝票がないことにも、誰も名乗り出ないことにも説明がつく。ただし現時点では、この手がそうした経路をたどったことを示す物証は公表されていない。捜査でそれが裏づけられて初めて、この件は検視官の管轄を離れ、刑事事件として扱われることになる。
海外の反応
1. 謎の名無しさん
葬儀ディレクターとして言わせてもらうと、彼女はおそらく自分の体を「科学のために」提供したんだと思う。この仕事をしていると、その手の話は嫌になるほど耳に入ってくるよ。
2. 謎の名無しさん(>>1への返信)
献体された遺体って今でもエンバーミングされるものなんですか。研究用に化学的に保存するのは知っていますが、「防腐処置済み」と書かれているなら、葬儀社か遺体安置所が経由地だったと考えるべきなのでしょうか。
3. 謎の名無しさん(>>2への返信)
自分が通っていた大学の解剖実習室の遺体はエンバーミング済みでした。医療イラストの学生でも、遺体には敬意を払う、冗談を言わない、というのが絶対のルールで、学期いっぱい使わせてもらったあとは火葬して、葬儀のように短い言葉を捧げていました。
4. 謎の名無しさん
葬儀業界の側から補足すると、献体の大半はエンバーミングかフェノール漬けで保存される。未処理の状態を希望する買い手もいるので全部ではない。葬儀社が絡んでいる可能性は確かにあるが、個人的には他の筋のほうが高いと思っている。
5. 謎の名無しさん
シドニー大学も同じでした。学生証をかざさないと入れない標本室があって、その学科の履修者しか立ち入れない。研究棟に入った瞬間のホルムアルデヒドの匂いは、自分の実習室が3階上でもはっきり分かるんですよ。今でも覚えています。
6. 謎の名無しさん
全部が合法な手続きの中で起きたことなら、荷物が届かない時点で誰かがUPSに問い合わせているはずだ。それがないというのは、送り主にも受取人にも表に出られない事情がある、ということじゃないのか。
7. 謎の名無しさん(>>6への返信)
ラベルがない以上、問い合わせがあってもその箱と結びつけようがないよ。それにUPSは規定で人体の輸送を受け付けていないから、正規の手順を踏むと費用も手間もかかる。単にそこをケチっただけ、という可能性も同じくらいある。
8. 謎の名無しさん(>>7への返信)
とはいえ、郵便で体の一部を送って、そのうえ紛失している人がそんなに大勢いるとは思えないんだが。
9. 謎の名無しさん
表沙汰になるのは荷物が迷子になったときだけだよ。無事に届いた分は誰も数えていないし、ニュースにもならない。見えていないだけで、この国ではけっこうな数が日常的に動いていると思う。
10. 謎の名無しさん
あのセンターは東海岸行きの荷物の集積点なんだよ。セイラム周辺には標本や骨董を扱う店が多いし、ボストンには医学部がいくつもある。個人的には後ろ暗い話には見えないんだよな。ただ、買ったものが届かなかったら普通は配送会社に連絡すると思うんだが。
11. 謎の名無しさん(>>10への返信)
そもそも何本も注文していて1本消えても気づかないような場所は、大学か研究機関くらいのものだよ。つまり選択肢は「後ろ暗い取引」か「とんでもなく管理がずさんな研究室」の二択になる。
12. 謎の名無しさん
届かなかった側からすると、問い合わせること自体が難しいという事情もある。手元にあるのは注文の記録だけで、追跡番号も現物もない。何がどこで消えたのか説明できないまま電話をかけるのは、相当きついと思う。
13. 謎の名無しさん
人体の一部の売買が合法だって? 研究者ならまだ分かるが、それ以外にまともな神経でこれを買う人間がいるのか。この歳まで生きてきて初めて知ったよ。
14. 謎の名無しさん(>>13への返信)
愛好家という層がいるんだよ。19世紀の医学標本やアンティークの骨格標本は昔から売り買いされていて、いまはSNSの専門アカウントで普通に取引されている。趣味の世界としては特に珍しくもない。
15. 謎の名無しさん
引っかかるのは梱包だ。研究目的の正規の発送なら、密閉した袋に入れて保冷剤かドライアイスを詰め、外箱に「保存された検体」と明記するのが普通だと思う。緩衝材でくるんだだけというのは、どう考えても手順を踏んでいない。DNAから家系をたどる手法は使えないんだろうか。
16. 謎の名無しさん
がんの転移を防ぐために腕を切断して、その腕を自分で引き取ることを許された女性をSNSでフォローしている。腕のためにお別れの会まで開いていた。だから、自分宛てに送ろうとして行方不明になり、当人がこの騒ぎを面白がって黙っている、なんて可能性もゼロではないと思っている。
17. 謎の名無しさん
ペンシルベニア州には、盗まれた人体の一部を売買したとして逮捕された人物がいたはずだ。調べてみたら似たような事件がもう一件出てきた。この件がそのどちらかと繋がっていないか、どうしても気になってしまう。
18. 謎の名無しさん(>>17への返信)
大学の遺体安置所の管理者が、預かっていた献体から部位を持ち出して売っていたとされる事件を思い出した。買い手側として起訴された中にペンシルベニアの人物も含まれていたはずだ。あの構図がまだ終わっていないなら、こういう箱が流れていても不思議ではない。
19. 謎の名無しさん
葬儀社か研究室か病院か、どこかで誰かがやらかしたようにしか見えない。人の手を発送したなら記録が残っているはずだし、切断された本人に返す予定だったなら、届かない時点で必死に探すはずなんだよ。そのどちらもないのが不気味だ。
20. 謎の名無しさん
UPSはよくやったと思う。別の大手配送会社が輸送中に遺体を紛失したという話も昔あって、あれに比べれば、箱を開けて中身を確認してすぐ通報しただけ、はるかにまともだ。
21. 謎の名無しさん(>>20への返信)
その手の話で会社側が出す説明は、たいてい「紛失して申し訳ない、ただしそもそも当社で遺体を送るのは規約違反です」の形になる。謝っているのか叱っているのか分からない。
22. 謎の名無しさん(>>20への返信)
冷たく聞こえるかもしれないが、葬儀社が遺灰を送るときと同じ正規の手順を踏んでいれば、施錠して管理され、途中で扱った職員全員が受領の署名を残していたはずなんだよ。手順を飛ばした瞬間に、追跡できるものが何ひとつなくなる。
23. 謎の名無しさん
米国で遺灰を郵送していいのは郵便公社(USPS)だけ、というのを今日はじめて知った。このスレッドは事件そのものより、知らなかった制度の話が次々に出てきて頭が追いつかない。
24. 謎の名無しさん
父はずっと献体を希望していて、何十年もそう口にしていた。亡くなったときにその意思を伝えたら、本人が生前に自分で書類を出しておく必要があると言われて、結局かなわなかった。今は骨壺が棚の上に置いてある。あとからいろいろな話を読んだので、これで良かったのかもしれないと思っている。
25. 謎の名無しさん(>>24への返信)
うちの親族は献体したけれど、数年後に「必要がなくなった」という理由で戻ってきた。提供したつもりでいたものが黙って返却されるというのも、なかなか気持ちの整理がつかないものです。
26. 謎の名無しさん
母は献体に出したし、自分の書類ももう提出してある。違法なことをされるのは論外だが、死んだ後に自分の体がどう使われようと正直どうでもいい。衝突試験のダミー代わりでも、外科医の講習会の標本でも構わない。遺体そのものに思い入れを持つタイプではないので。
27. 謎の名無しさん
自分も献体を考えたけれど、献体を選ぶと臓器提供者にはなれないと知って断念した。どんな死に方をするかは選べないので、今のところは臓器提供者のままにしてある。両方を選べないというのが、いちばん納得のいかない点だった。
28. 謎の名無しさん
献体を募るなら、軍事目的や商業用の安全試験に回る可能性まで含めて最初に説明してほしい。アルツハイマー病の研究に役立ててほしいと託された遺体が、まったく別の用途に売られていたという話を読んでから、ずっとそう思っている。透明性さえあれば、それでも構わないと納得して選べる人は多いはずだ。
29. 謎の名無しさん
議論が制度の話ばかりになっているけれど、いちばんつらいのは、この人が誰なのか誰にも分かっていないことだと思う。この手の持ち主には名前があって、呼ばれれば振り返る誰かだったはずなのに、今は事件番号でしか呼ばれていない。
30. 謎の名無しさん(>>29への返信)
同感だ。合法か違法かという議論の前に、まず彼女が誰なのかを知りたい。指紋が採れなかったのなら、DNAから家系をたどる方法に望みをかけるしかない。名前が戻れば、少なくとも「箱の中身」ではなくなる。
未解決の謎
この件には、犯人も、被害者も、事件現場もない。あるのは「誰のものか分からない手」と「誰が送り、誰が受け取るはずだったのか分からない箱」だけである。しかも法律の上では、そこに罪がない可能性のほうが高い。だから警察は動かず、郡の検視官事務所が電話番号を公開して情報を待っている。この構図そのものが、この件のいちばん奇妙なところだ。
手がかりが完全に尽きたわけではない。指紋は採れなかったが、組織が残っている以上、そこからDNAを取り出して法医遺伝系図学※にかける道は残っている。近年、この手法によって何十年も身元不明だった遺体に名前が戻った例は少なくない。ただし前提として、まずこの手が「探されている人」の一部でなければならない。誰も行方不明届を出していない人の一部だとしたら、照合する相手そのものがいないことになる。
※ 法医遺伝系図学:遺体から採取したDNAを民間の家系図データベースの情報と突き合わせ、遠い親族をたどって身元を絞り込む手法。2018年以降、米国で長期未解決事件の身元特定に使われるようになった。
元スレでは「合法か違法か」「献体という制度をどう見るか」という議論が延々と続いていたが、その隅で何人かが同じことを書いていた。この手の持ち主には名前があったはずだ、と。誰かの娘で、誰かの母で、名前で呼ばれて生きていた人だったはずである。自分の体をどう使ってほしいか、生前にきちんと希望を書き残していた人かもしれない。それがいま、事件番号で呼ばれ、宛先も差出人もない箱の中身として記録に残っている。
身元が分かれば、この件は静かに終わるのかもしれない。正規の手続きの中で起きた事務的な事故だった、という結末も十分にありうる。それでも、彼女の名前を取り戻すことには意味がある。誰かが名乗り出るまで、ドーフィン郡の記録には「成人女性とみられる」という一行だけが残り続ける。


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