2019年1月25日の朝、テキサス州トンボール。前日に急きょ決めたガレージセール※のために、エリザベス・バラーザさん(29)は自宅前の私道に品物を並べていた。夫婦の結婚5周年が目前で、貯めた資金でオーランドのテーマパークへ行く計画を立てていた矢先のことだった。
※ ガレージセール:自宅のガレージや庭先に不用品を並べて近所の人に売る、アメリカの住宅地でごく一般的な週末の習慣。前日に思い立って開くことも珍しくない。
午前6時50分過ぎ、一台のピックアップトラックが家の前に停まる。降りてきた人物は彼女に歩み寄り、十数秒ほど何かを話した。そして4発の銃声が響き、その人物は車に戻って走り去った。この一連の流れは、近隣の家に取り付けられた複数のカメラに記録されている。犯人の姿も、車の形も、映像として残っている。それでも7年以上が過ぎた今、その人物が誰なのかは分かっていない。
事件の概要
🗓️ 発生日:2019年1月25日(金)午前6時50分過ぎ
🌫️ 場所:テキサス州トンボール(ヒューストン近郊)の住宅街、自宅前の私道
👤 被害者:エリザベス・バラーザさん(当時29歳)、通称リズ
🔍 状況:早朝のガレージセールの準備中、車で乗りつけた人物と短く言葉を交わした直後に銃撃された
🕯️ 現状:翌朝、搬送先の病院で死亡が確認。犯人は特定されておらず、逮捕者も出ていない
リズさんはデータ関連の仕事に就くかたわら、SF作品とファンタジー小説をこよなく愛する人だった。とりわけ『スター・ウォーズ』への思い入れは強く、夫とそろいの衣装を自作してテーマパークやイベントに出かけるのが夫婦の楽しみだった。その衣装は遊びのためだけのものではない。彼女はヒューストン近郊の病院を訪ね、入院している子どもたちに扮装した姿を見せるボランティア団体の一員でもあった。
皮肉なことに、銃撃された彼女が運ばれたのは、彼女自身がボランティアとして通っていたその病院だった。翌朝、死亡が確認される。生前から臓器提供の意思を登録しており、その意思にもとづいて4人の命が救われている。
トンボールはヒューストンから車で北へ小一時間ほどの、事件らしい事件がめったに起きない住宅地である。早朝の私道で女性が撃たれ、犯人がそのまま消えるという出来事は、地域にとって前例のないものだった。
判明している事実
犯人は複数のカメラに写っていた
近隣の家に取り付けられていた防犯カメラとドアベルカメラ※が、犯行の前後をそれぞれ別の角度から記録していた。長い髪、あるいはウィッグをかぶり、ローブのようにゆったりした上着を着た人物が車を降り、リズさんのほうへ歩いていく姿が残っている。ただし解像度も距離も十分ではなく、顔の造作は判別できない。性別すら、映像を見た人によって意見が割れる。
※ ドアベルカメラ:玄関のインターホンにカメラとマイクを内蔵した製品の総称。アメリカの住宅地では2010年代後半に急速に普及し、動きを検知したときだけ短時間録画する仕組みのものが多い。この事件では近隣の複数世帯の記録が捜査資料になった。
車種はかなり細かく絞られている
犯人が乗ってきたのは、濃い色のニッサン・フロンティア Pro-4X のクルーキャブ、2013年式以降とみられている。これはフロンティアの中でも上位の装備仕様にあたり、同じ地域を走る同型・同色の台数はそれほど多くないはずだった。それでも車両の特定には至っていない。決定的だったのは、どのカメラにもナンバープレートが読める形では写っていなかったことである。
発砲の前に短い会話があった
玄関のカメラは、犯人とリズさんが十数秒ほど言葉を交わすやりとりを捉えていた。音声は残っているものの不明瞭で、何が話されたのかは分かっていない。元スレでは「犯人が紙のようなものを手渡したと当局が説明していた」という指摘が繰り返し書き込まれており、事実であれば動機に直結する要素になる。ただし、その紙に何が書かれていたのかが公表されたことはない。
車は現場を離れたあと戻ってきた
発砲後、犯人はすぐに車へ戻って走り去った。ところが近隣のカメラは、その車がほどなくして再び家の前を通過する様子を記録している。何を確認しに戻ったのか、そもそも確認が目的だったのかは分かっていない。この往復があるために、多くの人がこの犯行を「行き当たりばったりではない」と受け取っている。
懸賞金は5万ドルまで引き上げられた
遺族は事件後も一貫して情報提供を呼びかけ続けており、発生から3年の節目には懸賞金※が5万ドルに増額された。SNSや地元メディアを通じて映像の一部が繰り返し公開され、車種の情報も広く共有されている。それでも、犯人の特定につながる決定的な情報はいまだ寄せられていない。
※ 懸賞金とクライムストッパーズ:アメリカでは、未解決事件の情報提供に対して民間団体や遺族が懸賞金を出す仕組みが定着している。ヒューストンのクライムストッパーズもその一つで、匿名のまま情報を寄せられる通報窓口を運営している。
主な仮説
仮説1:彼女の生活を知る人物による計画的な犯行
この事件で最も多く語られてきた見方である。ガレージセールを開くと決めたのは前日で、本来ならその時間、彼女はすでに出勤していたはずだった。つまり「その朝、その場所に彼女が一人でいる」ことを知っていた人間はごく限られる、という理屈になる。前日の夜に同じ車が近所を通っていたという話もあり、下見の可能性が指摘されてきた。身近な人物による計画的な犯行を疑う声も繰り返し上がっているが、これまでに誰も容疑者として特定されておらず、逮捕者も出ていない。あくまで推測の域を出ない。
仮説2:金銭で請け負われた殺人
変装らしき装い、迷いのない足取り、そして現場に戻ってくる行動。この組み合わせから、いわゆる請負殺人※ではないかという見方が出ている。一方で、この説には無視できない弱点がある。撃つ前に十数秒も会話をする必要がどこにあるのか、という点である。伝えたいことがあった、あるいは相手を確かめたかったのだとすれば、そこには金銭以上の個人的な感情が介在していたことになる。
※ 請負殺人:報酬と引き換えに第三者が殺害を実行する形態を指す言葉。ただし映画のような「専門の職業人」とは限らず、実際には金銭に困った知人が引き受けるといった形が多いとされる。この事件でその事実が確認されているわけではない。
仮説3:直前の偶発的なトラブルの報復
あおり運転など、道路上の些細ないさかいが引き金になったとする説。前夜に彼女を尾行して自宅を突き止め、翌朝あらためて戻ってきた——という筋書きなら、前日から車が近所にいたことも、加害者と被害者に接点が見つからないことも説明がつく。ただしこの説にも穴があり、普段なら家の中にいるはずの時間に彼女が外に出ていたのは、犯人にとって出来すぎた偶然になる。
仮説4:売買や趣味の場での人間関係のもつれ
ガレージセールや衣装づくりを通じた取引、あるいは同じ趣味を持つ人の集まりの中で生じた個人的なこじれが背景にある、という見方もある。品物の売り買いでもめた相手が説明を求めに来た、という筋書きなら、発砲前の会話にも説明がつく。ただしこれも、あくまで「会話があった」という一点から逆算した推測にすぎない。
海外の反応
1. 謎の名無しさん
犯人の姿が映像として残っているのに、誰なのかまるで分からないというのが一番怖い。顔が判別できないというだけで、ここまで捜査が止まってしまうものなのか。
2. 謎の名無しさん(>>1への返信)
防犯カメラは「そこに誰かがいた」ことは示せても、「それが誰か」までは示せないんだよ。ナンバーが読めなければ、車種が分かったところで同じ車を持つ何千人の中から探す作業になる。
3. 謎の名無しさん(>>1への返信)
自分の住んでいた町でも、車も犯人の背格好も映っていたのに10年近く捕まっていない事件がある。映像がある=いずれ解決する、では全然ないと思い知らされた。
4. 謎の名無しさん
一番引っかかるのは撃つ前に会話していることだ。わざわざ声をかける必要があったということは、相手を確かめたかったか、どうしても伝えたいことがあったかのどちらかだと思う。
5. 謎の名無しさん
「変装していた」というのは映像を見た人の印象の話であって、1月のテキサスならただのロングコートや厚手の羽織りものでもおかしくない。そこを前提にして話を組み立てるのは危ないと思う。
6. 謎の名無しさん(>>5への返信)
同意する。自分も映像を見たけれど、「ローブ」と言われて見れば確かにそう見えるし、「厚手の上着」と言われればそうも見える。人間の目は先に与えられた言葉に引っ張られるものだ。
7. 謎の名無しさん(>>5への返信)
ただ、髪の長さと服の輪郭のせいで性別すら意見が割れているのは事実で、そこは意図的に分かりにくくしていた可能性も残ると思う。
8. 謎の名無しさん
現場を離れたあとに戻ってきて家の前を通過した、というところが理解できない。車で通り過ぎただけで倒れている人の生死なんて分かるはずがないのに、何を確認しに来たんだろう。
9. 謎の名無しさん
早朝の住宅街で、しかも普段ならとっくに出勤している時間帯。その日に限って家の前にいると知っていた人間はごく限られるはずで、そこがどうしても偶然だとは思えない。
10. 謎の名無しさん(>>9への返信)
逆に、前日から近所に来ていたのなら、たまたま朝に見かけて狙いを定めた可能性もゼロではない。ただ、それだと発砲前の会話の説明がつかないんだよな。
11. 謎の名無しさん
「これは請負の殺しだ」という書き込みが多いけれど、その根拠は映画やドラマの知識ではないのか。実際の依頼殺人がどう行われるかなんて、この場の誰も知らないと思う。
12. 謎の名無しさん
そもそも「プロ」と言っても、実態は金に困っている知り合いに銃を渡すだけ、みたいな話のほうが多いらしい。だから会話があったから素人だ、とも言い切れないんじゃないか。
13. 謎の名無しさん(>>12への返信)
それはある。映画に出てくる専門職のような姿を想像するから話がややこしくなる。誰かに頼んだのだとしたら、その誰かは案外どこにでもいる普通の人かもしれない。
14. 謎の名無しさん
自分は道路上のいさかいの報復説を推したい。前夜に同じ車が近所を通っていたのなら、帰宅する彼女を尾けて家を突き止め、翌朝あらためて来たという流れは無理なく説明できる。
15. 謎の名無しさん
その説も考えたけれど、それなら翌朝わざわざ彼女が外に出ている時間に来られたのは運が良すぎる。普段なら家の中で出勤の支度をしている時間帯なんだから。
16. 謎の名無しさん
ガレージセールを前日に決めたという話が本当なら、その情報がどこまで広がっていたかを洗うのが一番早いはずで、警察はとっくにやっているとは思うけれど。
17. 謎の名無しさん(>>16への返信)
看板を出したり、地域の掲示板やSNSで知らせたりすれば、知っている人は思ったより多くなる。前日に決めたからといって「限られた数人しか知らない」とは限らない。
18. 謎の名無しさん
車種がここまで細かく絞れているのに追えないのが不思議でならない。上位の仕様なら地域の登録台数もそう多くないはずで、一台ずつ当たることはできなかったのか。
19. 謎の名無しさん
ナンバーが読めない限り、同じ型と色の車を全部当たったところで「その日どこにいたか」は証明できない。持ち主が否定すればそこで行き止まりになる。台数の問題ではないんだ。
20. 謎の名無しさん
事件の直後にもっと広い範囲の映像を集めていれば、逃走経路をたどれたはずだと思う。時間が経ってから回収しても、家庭用の機器なら大半は上書きされて消えている。
21. 謎の名無しさん
一方で、住宅地のカメラは動きを検知したときだけ録る仕組みが多く、肝心の場面の前後が抜け落ちることも普通にある。集めれば全部映っている、というものでもないんだよ。
22. 謎の名無しさん(>>21への返信)
実際、近所の家の機器は車が通り過ぎたところしか記録していなかったらしい。設置台数が増えても、映像が途切れなくつながっているわけではないという現実がある。
23. 謎の名無しさん
彼女がどんな人だったかを読めば読むほど、動機の見当がつかなくなる。入院している子どもたちを訪ねるボランティアをしていた人が、なぜ朝の私道で狙われなければならなかったのか。
24. 謎の名無しさん(>>23への返信)
動機が被害者の側にあるとは限らないと思う。相手が一方的に恨みを募らせていた場合、周囲から見れば理由なんて最初から存在しないように見えるものだ。
25. 謎の名無しさん
当時この近くに住んでいたので朝のことは覚えている。何も起きない町で銃声が四発鳴ったというだけで、その日は近所じゅうが落ち着かなかった。いまだに解決していないのが信じられない。
26. 謎の名無しさん(>>25への返信)
その土地の空気が分かる書き込みはありがたい。報道だけだと「テキサスの住宅街」という記号しか伝わってこないので、実際にどういう場所なのかが少し見えた。
27. 謎の名無しさん
手渡されたとされる紙のことがずっと気になっている。何が書かれていたのか公表されないのは、捜査上の理由で伏せているのか、それともそもそも回収できていないのか。
28. 謎の名無しさん
情報が少なすぎるのに、みんな断定しすぎだと思う。数秒の映像で性別も体格も決めつけられないし、遺された家族の生活を勝手に推し量るのは違うんじゃないか。
29. 謎の名無しさん(>>28への返信)
本当にそのとおりだ。ネット上の推測が一人歩きして、遺族が二重に傷つけられる例をいくつも見てきた。分からないことを分からないままにしておく勇気も必要だと思う。
30. 謎の名無しさん
懸賞金が増えても情報が出てこないということは、知っている人間がごく少数なのか、あるいは知っていて黙っている理由がある人がいるのか。どちらにしても、まだ長い話になりそうだ。
未解決の謎
この事件がここまで人を落ち着かない気持ちにさせるのは、材料が足りないからではない。むしろ逆で、犯行の一部始終が映像として残っているにもかかわらず、そこから先へ一歩も進めないところにある。犯人の背格好も、着ていたものも、乗ってきた車の車種も分かっている。分からないのは、そのすべてを結びつける名前だけだ。
捜査を難しくしている要素はいくつも重なっている。ナンバープレートが読める形で写っていなかったこと。家庭用のカメラが動きを検知したときだけ短く録画する仕組みで、場面がつながらないこと。そして、加害者と被害者を結ぶ線がいまだに一本も見つかっていないこと。この最後の点が最も重い。動機が見えない限り、誰を調べればよいのかを絞ることができないからである。
それでも、この犯行が思いつきのものではないことを示す事実は残っている。前日の下見とみられる車の動き。撃つ前の十数秒の会話。そして、現場を離れてから再び家の前を通過した行動。いずれも、目的を持って来た人物の振る舞いである。だからこそ、それを実行した人物が7年以上にわたって誰にも気づかれずにいる、という事実が重くのしかかる。
コールドケース※として時間が過ぎるほど、記憶は薄れ、映像は失われ、当時のつながりは断ち切れていく。それでも遺族は情報提供を呼びかけ続け、懸賞金も引き上げられた。ガレージセールの看板を立てに出ただけの朝、彼女に近づいた人物が誰だったのか。その一点だけが、いまも空白のまま残されている。
※ コールドケース:捜査が行き詰まり、新たな証拠や証言が出てこないまま長期化した未解決事件を指す言葉。アメリカでは専従の担当班を置き、技術の進歩や時効のない罪状を背景に、数十年後に再捜査されることも珍しくない。

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