1954年、東京の羽田空港に降り立った身なりのいい白人男性が、入国審査で旅券を差し出した。記された国名は「トレド(Taured)」。そんな国はどこにもない。地図を見せられた男はフランスとスペインの間を指さし、やがてホテルの最上階の、見張りのついた部屋から忽然と姿を消す——。「トレドから来た男」※は、並行世界から迷い込んだ旅人の話として、ネットで繰り返し語られてきた都市伝説だ。
※ トレドから来た男:英語では「The Man from Taured」。スペインの古都トレド(Toledo)とは綴りも違い、関係はない。
ところが、この出来事を裏づける羽田空港の記録も当時の新聞記事も、誰ひとり見つけられていない。2021年、海外掲示板Redditの r/UnresolvedMysteries に「解決編」と題した投稿が現れた。1981年の本の一文から、1960年のカナダの新聞、英国議会の議事録、日本の新聞記事へと資料をたどった先にいたのは、国を丸ごと自作し、手作りの旅券で世界を渡り歩いた実在の男だった。
事件の概要
🗓️ 時期:伝説では1954年。記録上の羽田空港からの入国は1959年10月24日
🌫️ 場所:東京・羽田空港(伝説では、近くのホテルの最上階の一室も)
👤 人物:伝説では「トレド」の旅券を持つ白人男性。記録ではジョン・アレン・クチャル・ゼグラス(1960年の日本の報道で36歳)
🔍 状況:伝説では入国審査で実在しない国の旅券が見つかった。記録上は、手作りの偽造旅券で台北から羽田に入国し、都内の外国銀行の支店で金をだまし取ったとされる
🕯️ 結末:伝説では見張りのついた部屋から消えた。記録上は東京地裁で1年の刑を言い渡され、国籍も素性も分からないまま
伝説として語られてきた話
ネットに出回っている話は、どれもほぼ同じ文面だ。1954年、身なりのいい白人男性が羽田空港に到着し、入国審査で「トレド」という国の旅券を差し出す。係官が別室で地図を見せると、男はフランスとスペインの間を指さした。そこにあるのは実在の小国アンドラ※だが、男はアンドラなど聞いたこともない、自分はトレドから来たと言い張った。
※ アンドラ:フランスとスペインの国境、ピレネー山脈の中にある小さな国。
男はヨーロッパ各国の実在する通貨を持ち、日本のものを含むスタンプが押された旅券も本物にしか見えなかった。東京には商談で来たといい、日本語を話し、母語はフランス語だと言う。係官は男を近くのホテルの最上階の部屋に入れて見張りをつけたが、男の勤め先だという会社は男を知らず、予約したというホテルにも予約はなかった。係官が部屋に戻ると、男は消えていた。見張りは誰もドアから出ていないと言い、ほかの出口は最上階の、しかも鍵のかかった窓だけ。男は二度と姿を見せなかった。
記録で確認できる話
一方、1960年前後の新聞や公的な記録には、よく似ていながら筋書きの違う男が登場する。名前はジョン・アレン・クチャル・ゼグラス※。日本の新聞記事によると、1959年10月24日に韓国人の妻とともに台北から羽田空港に入国し、同年12月に東京の外国銀行の支店2か所で金をだまし取ったとして、不法入国と詐欺の罪で東京地裁の法廷に立った。
※ ジョン・アレン・クチャル・ゼグラス:英語の綴りは John Allen Kuchar Zegrus。英国議会の議事録では John Alan、日本の新聞記事の英訳では Ziegler とも書かれる。英訳の表記は機械翻訳による崩れだとコメント欄で指摘されている。
判明している事実
いちばん古い記録は1981年の本に載ったたった一文
2014年に同じコミュニティへこの話が投稿された際、別のユーザーが見つけていた最古の言及が、英国の作家コリン・ウィルソン※とジョン・グラントの共著『The Directory of Possibilities』※(1981年)の一文だ。「そして1954年には、日本での旅券審査で、トレドという国が発行した書類を持つ男が見つかったとされる」。書かれているのはこれだけで、地図もアンドラもホテルの密室も出てこない。しかも「〜とされる(alleged)」という伝聞だ。元投稿者はこれより古い言及を見つけられず、ウィルソンについて「出典をでっち上げる人ではないが、読んだ話を確かめずに書き写すことはありえた」とみている。
※ コリン・ウィルソン:英国の作家(1931〜2013)。評論『アウトサイダー』で知られ、超常現象を扱った著作も多い。懐疑派の著述家マーティン・ガードナーには「超常現象の話は、どれほど突飛でもほぼ何でも信じた」と評された。
※ 『The Directory of Possibilities』:ウィルソンとグラントが1981年に出した本。書名を直訳すると「可能性の名鑑」。
1960年、カナダの新聞が「国を発明した男」を報じていた
突破口は、日本に関する英語の掲示板 r/japan への投稿だった。そこで紹介されたカナダ・バンクーバーの新聞『ザ・プロビンス』1960年8月15日付の記事によると、世界を旅したかったゼグラスは、役人を感心させるために国を一つ発明し、首都と国民と言語まで作って自作の旅券に書き込んだ。本人は「エチオピアに帰化した者で、ナセル大佐※の情報部員」を名乗り、旅券は「サハラの南」にあるトレドの首都タマンラセットで発行されたことになっていた。この記事での綴りは「Tuared」で、伝説の「Taured」とはaとuが入れ替わっただけだ。記事は、この芸当も「東京で日本人に阻まれて終わった。彼らは地図を調べ始めたのだ」と結んでいる。
※ ナセル大佐:当時のエジプト大統領ガマール・アブドゥル=ナセル。軍人出身で、欧米の報道では「ナセル大佐」とも呼ばれた。
記事は首都の名も架空としていたが、コメント欄の指摘どおり、タマンラセットはアルジェリア南部のサハラ砂漠に実在する町で、周辺にはトゥアレグ※の人々が多く暮らす。元投稿者も追記で、架空の国の名前と場所はこの町と人々をもとに考え出された可能性が高いとしている。
※ トゥアレグ:サハラ砂漠の広い範囲で、国境にとらわれずに暮らしてきた遊牧の民。ベルベル(アマジグ)系の言葉を話す。
英国議会でも「この旅券で世界を回った男」が取り上げられていた
同じ投稿は、英国議会の議事録ハンザード※も紹介していた。1960年7月の英国下院で、ロバート・マシュー議員は「現在東京で訴追されているジョン・アラン・ゼグラス」の件を挙げている。非常に立派に見える旅券は独立主権国家トレド(ここでの綴りは「Tuarid」)の首都で発行されたことになっており、法廷で尋問された被告は、サハラの南のどこかにある人口200万人の国だと答えたという。議員は「この男はこの旅券で、何の支障もなく世界を回ってきた。我々の知る限り、架空の国の架空の言語で書かれた旅券で」と続けた。
※ ハンザード:英国議会の議事録の通称。議員の発言がほぼそのまま記録・公開されている。
日本の新聞は「国籍も素性も分からない謎の外国人」の判決を伝えていた
最後のピースは2020年11月、日本人を名乗るユーザーが r/japan に投稿した1960年の日本の新聞記事だった。別のユーザーによる英訳によると、不法入国と詐欺の罪に問われた国籍も経歴も不明の外国人被告(36)が、4月10日、東京地裁で判決を言い渡した裁判官の前で自殺を図った。言い渡されたのは1年の刑だった。被告は前年10月24日、韓国人の妻と台北から偽造旅券で羽田空港に入国し、同年12月、チェース・マンハッタン銀行の東京支店から約20万円と140ドル分のトラベラーズチェックを、韓国銀行の東京支店から約10万円をだまし取った。手作りの旅券に記された国名はまったくの架空で、文字は専門家に鑑定させても何語か分からなかった。
記事によれば、被告は14か国語を話し、取り調べでは「アラブ系の機関の命令で来日し、米国の情報機関のために働いている」と供述したが、そうした事実はなかった。地検は国籍が分からないことに手を焼きながらも起訴に踏み切ったが、公判でも正体は明らかにならず、英字紙は「ミステリー・マン」と報じたという。
共同通信の英文ニュースも「国籍のない男」に1年の刑と伝えていた
元投稿者は追記で、本人が「CIAの資料」と呼ぶ海外放送の記録集に載った共同通信の英文ニュース(1961年12月22日夕方の配信)も紹介している。「東京地裁は22日、国籍のない男ジョン・アレン・K・ゼグラスに、不法入国と偽の小切手を使った罪で1年の刑を言い渡した。自称アメリカ人で、FBIとCIAの工作員として活動してきたと公言するゼグラスは、1959年に偽の旅券で入国した」。入国が1954年ではなく1959年だったことは、この記録からも裏づけられる。
主な仮説
ここで問われているのは「男はどこから来たのか」ではなく、「伝説はどこから来たのか」だ。
仮説1:伝説はゼグラス事件が語り継がれるうちに形を変えたもの
元投稿者がたどり着いた、最も有力な説。存在しない国の旅券、羽田空港、日本側が地図を持ち出す場面という骨組みが重なり、伝説の Taured と記録の Tuared は2文字の並びが違うだけだ。元投稿者も「綴りがここまで近いと偶然とは思えない」と書いている。ただ、年は1959年から1954年に、国の場所は「サハラの南」から「フランスとスペインの間」に、結末は判決から密室での消失に変わっており、その経緯まではこの説でも説明しきれない。
仮説2:「トレド」はアンドラの聞き違いから生まれた
元投稿者がゼグラスの記録を見つける前に考えていた説で、伝説の前半が実際にあったなら、フランス語と日本語の言葉の壁で説明がつくかもしれない、というもの。アンドラはフランス語で「l’Andorre(ランドール)」といい、「Taured」と母音の響きが一部似ている。ただ、1960年の記事に「Tuared」という綴りが出てきた以上、アンドラとの類似は偶然とみるほうが自然で、元投稿者もその後はゼグラス事件を答えとしている。
仮説3:ホテルの密室から消えた後半は、あとから足された創作
元投稿者は、話の後半は丸ごと捨ててよいと考えている。見張り付きの密室から消える結末は、男が別の世界から来たと思わせるための付け足しに見えるからだ。1981年の一文にもホテルは出てこず、記録上のゼグラスも空港で足止めされたわけではない。一方、ホテルに移す流れそのものは、現在の日本の入管の運用からみて不自然ではない、との反論もコメント欄から出た。ただし1950年代も同じだったかは分からない。
仮説4:伝わる途中のどこかで、読み物と実話が混ざった
ウィルソンの一文は伝聞の形で、出典も示されていない。コメント欄には「ウィルソンは英国の奇談雑誌『フォーティアン・タイムズ』のインタビューで、昔読んだ短編集の話をいつの間にか実話だと思い込んでメモしていたと語っていた」という書き込みがあった。ただ、出典の号数は示されておらず、確認は取れていない。
海外の反応
1. 謎の名無しさん
子どもの頃にオカルト本でこの話を読んで、並行世界から迷い込んだ人は本当にいるんだと何年も信じてた。ちょっと寂しいけど、見事な謎解きだと思う。
2. 謎の名無しさん(>>1への返信)
自分もずっとこの話が好きだったけど、夢が壊れたとは思ってない。曇ってたガラスが拭かれて、向こう側がよく見えるようになっただけだよ。
3. 謎の名無しさん
正直、最初から作り話だと思ってた。羽田の記録も当時の新聞も出てこないのに、ホテルの窓に鍵がかかってた、みたいな細部だけやけに詳しいんだもの。
4. 謎の名無しさん
作り話だと証明しただけじゃなく、元の話より面白くしてくれたのがすごい。判決の場で自殺を図ったくだりも、どういう事情だったのか見当がつかない。ゼグラスは今でも十分に謎の人物だ。
5. 謎の名無しさん(>>4への返信)
解けたことで、かえって謎が増えるタイプの話だよね。ゼグラスは結局どこの誰だったのか。手がかりは当時の新聞記事くらいしか残ってない。
6. 謎の名無しさん
英訳の国名「Negusi Habesi Ghouloulouloul Esprit」で吹いた。特に Ghouloulouloul のところ。声に出して読むと妙に楽しい。
7. 謎の名無しさん(>>6への返信)
あれは機械翻訳のバグだと思う。日本語の元記事だと「ネグシ・ハベシ・グールール・エスプリ」で、最後にもう一回 “ouloul” が繰り返される部分なんて原文にはない。
8. 謎の名無しさん
念のため書いておくと、タマンラセットはアルジェリア南部に実在する町で、周りにはトゥアレグの人たちが暮らしてる。国は架空でも、下敷きにした土地と人々は本物だよ。
9. 謎の名無しさん(>>8への返信)
Tuared と Tuareg って1文字違いなんだよね。独立したトゥアレグの国がある設定にして、綴りを間違えたんじゃないかな。自分もこの話を読むたびにトゥアレグを連想してた。
10. 謎の名無しさん
細かいけど、「サハラの南」って説明もおかしい。タマンラセットは南というより、サハラのど真ん中にある町だから。
11. 謎の名無しさん
よくできた解説だけど、一つだけ問題がある。自分はトレド出身で、フランスとスペインの間にちゃんと実在するって証言できるんだ。さあ、どうする?
12. 謎の名無しさん(>>11への返信)
どうするも何も、今夜あたり黒いスーツの男たちが訪ねてきて、君は二度と姿を見せなくなる。それで一件落着だよ。
13. 謎の名無しさん
ホテルに連れて行くのは不自然って書かれてるけど、日本の入管だと割とありえる話なんだ。入国を拒否されると航空会社が送還の段取りをつけるまで施設で待たされるけど、お金のある人なら見張り付きでホテルに泊まれることもある。今だと1日3万円くらいかかる。
14. 謎の名無しさん(>>13への返信)
ただ、1950年代にも同じだったかは分からないよね。ホテルの部分がありえても、見張りのいる部屋から人が消えた部分はやっぱり信じようがない。
15. 謎の名無しさん
わざわざ架空の国をでっち上げる手間が不思議。旅券を偽造できる腕があるなら、実在する国にすればいいのに。本当はタマンラセットの出身で、誰にも読めなかった文字もトゥアレグの文字だった、なんてことはないのかな。
16. 謎の名無しさん(>>15への返信)
実在しない国だからこそ意味があったんだと思う。実在の国なら大使館に問い合わせればすぐばれるけど、存在しない国なら比べる相手がいない。実際、日本で見破られるまではうまくいってた。
17. 謎の名無しさん
伝説だと白人でフランス語が母語ってことになってるから、アルジェリア生まれのフランス人って線はどうかな。当時のアルジェリアはフランスの統治下だったし、タマンラセットを知っていてもおかしくない。
18. 謎の名無しさん(>>17への返信)
でも「白人」も「母語はフランス語」も、伝説の側にしか出てこない設定なんだよね。当時の新聞で分かるのは、14か国語を話す国籍不明の男だったことくらい。伝説を手がかりにすると推理ごとずれていく。
19. 謎の名無しさん
旅券の国名の綴りを載せてるサイトによると、”negussi habessi” みたいな単語が入ってたらしい。ネグスはエチオピアの言葉で「王」、ハベシはエチオピアの古名アビシニアのことじゃないかって説で、「エチオピアに帰化した」っていう自称ともつながる。
20. 謎の名無しさん
元投稿に引用されてる日本の記事は、機械翻訳を通した英訳らしい。国名が崩れてたくらいだから、日付や金額みたいな細かいところまで鵜呑みにはできないと思う。
21. 謎の名無しさん
「この男はこの旅券で、何の支障もなく世界を回ってきた」って議事録の一文で笑った。世界中の入国審査を通り抜けたのに、東京で地図を調べ始めた日本人にだけは通じなかった、ってオチもいい。
22. 謎の名無しさん
ゼグラスって火星人みたいな名前だと思ってたけど、実在する姓らしい。スロバキアあたりなのかな。似た綴りの Zegras って姓もあって、アメリカ東部に数十人いるだけだった。
23. 謎の名無しさん(>>22への返信)
その数字はどこで調べたの? 家系調べのサイトってアメリカ以外のデータが薄いことが多いから、実際はもっと広い地域にいるかもしれないよ。
24. 謎の名無しさん
元投稿の「米ドラマ『トワイライト・ゾーン』みたいな話」って表現、まさにそれ。自分の頭の中では、この話はずっと白黒の古いドラマの、お蔵入りになった幻の回として再生されてる。
25. 謎の名無しさん
ホテルから消えるくだりって、どこかの小説が元ネタなんじゃないの? 同じような題名の本を見かけた覚えがある。
26. 謎の名無しさん(>>25への返信)
『The Man from Taured』って小説のことなら、2015年に出た本。この話がネットで出回り始めて何年も後だし、ウィルソンの本からは30年以上経ってるから、元ネタではないよ。
27. 謎の名無しさん
うろ覚えだけど、コリン・ウィルソンは『フォーティアン・タイムズ』のインタビューで、昔読んだ短編集の話をいつの間にか実話だと思い込んでた、と話してたはず。バックナンバーを掘り返して号数を確かめてみる。
28. 謎の名無しさん(>>27への返信)
それが本当なら、ゼグラスの事件をもとにした読み物がどこかにあって、ウィルソンはそれを実話として拾った、って流れもありそう。号数が分かったら教えて。
29. 謎の名無しさん
これはあちこちに転載してほしい。「説明のつかない実話」として貼られるたびにもやもやしてたから。現実のほうが、たいてい面白い。
30. 謎の名無しさん
結局、いちばん単純な答え、つまり詐欺師が正解だったわけか。並行世界はなかったけど、国を一つ作り上げて世界中の入国審査をくぐり抜けた男が実在したなら、それはそれで十分に奇妙な話だ。
未解決の謎
「トレドから来た男」の元ネタは、1959年に羽田空港から入国し、東京地裁で裁かれたゼグラスだった可能性が高い。存在しない国、手作りの旅券、地図、少しずつ揺れる国名の綴り。偶然で片づけるのは難しい。ただ、伝説と記録の間には、まだ空白が残っている。
まず、ホテルの密室から消えた後半は誰が足したのか。1981年の一文にはホテルも地図もアンドラも出てこず、記録上のゼグラスは空港で止められても、消えてもいない。国の場所がサハラの南からフランスとスペインの間に移り、日本語を話すフランス語話者という人物像が加わり、密室からの消失という結末が付いた。その書き換えがいつ、誰の手で起きたのかは分かっていない。
次に、1954年という年はどこから来たのか。ウィルソンの本の時点で年はすでに1954年で、実際の入国の1959年とずれた理由は分からない。記録同士も完全にはかみ合わない。判決は日本の新聞記事の英訳では4月10日、共同通信では1961年12月22日とされ、その間の1960年7月にも英国議会で「現在訴追中」と語られている。別々の判決なのか日付の取り違えなのか、元スレでは触れられていない。
そして、ゼグラスは本当は何者だったのか。エチオピアに帰化した者、ナセル大佐の情報部員、アラブ系の機関の使い、米国の情報機関の工作員、自称アメリカ人。名乗るたびに肩書きが変わり、東京の法廷でも国籍は明らかにならず、名前が本名かどうかも分からない。並行世界の住人ではなかったが、「どこから来たのか誰にも分からない男」だったという一点だけは、伝説と現実がぴたりと重なっている。

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