2023年11月4日の夜、アメリカ・ルイジアナ州の小さな町から1台の白いピックアップトラックが出発した。運転していたのは建設作業員のジャレッド・マカロック、33歳。目的地は約1,000キロ先、少年拘置施設にいる10代の息子のもとだった。走行時間にして9時間半の道のり。彼は途中の給油所に3度立ち寄り、防犯カメラにもその姿が残っている。しかし翌5日の夕方、彼のトラックは州境近くの砂利道でエンジンをかけたまま見つかった。運転席側のドアは2枚とも開き、車内には2匹の飼い犬がリードをつけたまま残されていた。高価な工具はそのまま。消えていたのは、ペンチと懐中電灯と電子タバコと携帯電話——そして、ジャレッド本人だった。
事件の概要
🗓️ 発生日:2023年11月4日夜〜5日(最後の確認は5日午前8時30分頃)
🌫️ 場所:米インディアナ州ノックス郡ヴィンセンズ南方、ウォバッシュ川とホワイト川の合流点付近
👤 行方不明者:ジャレッド・マイケル・マカロック(当時33歳・建設作業員)
🔍 状況:息子に面会するため約1,000キロを運転中に消息を絶つ。トラックは砂利道でエンジンがかかったまま、犬2匹を乗せた状態で発見された
🕯️ 現状:ボランティアによる捜索も手がかりなし。2年以上経った現在も未発見
ジャレッドはルイジアナ州マリオンに住み、建設現場で働いていた。息子のチャンドラーは当時、少年拘置施設に入っていた。施設の所在地はイリノイ州だったとみられているが、はっきりした記録は公開されていない。それ以前は近隣の町の児童養護施設におり、そこで頻繁にいじめを受けていたと家族は説明している。ジャレッドはそれを知ってすぐに動いたとされるが、施設が移った具体的な経緯は公表されていない。
失踪当時のジャレッドは、複数の司法手続きを抱えた状態にあった。2013年に薬物の密売(スクールバス車内での受け渡しを伴うもの)と被扶養者へのネグレクトで有罪となり、それぞれ15年(うち5年は執行猶予)と8年の判決を受けている。5年服役したのち保護観察※に移り、失踪当時はその5年間が終わる直前だった。加えて、係属中の家庭内暴力事件が1件あった。家族の説明では、元交際相手が自傷をほのめかして刃物を手にしたため、それを取り上げる過程で身体を押さえたことが立件につながったという。ジャレッドはきょうだいを自死で亡くしており、その訴えを深刻に受け取ったとされる。ただしこれは本人側の説明であり、係属中のまま本人が姿を消したため、司法の判断は下されていない。これらの経歴が失踪と関係しているかどうかも、いまだ何ひとつ確認されていない。
※ 保護観察:刑期の一部を施設外で過ごす制度。定期的な出頭や生活上の条件が課され、違反すると残りの刑が執行されることがある。ジャレッドの保護観察は2024年2月26日、出廷しなかったことを理由に取り消された。すでに5か月近く行方不明だった人物に対する、手続き上の処理である。
判明している事実
記録に残った3つの給油所
出発は11月4日の午後6時30分頃。翌5日の午前1時39分、イリノイ州セイラムの給油所で燃料と飲み物を買っている。防犯カメラにも映っており、応対した店員は「特に変わった様子はなかった」と証言した。午前5時30分にはセントラルシティの給油所、午前8時30分にはカーマイの給油所で目撃されている。カーマイでは車を停め、店内に入り、現金で支払い、そのまま出て行った。同日正午にセントフランシスビルの飲食店で見かけた、という情報もあるが、本人とは確認されていない。
エンジンがかかったままの白い1台
トラックは2020年式の白いGMCシエラ。ノックス郡最南部、ウォバッシュ川とホワイト川が合流する「ザ・ポイント」と呼ばれる一帯の砂利道で見つかった。自宅のあるマリオンからは約965キロ離れている。運転席側の前後2枚のドアが開いたまま、キーは差し込まれ、エンジンはかかりっぱなしだった。そのまま燃料が尽きるまで回り続け、5日の日曜午後6時頃に自然に停止している。後部座席にいたのは、リードをつけられた2匹の犬だけだった。
消えたのは安価なものばかりだった
車内には仕事用の高価な工具が残っていた。後部座席にはタバコが1箱。一方で、ペンチ、懐中電灯、電子タバコ、そして携帯電話が見当たらなかった。金目のものには一切手がつけられておらず、持ち出されたのは日常的に手にする小物ばかりという、説明の難しい組み合わせになっている。
最後の電波は43キロ離れた町から
携帯電話の最後のピング※は、イリノイ州マウントカーメル付近で記録された。トラックが見つかったヴィンセンズからは約43キロ離れている。ボランティアによる捜索も実施されたが、遺留品も痕跡も見つからなかった。
※ ピング:携帯端末が最寄りの基地局と交信した記録。おおまかなエリアは絞り込めるが、GPSのように正確な地点まで特定できるわけではない。
発見場所すら3者で食い違う
トラックがどこで見つかったのかについて、ノックス郡警察、セントフランシスビル警察、そしてレッカーを担当した業者の説明がわずかに一致していない。田舎の砂利道で住所表記が曖昧だったせいなのか、それとも記録そのものに問題があったのか。この食い違いは、家族が「トラックは誰かに後から置かれたものだ」と考える根拠のひとつになっている。
主な仮説
仮説1:川に転落した事故だった
捜査関係者寄りの見立てとして紹介されているのがこれだ。トラックが見つかったのは2つの川の合流点。犬を降ろして用を足させ、車に戻したあと、自分が用を足していて足を滑らせた——という筋書きである。暗く、土地勘のない場所で、体調や判断力に問題があったなら十分に起こりうる。ただし地元を知る人からは「あそこは切り立った崖ではなく浅い河床に近い。落ちても素面なら這い上がれる」という反論も出ている。また、遺体が2年以上まったく上がらないことも説明としては弱い。
仮説2:車を離れたまま戻れなかった
電話で話した息子の母親は、ジャレッドが「話がかみ合わなかった」と述べている。彼女は自宅の位置情報を伝えたが、彼は電話を切ったきり現れなかった。目撃地点の間隔にも不可解な点がある。セイラムからセントラルシティまでは車で20分ほどの距離なのに3時間が空いており、セントラルシティからカーマイまでも1時間半の道のりに3時間かかっている。何らかの理由で判断力が落ちた状態のまま走り続け、車を降りたあと自力で戻れなくなった、という見方だ。米アイオワ州では、豚を積んだトラックが逆方向の高速道路に放置され、運転手が数か月後に遺体で見つかった事例がある。
仮説3:第三者が関与した
家族が一貫して主張しているのがこれだ。根拠として挙げられるのは、争った跡がないこと、発見場所の説明が食い違うこと、そして犬の性格である。2匹はとても人懐こく、トラックに乗るのが大好きだったため、見知らぬ人物が運転席に座っても騒がなかったはずだ——逆に言えば、飼い主が傷つけられる場面を目にしていれば黙っていなかったはずだ、というのが家族の言い分になる。ただし現時点で、特定の人物の関与を示す証拠は公表されていない。
仮説4:自らの意思で姿を消した
息子の母親によれば、ジャレッドは以前「しばらくどこかへ行きたい」と口にし、仕事の口がないか探してほしいと頼んでいたという。係属中の裁判と保護観察の終わりが重なる時期でもあった。ただし家族は、彼が裁判から逃げていたわけではなく、むしろ早く決着させようとしていたと否定している。何より、自分の意思で消えるつもりの人間が、リードをつけた犬2匹を水も食べ物もない車内に、ドアを開けたまま置き去りにするだろうか——という一点が、この仮説の最大の弱点になっている。
海外の反応
1. 謎の名無しさん
33歳で10代の息子がいるということは、18〜19歳より前に父親になっている計算になる。いちばん引っかかるのは、息子の母親が言ったという「話がかみ合わなかった」だ。怯えていたのか、呂律が回っていなかったのか、話の筋が飛んでいたのか。どれなのかで事件の性格がまるで変わってくると思う。
2. 謎の名無しさん(>>1への返信)
別の記事をいくつか読んだら、息子は16歳らしい。ということは16〜17歳で親になっている。10代で親になってうまくいく人もいるけれど、多くはそうならないし、その影響は子ども側にも出る。自分自身の成長が途中で止まってしまう部分はあると思う。ただ、今回何が起きたのかは正直まったく見当がつかない。
3. 謎の名無しさん
細かいところで恐縮なんだけど、「ペンチが無くなっていた」ってどうやって分かったんだろう。携帯や電子タバコは普段から持ち歩くものだろうから、車に無ければ持って出たんだなと納得できる。でもペンチだけは意味が分からない。工具は他にたくさん残っているのに、なぜペンチの有無を誰かが把握していたのか。
4. 謎の名無しさん(>>3への返信)
自分が想像したのは、工具箱に一つひとつ定位置があるタイプで、見つかったときにペンチの場所だけぽっかり空いていた、という状況。職人さんは工具の並びをきっちり決めている人が多いから、家族が見ればすぐ「これが無い」と分かるんだと思う。
5. 謎の名無しさん
うちの実家にあった車は、運転席の窓のハンドルが壊れていてペンチを噛ませないと開かなかった。だからペンチはいつも同じ場所に転がっていて、無ければ一発で気づく。そういう「車の一部みたいな工具」だったんじゃないかな。懐中電灯も同じで、ダッシュボードの決まった位置に入れっぱなしにする人は多い。
6. 謎の名無しさん
息子が児童養護施設でいじめられていたから拘置施設に入れられた、というくだりがどうしても納得できない。いじめられた側が閉じ込められる制度なんて成り立たないと思うんだけど。父親が何か行動を起こした結果そうなった、と書かれているけれど、そのあいだに何段階か抜けている気がする。
7. 謎の名無しさん(>>6への返信)
自分はアメリカの居住型の施設で4年ほど働いていた。拘置施設よりは緩い場所だけど、入っている子の事情は本当にバラバラだった。非行で来た子もいれば、里親制度の中で行き場がなくて医療的なケアが必要だから来た子、安全上の理由でほかに置く場所がなかった子もいる。ニュースはこの手の施設を全部ひとまとめにして書くから、施設の名前だけで子どもが何をしたかを推測するのは無理がある。
8. 謎の名無しさん
イギリスにも「セキュア・チルドレンズホーム」というのがあって、司法手続きで来た子と保護目的で入れられた子が同じ場所にいる。ふつうの施設からすぐ抜け出してしまう子を、より閉じた場所に移す運用だ。いい制度だとは思わないけれど、施設の種類だけで中身は判断できない。
9. 謎の名無しさん
車が2つの川の合流点で見つかっているのが全てだと思う。用を足そうと降りて、暗くて土地勘もなくて、足を滑らせて流された。それだけで十分説明がつく。携帯の最後の電波がどっち方向だったかにもよるけど、この手の失踪でいちばん多いのはこういう地味な結末なんだよね。
10. 謎の名無しさん(>>9への返信)
ポッドキャストで捜査側の見立てとして紹介されていたのがまさにそれ。トラックを降りて犬を用足しさせ、車に戻したあと、自分が用を足していて足を滑らせて川に落ちた、と。しかもあの道は地元の人しか使わない抜け道なんだそうだ。土地勘のない人間が偶然入り込む道ではない、という点は逆に引っかかる。
11. 謎の名無しさん(>>9への返信)
でもあそこの川、崖になっているような場所じゃなくて浅い河床みたいなものだよ。落ちたところで、素面ならふつうに這い上がれる。転落説を採るなら、まともに動けない状態だった前提が要る。
12. 謎の名無しさん
自分はどうしても犬が引っかかる。あの状態で犬を置いていくのは考えにくい。仮に自分で消えるつもりだったなら、まず親のところに犬を預けてから出るはずだ。水も食べ物もない車の中に、リードをつけたまま、ドアを開けっぱなしで残していくというのは、どんな計画とも噛み合わない。
13. 謎の名無しさん
投稿にある経路をグーグルマップに落としてみたけれど、まるで意味が通らない。イリノイ州内をジグザグに走って、何度も同じあたりに戻ってきて、北に行ったかと思えば南東に下がり、また北に上がる。目的地がどこだったのか分からないと断言はできないが、地図だけ見ると「時間を潰しながら走り回っている人」の動きにしか見えない。
14. 謎の名無しさん(>>13への返信)
時間の空き方もおかしいよ。セイラムとセントラルシティは車で20分ほどの距離なのに、目撃の間隔が3時間ある。セントラルシティからカーマイも1時間半で着くところに3時間かかっている。この時間、いったい何をしていたんだろう。
15. 謎の名無しさん
この事件は現地の地理を知らないと判断を誤ると思う。あのあたりは高速で1マイル1分と計算できるし、通勤ラッシュも存在しない。町を抜けると言っても信号は数えるほどで、所要時間はほとんど変わらない。遅れる要素があるとすれば貨物列車の踏切くらい。3時間の空白は、地元の感覚では相当に不自然な数字なんだ。
16. 謎の名無しさん
家族が「誰かにやられた」と言いたくなる気持ちは分かるけれど、本人が長いあいだ重ねてきた選択の結果という側面も無視はできないと思う。ただ、それは消えていい理由にはならないし、行方が分からないままでいい理由にもならない。そこは切り分けて考えるべきだと思っている。
17. 謎の名無しさん(>>16への返信)
本当にそう。どういう家族だろうと、息子の行方が分からない母親が現実にいる。何が起きたかを知らないままでいることは、それ自体がひとつの拷問だと思う。答えが出ないというのは、悪い答えを受け取ることとはまた別の種類のきつさがある。
18. 謎の名無しさん
家庭内暴力の件の書かれ方には違和感がある。「彼女を助けるためだった」という説明を確定した事実のように書くのは違うと思う。係属中の案件なら「本人はこう説明している」と書くべきで、そうでないと読んだ側は自動的に一方の言い分を採用してしまう。本当に正当な行為だと立証されていれば、そもそも起訴のまま残っていない。
19. 謎の名無しさん(>>18への返信)
同感。しかも本人が消えたことで、どちらの言い分も検証されないまま宙に浮いてしまった。被害を訴えた側からすれば、加害を否定された状態で相手だけが「悲劇の人」として語られていくわけで、それはかなりきついと思う。
20. 謎の名無しさん
アイオワ州のデイビッド・シュルツの件を思い出した。トラック運転手で、荷台に豚を積んだまま、届け先とは逆方向の高速道路にトラックが放置されていた。何か月も手がかりがなく、最終的に遺体が見つかって死因は薬物の過剰摂取と判断された。今回も似た形なんじゃないかと思っている。
21. 謎の名無しさん
奇妙な事件だ。拉致されたなら争った跡がないのが変。自分の意思で誰かの車に乗り換えたなら、エンジンをかけっぱなしにする理由がない。自死なら犬を置いていくはずがない。どの仮説にもひとつずつ穴があって、どれも半分しか説明できていない。消去法でいくと、酔いか何かで足を踏み外した事故がいちばん残る。
22. 謎の名無しさん(>>21への返信)
その3つが全部「半分だけ当てはまる」から、結局いちばん素直な説明に落ち着くんだよね。ただ、素直な説明が正しいとは限らないのがこの手の事件の厄介なところで。素直な説明で終わるなら、ふつうは2年もかからずに遺体が上がっている。
23. 謎の名無しさん
個人的に一番引っかかっているのは、トラックの発見場所について郡警察と町の警察とレッカー業者で説明が食い違っているという点。母親も「写真と照らすと、示されている位置は実際の場所と全然違う」と言っているらしい。事件性の有無以前に、記録がその状態だと後から検証しようがない。
24. 謎の名無しさん(>>23への返信)
田舎の砂利道って住所らしい住所が無いことが多くて、通報した人とレッカーと郡警でそれぞれ違う目印を基準に説明する、というのはよくある話。だから必ずしも隠蔽の証拠にはならないと思う。ただ、記録として残るのが3種類の曖昧な場所だけ、というのは捜索する側からすれば最悪の条件だ。
25. 謎の名無しさん
誰かを助けようとして車を降りた可能性はないだろうか。ペンチ、懐中電灯、携帯という3点セットは、これから何かを直しに行く人の持ち物そのものだと思う。夜道で止まっている車を見かけて、手を貸すつもりで降りた。その先で何が起きたかは分からないけれど、持ち出されたものの組み合わせとしては一番しっくりくる。
26. 謎の名無しさん
それなら、後部座席にタバコが残っているのがやっぱり気になる。少し降りるだけの人でも、タバコを吸う習慣がある人はまず持って出る。逆に言えば、自分の意思でゆっくり降りたというより、何かの流れでそのまま外に出た感じがする。
27. 謎の名無しさん(>>26への返信)
公開されている写真の話だと、車内に缶の飲み物が4本あって、そのどれも開けられていなかったらしい。給油所で買ったものが手つかずのまま、というのは、その直後に短時間で車を離れたことの傍証にはなると思う。細かいけれど、こういう小さな引っかかりが積み重なる事件だ。
28. 謎の名無しさん
大手メディアが最近この件を取り上げていて、新しい話が出ていた。きょうだいを亡くしてから酒量が増え、自分から施設に入って治療を受けた時期があったこと。それと、途中の給油所の映像を比べると、最初は積んでいたクーラーボックスと荷物が後の映像では見えなくなっていること。それから、母親のところに朝8時59分にメッセージが届いていたが、誤送信だと思って返さなかったそうだ。以前にも同じことがあったから、と。
29. 謎の名無しさん
こういう話は「動物は無事です」を最初に書いてほしい。読んでいるあいだずっと犬のことが頭から離れなかった。2匹とも祖父母のところで暮らしていると書いてあって、そこでようやく息ができた。飼い主に何かあったとき、ペットがどうなったかを最後まで書いてくれる記事は本当にありがたい。
30. 謎の名無しさん(>>29への返信)
そして息子のほうも、翌年に一度行方が分からなくなって、幸い無事が確認されている。父親が消えて、その事実を受け止めきれないまま自分もいなくなって、また戻ってきた。この一家に起きたことの密度が重すぎる。せめて息子だけは、この先まっとうに生きていけますように。
未解決の謎
この事件が2年以上たっても動かない最大の理由は、痕跡が一切ないことに尽きる。争った跡もなければ、争わなかった証拠もない。血痕も、遺留品も、決定的な防犯カメラ映像もない。あるのは、燃料が尽きるまで回り続けたエンジンと、リードをつけたまま残された2匹の犬、そしてなくなった小物が4つ。捜査する側から見ても、「事件」として立てるための足場が最初から存在しない状態だといえる。
もっとも妥当に見えるのは、やはり川への転落だろう。トラックが停まっていたのは2つの大河が合流する地点で、そこに至る砂利道は地元の人間しか使わない。犬を降ろし、自分も車を離れ、暗い岸辺で足を踏み外した——という説明は、開いたままのドアともエンジンとも矛盾しない。しかし、地元を知る人ほど「あそこは落ちたら這い上がれないような場所ではない」と言う。そして2年以上、この一帯からは何も上がってきていない。
逆に、家族が主張する第三者の関与を裏づける材料も出ていない。高価な工具が手つかずで残っていた以上、金銭目的の犯行としては筋が通らない。発見場所をめぐる証言の食い違いは確かに気持ちの悪い点だが、記録の雑さで説明がつく範囲でもある。
残されているのは、あの空白の時間である。車で20分の区間に3時間、1時間半の区間に3時間。9時間半で着くはずの道のりを、14時間かけてもまだ走り続けていた。そのあいだ彼が何をしていたのかが分かれば、この事件の形はまったく違って見えてくるはずだ。それが分からないまま、白いトラックが停まっていた砂利道と、燃料が尽きて静かになった夕方6時だけが、いまも記録として残っている。


Comments