2003年8月28日の午後、アメリカ・ペンシルベニア州の銀行に、ひとりの男性が入ってきた。首には金属製の大きな首輪がはめられ、手には杖のようなものを握っている。窓口に差し出したメモには、25万ドル(日本円で3,000万円近く)を要求する文面があった。男性は地元のピザ店で配達員として働いていたブライアン・ウェルズ、46歳だった。
行員から受け取った8,000ドル余りを持って銀行を出たウェルズは、まもなく近くの駐車場で警察に取り押さえられる。彼は、配達に行った先で男たちに襲われて首輪を付けられた、中身は時限式の爆弾で、このままでは爆発する、と訴えた。警察は爆発物処理班を呼んだが、到着を待つあいだに首輪は音を立て始め、処理班が着くまであと数分というところで爆発した。ウェルズはその場で亡くなった。のちに関係者2人が有罪となり、事件は一応の決着を見ている。それでも、ひとつの問いだけが20年以上経った今も残っている。ウェルズは本当に、ただの被害者だったのか。
事件の概要
🗓️ 発生日:2003年8月28日(木)午後
🌫️ 場所:米国ペンシルベニア州エリー近郊の銀行支店と、その近くの駐車場
👤 被害者:ブライアン・ウェルズ(当時46歳/ピザ店の配達員)
🔍 状況:爆弾付きの金属製の首輪を首に固定された状態で銀行に入り、現金を要求。銀行を出たあと警察に取り押さえられ、「脅されてやらされた」と訴えた
🕯️ 結末:爆発物処理班の到着を待つあいだに首輪が爆発し、その場で死亡。2007年に2人が起訴され、のちに有罪。共謀者とみなされた男性は起訴前に病死
舞台となったエリーは、ペンシルベニア州の北西の端、五大湖のひとつエリー湖に面した人口10万人ほどの都市だ。ウェルズはこの町のピザ店で配達の仕事をしていた。事件当日の昼すぎ、店に配達の注文が入る。届け先は、幹線道路から外れた未舗装の道の先にある、テレビ局の送信塔の敷地だった。ふだん人が出入りするような場所ではない。
それからしばらくして、ウェルズは首輪を付けた姿で銀行に現れた。銀行を出て車で移動していたところを警察に囲まれ、手錠をかけられて路上に座らされた。現場にはテレビ局のカメラも来ていた。本人が「爆弾が付いている」と訴える以上、警察は周囲から距離を取り、専門の処理班の到着を待つしかなかった。
銀行強盗は連邦法の犯罪にもあたるため、捜査にはFBI※も加わった。首輪爆弾という前例のない手口、車内に残された奇妙な指示書、そして被害者なのか加担者なのかも分からない男の死。事件は全米で大きく報じられ、2018年にはNetflixのドキュメンタリーシリーズ『Evil Genius』※でも取り上げられている。
※ FBI(連邦捜査局):州をまたぐ事件や、連邦法に関わる犯罪を捜査する米国の機関。預金保険に加入している銀行への強盗は連邦法でも罰せられるため、地元警察と並んでFBIが捜査に当たることが多い。
※ Evil Genius:2018年にNetflixで配信された全4話のドキュメンタリーシリーズ(原題のまま表記)。この首輪爆弾事件を、首謀者とされた人物を中心に追った作品。
判明している事実
首輪の爆弾も杖の銃も本物だった
ウェルズの首に固定されていたのは、鍵穴のついた金属製の首輪と、爆発物を収めた箱を組み合わせた手製の装置だった。鍵がなければ外せない構造で、時限式の仕掛けも組み込まれていた。手に持っていた杖も、杖に見せかけた手製の散弾銃だったことが分かっている。装置は警察の目の前で実際に爆発し、ウェルズはその場で亡くなった。脅しのための見せかけではなかったことは、この時点ではっきりしている。
車内には手書きの「宝探し」の指示書
ウェルズの車からは、手書きの指示書が見つかった。銀行で金を受け取ったあと、町の決められた場所を順番に回り、そこに隠された次の指示や鍵を見つけていけば首輪を外せる、という趣旨の内容で、いわば命がけのスカベンジャーハント※だった。指示に従わなければ命はない、という脅しの文言も含まれていたと報じられている。ただ、指示どおりに回ったとして、制限時間内に最後までたどり着ける設計だったのかどうかは、はっきりしていない。
※ スカベンジャーハント:指示書やヒントを手がかりに決められた場所を回り、品物や次の手がかりを集めていく遊び。欧米ではパーティーや学校行事の定番として知られる。
捜査を動かしたのは冷凍庫の遺体
事件から3週間ほど後、送信塔からほど近い場所に住んでいた男性、ウィリアム・ロススタインが自ら警察に通報した。自宅の冷凍庫に男性の遺体がある、という内容だった。遺体はマージョリー・ディール=アームストロングという女性の交際相手で、彼女に殺害されたものだった。ディール=アームストロングはこの殺害について罪を認め、服役することになる。ロススタインと彼女は旧知の間柄で、こうした接点から、2人とウェルズ事件との関わりが取り沙汰されるようになった。
2人が有罪、1人は起訴されないまま死亡
2007年、大陪審※はディール=アームストロングと、彼女の知人ケネス・バーンズを、銀行強盗や共謀などの罪で起訴した。バーンズは罪を認め、長期の禁錮刑を言い渡された。ディール=アームストロングは精神状態をめぐる審理を経て2010年に公判にかけられ、有罪となって終身刑に30年を加えた刑を受けた。彼女は2017年、服役中に病気で亡くなっている。一方、検察が共謀者のひとりとみなしていたロススタインは2004年に病死しており、起訴されることも、法廷で本人の言い分が争われることもなかった。
※ 大陪審:市民から選ばれた陪審員が、検察の示す証拠をもとに起訴するかどうかを判断する米国の制度。有罪か無罪かを決める通常の陪審とは別のもの。
検察は「ウェルズも計画を知っていた」との見方
2007年の起訴にあたり、検察とFBIは、ウェルズが強盗の計画を事前に知っていたという見方を示した。完全に無関係な通りすがりではなかった、という立場である。ただし、首輪の爆弾が本物だとまでは知らされていなかったのではないか、という見方もあわせて伝えられている。これに対してウェルズの家族は、彼は計画に加わっていない、巻き込まれた被害者だと一貫して反論してきた。本人が亡くなっている以上、この点を本人の口から確かめる手段はない。
主な仮説
仮説1:計画は知っていたが、爆弾は偽物だと思っていた
もっとも広く語られているのが、ウェルズは強盗の計画を事前に知っていて、自分も加わるつもりだったが、首輪の爆弾は見せかけだと聞かされていた、という見方である。根拠としてよく挙げられるのが、警察に取り押さえられたとき、彼が語った犯人像が、のちに有罪となった関係者の誰とも一致しなかったことだ。本当に見知らぬ男たちに襲われたのなら、なぜ事実と違う説明をしたのか。本物だと気づいて慌てたが、自分も計画に加わっていたとは言えなかった、と考えると筋が通る、というわけである。検察側の見方もこれに近い。一方で、この説は罪を認めた関係者の証言に支えられている部分が大きく、その証言をどこまで信用できるのかという疑問も出ている。
仮説2:何も知らずに選ばれた被害者だった
ウェルズの家族が一貫して訴えてきたのが、この立場だ。ピザの配達員であれば、注文の電話一本で人けのない場所に呼び出すことができる。彼が狙われたのは、たまたまその注文を受けて配達に出たからにすぎないのではないか、という考え方である。犯人像が食い違った点についても、本当のことを言えば爆発させると脅されていた、あるいは極度の恐怖で混乱していた、と考えれば説明はつくという反論がある。ただ、共犯説の側からは、何も知らない人間が首に爆弾を付けられた状態で、あれほど細かい指示に従って動けたのかという疑問が出されている。
仮説3:宝探しは最初から「解けないゲーム」だった
車内の指示書は、決められた場所を回れば鍵が手に入ると約束していた。しかし、指示どおりに動いても、制限時間内に首輪を外せる見込みはほとんどなかったのではないか、とする見方がある。そうだとすれば、首謀者たちは最初からウェルズを生きて帰すつもりがなく、事情を知る人間の口を封じる意図もあったことになる。この説は、ウェルズが計画を知っていた場合でも、知らなかった場合でも成り立つ。仮に共犯だったとしても、彼が仲間に裏切られた被害者でもあったという点では、共犯説の人も被害者説の人もおおむね見方が一致している。
仮説4:本当に計画を仕切ったのは別の人物だった
公判で首謀者とされたのはディール=アームストロングだが、本人は有罪判決の後も、計画の中心にいたのはロススタインだと主張していたと伝えられている。装置を作ったのもロススタインではないかと見る人もいる。ただ、彼は起訴される前に亡くなっており、反論する機会がないまま名前だけが残った。亡くなった人物に責任を寄せるのはたやすい、という指摘もある。また、事件から間もなくウェルズの同僚の男性が薬物の過剰摂取で亡くなったと報じられ、何か知っていたのではないかと取り沙汰されたこともあるが、事件との関わりを示す証拠は出ていない。
海外の反応
1. 謎の名無しさん
この事件、Netflixのドキュメンタリーシリーズ『Evil Genius』でじっくり追えるよ。見始めたら止まらなくなって、結局一晩で全部見てしまった。
2. 謎の名無しさん(>>1への返信)
自分もあれを見たあと、母親に電話して「なんでこんな事件のこと一度も教えてくれなかったの!」って詰め寄ったんだ。返ってきたのは「話題に出なかったのよ。あんた3歳だったし」。いまだに納得してない。
3. 謎の名無しさん(>>2への返信)
……ちょっと待って、お母さんがわざと黙ってたってこと? もしかして事件の関係者と親戚だったりする?
4. 謎の名無しさん(>>3への返信)
いや全然関係ない(笑)。3歳の子に首輪爆弾の話をする親がいないのは分かってるんだ。分かってるけど、なんか悔しいんだよ。
5. 謎の名無しさん
2〜4のやり取り、一瞬「まさか関係者の家族が登場したのか」と思って身構えた。事件スレのコメント欄で、いちばんヒヤッとした流れだったわ。
6. 謎の名無しさん
本人も強盗の計画には加わっていて、最後に仲間に裏切られた、ということを示す強い証拠がそろっていると思う。首謀者だった女は、どう見ても本物の悪人だったよ。
7. 謎の名無しさん(>>6への返信)
マージョリー・ディール=アームストロングだったはず。記憶違いでなければ。ドキュメンタリーの題名の『Evil Genius』も、たぶんこの人のことを指してるんだと思う。
8. 謎の名無しさん
この事件って、ほぼ解決してるんだよね。まだはっきりしないのは、配達員本人がどこまで知っていたかという一点だけで、関わった人間は捕まってる。YouTubeで詳しく解説している動画を見た上での自分の考えは、準備の段階ではある程度関わっていたけど、首輪だけは本人の意思に反して付けられた、というもの。
9. 謎の名無しさん(>>8への返信)
本人は警察に「男たちに襲われて首輪を付けられた」と話していたけど、その犯人像は、のちに捕まった関係者の誰とも一致しなかった。これは、計画を知っていて途中で裏切られたことをかなり強く示していると思う。
10. 謎の名無しさん
自分は、首輪の爆弾は偽物だと聞かされていたんじゃないかと思ってる。だから大人しく付けていられた。ほかの段取りについては、どう見ても知っている様子だったし。
11. 謎の名無しさん(>>9への返信)
犯人像が違ったのは、脅されていたからとも考えられないかな。本当のことを言ったら爆発させる、と言われていた可能性だってある。事実と違う説明をしたことを、共犯の根拠としてそこまで強く見ていいのかは疑問だよ。
12. 謎の名無しさん
本人が関わっていたかどうかは、正直いまでも確信が持てない。でもどちらにしても、実際に関わっていた連中はちゃんと捕まって裁かれた。そこだけは救いだと思う。
13. 謎の名無しさん(>>12への返信)
全員が裁かれたわけじゃないよ。検察が共謀者のひとりとみなしていた男は、起訴される前に病気で亡くなってる。その男の口から何も聞けなかったのは、この事件の大きな穴だと思う。
14. 謎の名無しさん
誰にやられたのかと聞かれて、事実と違うことを答えたのは確か。でも、あの首輪が本当に爆発すると分かっていたのかどうか。そこは自分には判断がつかない。
15. 謎の名無しさん
これのどこが未解決なのか分からない。裁判で有罪も出ているし、経緯もかなり細かく記録されている事件だよ。「未解決」の棚に入れるのは違う気がする。
16. 謎の名無しさん(>>15への返信)
同感。Netflixで全4話のシリーズまで作られてる事件を「未解決」として紹介するのは、さすがに無理がある。スレ主、自動投稿のbotじゃないよね?と一瞬疑った。
17. 謎の名無しさん
「解決済みだろ」って声が多いけど、犯人が裁かれたことと、被害者が何を知っていたかが分かったことは別の話だと思う。遺族にとって大事なのは後者のほうで、そこはまだ誰にも証明できていない。
18. 謎の名無しさん
この事件、もうこれ以上おかしな話にはならないだろうと思うたびに、次の展開でさらに上を行くんだよな。起きたこともおかしいけど、関わった人間が揃いも揃って普通じゃない。
19. 謎の名無しさん
映画もあるよ。ピザの配達員が体に爆弾を付けられて銀行強盗をさせられる、2011年のアメリカのコメディ(原題『30 Minutes or Less』)。この事件を描いた作品ではないけど、設定はどうしてもこれを連想させる。
20. 謎の名無しさん
警察に取り押さえられてから爆発までのあいだ、現場にはテレビ局のカメラが来ていたんだよね。本人は路上に座らされたまま、周りは遠巻きに見ているしかなかった。待つしかない時間の長さを想像すると、息が詰まる。
21. 謎の名無しさん
彼は間違いなく計画に加わっていたと思う。ただ、仲間が最初から自分を裏切るつもりでいたことだけは知らなかった。自分の中では、そういう事件だという結論になってる。
22. 謎の名無しさん(>>21への返信)
「間違いなく」と言い切れるほどの材料はあるのかな。計画を知っていたという話は、罪を認めた関係者の証言に頼っている部分が大きいと思う。本人はもう反論できないんだから、そこは慎重でいたい。
23. 謎の名無しさん
エリー出身。あの日のことはよく覚えてる。地元のニュースはその話で持ちきりで、大人たちもみんな落ち着かない様子だった。とにかく変な一日だったよ。
24. 謎の名無しさん
自分は、彼は何も知らずに選ばれただけだと思ってる。ピザの配達員なら、注文の電話一本で人けのない場所に呼び出せる。狙いやすい立場にいたから選ばれた、というほうが自然に見える。
25. 謎の名無しさん(>>24への返信)
でも、それなら指示書にあれだけ細かい段取りを書く意味があるかな。何も知らない人間が、首に爆弾を付けられたパニックの中で、あの指示どおりに動けるとは思えない。ある程度話が通じている相手を前提にした計画に見える。
26. 謎の名無しさん
当時の警察が近づかなかったことを責める人もいるけど、目の前で「爆弾を付けられている」と訴える人がいたら、周りを避難させて距離を取るのは手順として当然だと思う。無理に外そうとしていたら、巻き込まれる人が増えていたかもしれない。
27. 謎の名無しさん
いちばんゾッとするのは、あの宝探しの指示書が、そもそも最後までたどり着ける設計だったのか怪しいところ。もし解けないように作ってあったなら、首謀者は配達員を生きて帰す気がなかったことになる。
28. 謎の名無しさん
首謀者とされた女は、有罪になったあとも「本当に計画を仕切っていたのは別の男だ」と言っていたらしい。ただ、誰が主導したにせよ、他人の首に爆弾を付けて町に送り出す計画に関わった時点で、罪の重さは変わらないと思う。
29. 謎の名無しさん(>>28への返信)
その「別の男」はもう亡くなっていて、法廷で反論することもできなかった人なんだよね。責任を押しつける相手としては、都合がよすぎる気もする。主な関係者の多くがこの世にいない今となっては、確かめようがないけど。
30. 謎の名無しさん
共犯だったとしても被害者だったとしても、46歳の配達員があの駐車場で最後の時間を過ごしたことは変わらない。どちらの説を取るにしても、彼をただの「爆弾強盗犯」として片づけてしまうのには抵抗がある。
未解決の謎
この事件は、刑事事件としてはひとつの区切りがついている。関係者のうち2人が有罪となり、首謀者とされた女性は服役中に亡くなった。それでも「未解決」と呼ばれ続けるのは、事件の中心にいた人物、つまりウェルズ本人の立ち位置が確定していないからだ。彼は計画の一員だったのか、何も知らずに選ばれただけだったのか。検察は前者に近い見方を示し、家族は後者を主張してきた。そのあいだを埋める新しい証言は、もう出てこない可能性が高い。
残っている疑問はほかにもある。駐車場で警察に語った犯人像は、なぜ事実と一致しなかったのか。車内の指示書を書いたのは誰で、その先には本当に鍵が用意されていたのか。装置を実際に組み上げたのは誰だったのか。どれも、答えを知っていたはずの人物がすでにこの世にいない。ウェルズは2003年に、ロススタインは2004年に、ディール=アームストロングは2017年に亡くなった。
そしてもうひとつ考えておきたいのが、この事件は「解決済み」なのか「未解決」なのか、という議論そのものである。元スレでも「どこが未解決なのか」という声は少なくなかった。犯人を裁くという意味では、確かに終わっている。けれど、ひとりの配達員が最後の数十分に何を知り、何を思っていたのかは、どの判決にも書かれていない。首輪が音を立て始めたとき、彼は自分の身に起きていることをどこまで理解していたのか。その一点が分からない限り、この事件は遺族にとっても、記録を追う側にとっても、閉じることがない。


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