2019年8月、カナダ西部の小さな湖で、13歳の少年が家族のボートを出し、ゴープロを手に水へ潜っていった。別荘のそばの湖底に、ひっくり返った車らしき影が沈んでいるのを見つけたからだ。少年が撮った映像をもとに警察の潜水班が確認したところ、それは本物の車だった。そして車内からは、人の遺体が見つかった。
ナンバープレートを照会して浮かび上がったのは、27年前の行方不明者届だった。1992年、結婚式に出席するために一人で車を走らせ、そのまま消息を絶った69歳の女性。長く続いた「どこへ行ったのか分からない」という状態は、こうして終わった。ただし、終わったのは所在の謎だけである。なぜ彼女の車が湖に入ったのか、なぜ幹線道路のすぐ脇にあったものが27年も見つからなかったのかは、いまも説明されていない。
事件の概要
🗓️ 失踪:1992年、バンクーバー島からアルバータ州へ向かう途中
🌫️ 場所:カナダ・ブリティッシュコロンビア州レベルストーク近郊、グリフィン湖
👤 行方不明者:ジャネット・ファリスさん(当時69歳・バンクーバー島在住)
🔍 状況:結婚式に出席するため単独で運転。トランスカナダ・ハイウェイ沿いの湖に、車ごと転落したとみられる
🕯️ 発見:2019年8月、13歳の少年が湖底の車を発見。RCMP(王立カナダ騎馬警察)の潜水班が車内から遺体を確認
グリフィン湖は、ブリティッシュコロンビア州の山あいの町レベルストークの近くにある小さな湖で、夏には地元の人が普通に泳ぎに来る場所だ。湖のすぐ横をトランスカナダ・ハイウェイが走っている。1992年、ジャネット・ファリスさんはバンクーバー島の自宅を出て、アルバータ州で開かれる結婚式へ向かった。フェリーと山越えを含めて16時間前後かかる長い行程で、彼女は一人で運転していた。そして、結婚式の会場に姿を現すことはなかった。
それから27年、家族は彼女がどこにいるのかを知らないまま過ごすことになる。息子のジョージ・ファリスさん(62)は当時を振り返り、「一番つらかったのは、分からないということだった」と地元メディアに語っている。孫のエリン・ファリス=ハートリーさんも「行方不明のままだと、悲しみ方を決められないような感覚がずっとあった」と話した。
近年の北米では、ソナーや水中カメラを積んだ小型ボートで湖や川を回り、行方不明者の車を探す民間の水中捜索ボランティア※の活動が知られるようになっている。だが今回の発見は、その流れとはまったく関係がない。夏休みで別荘に来ていた少年が、たまたま水の中を覗いただけだった。
※ 水中捜索ボランティア:ソナー(音波探査機)や水中カメラを使い、湖や川に沈んだ車を無償で探す民間のグループ。北米では2010年代後半から活動が広く知られるようになり、警察の捜索が打ち切られた行方不明事件で車と遺体が見つかる例が続いている。日本ではほとんど見かけないが、内陸に湖や貯水池が多く、車ごと水没する事故が起こりうる北米では一定の役割を担っている。
判明している事実
湖底4.5メートルに逆さまの車
2019年8月下旬、グリフィン湖に来ていた13歳のマックス・ウェレンカさんが、水深15フィート(約4.5メートル)の濁った水の底に、ひっくり返った車のような影があることに気づいた。通報を受けたRCMPが8月21日に現地入りすると、少年は一家のボートで警官を現場まで案内し、自分でゴープロを持って潜り、それが実際に車であることを映像で確かめた。「僕はいつも、物事を疑ってかかるのが好きなんだ」と、彼は地元テレビ局の取材に答えている。
ナンバープレートが1992年の届出に一致
数日後に入った潜水班が車体からナンバープレートを回収し、照会にかけた。RCMPのトーマス・ブレイクニー巡査長は「プレートを取得することができた。それが1992年の行方不明者の事案に結びついた」と説明している。潜水班が改めて水中に入ったとき、車内には人の遺体があった。捜査員自身が「衝撃を受けた」と語るほど、誰も予期していなかった結果だった。
27年前に結婚式へ向かった69歳
車の持ち主は、バンクーバー島に住んでいたジャネット・ファリスさん(当時69歳)だった。1992年、アルバータ州で行われる結婚式に出席するため、一人で運転して自宅を出たまま行方が分からなくなっていた。引き上げられたのは1980年代型の黒いホンダ車で、27年前の届出に記録された車と一致した。
幹線道路の路肩から約3メートル
車が沈んでいた地点は、トランスカナダ・ハイウェイの路肩からわずか10フィート(約3メートル)だった。カナダを東西に貫く主要幹線道路のすぐ横であり、夏には泳ぐ人も来る湖である。それでも車体は、27年間、水面の下に留まり続けた。
警察は事件性を認めていない
RCMPは、ファリスさんの死に他者の関与を示す事情は見当たらないとしている。道路に出てきた動物を避けようとしてハンドルを切ったか、あるいは何らかの理由で車の制御を失って湖に入った可能性があるとみているが、これはあくまで警察の見立てであり、確認された経緯ではない。目撃者はおらず、転落した正確な日時も特定されていない。遺族は2020年に彼女を埋葬する予定だと伝えられた。
主な仮説
仮説1:道路に出てきた動物を避けようとした
RCMPが最初に挙げたのがこの見方である。ブリティッシュコロンビア州の山あいの道では、鹿やヘラジカが夜明けや夕暮れに道路へ出てくることが珍しくない。大型の動物と正面衝突すれば車の被害は甚大になるため、反射的にハンドルを切る運転者は多い。ただし、この仮説を裏づける物証は報じられていない。目撃者も、ブレーキ痕の記録も残っていないため、警察自身が「そうだったかもしれない」という水準で述べている。
仮説2:長距離運転による疲労や体調の変化
バンクーバー島からアルバータ州までは、フェリーの待ち時間と山越えを含めて16時間前後になる。単独で運転していれば、交代要員はいない。長時間の運転による集中力の低下や、運転中の体調の急な変化は、事故原因として一般に想定されるものではある。ただし、彼女がどの時間帯にどこまで走っていたのかは分かっておらず、これも推測の域を出ない。遺族自身、「道を外れたか、居眠りをしたか、何かを避けようとしたのだろうと考えていた」と話している。
仮説3:路面と視界の条件
この一帯は標高が高く、季節によっては路面の凍結や積雪、濃い霧が発生する。雨で路面が濡れているだけでも、山道ではわずかな操作で車の向きが変わる。転落した時期が特定されていない以上、路面状態がどうだったのかも確かめようがない。ただ、地元の道路事情を知る人ほど「特別な事情がなくても起こりうる」と考える理由にはなっている。
仮説4:道路と湖の距離が近すぎた
原因が何であれ、致命的だったのは道路から水面までの距離である。路肩から3メートルという位置関係では、車が道路を外れてから停まる余地がほとんどない。ガードレールや土手のような緩衝物が有効に働かなければ、数秒で水没に至る。しかも車体が逆さまになって沈んだため、外からは水面に何の痕跡も残らなかったと考えられる。事故そのものより、その後「何も残らなかった」ことが27年の空白を生んだという見方である。
海外の反応
1. 謎の名無しさん
湖や川に車ごと突っ込んだまま、行方不明の扱いで止まっている人ってどれくらいいるんだろう。届出は出ていても、水の中は最初から捜索の対象に入っていないことが多いと聞いたことがある。
2. 謎の名無しさん(>>1への返信)
友人が車ごと湖に入って亡くなったとき、捜索隊が先に見つけたのは1970年代に沈んだ別の女性の車だった。探せば出てくる、という事実のほうがつらかったのを覚えている。
3. 謎の名無しさん(>>1への返信)
検死局で働いていたことがある。うちの郡は毎年運河の水を抜くんだけど、そのたびに盗難車が何十台も出てくるし、中に人が乗ったままの車が混ざる年もあった。実際、それで行方不明事件が二件解決している。
4. 謎の名無しさん
個人向けの水中ドローンが3000ドルを切り始めているから、この手の発見はこれから確実に増えると思う。趣味で湖を撮っている人が第一発見者になる時代が、もう来ている。
5. 謎の名無しさん(>>4への返信)
泳げないので、水中ドローンが安くなるのをずっと待っていた。湖に持っていって探検できたら楽しいだろうな、としか考えていなかった。遺体を見つける可能性なんて一度も頭をよぎらなかったよ。
6. 謎の名無しさん
自分の町にも「昔、湖に小型機が落ちた」という噂が何十年もあった。数年前の干ばつで水位が下がったら、本当に尾翼が水面から突き出ていた。噂と同じ年数だけ行方不明だった二人が、機内にいた。
7. 謎の名無しさん
バンクーバー島からアルバータまでとなると、フェリーと休憩を入れて16時間近い行程になる。長距離、疲労、山道の天候。条件が悪いほうへ揃う余地はいくらでもある。少なくとも家族が答えを持てたのはよかった。
8. 謎の名無しさん(>>7への返信)
先月、24時間の運転を3日に分けて走ったけど、それでもかなりこたえた。70歳近い人が交代なしで走り切るには、正直きつい距離だと思う。
9. 謎の名無しさん(>>7への返信)
単純に路面の雪か凍結でスリップして、そのまま湖に入ってしまった可能性もあるんじゃないか。急なカーブじゃなくても、あの手の山道は一瞬で持っていかれる。
10. 謎の名無しさん
ここから車で1時間の場所なんだけど、夏になると本当にみんな泳ぎに来る湖なんだ。何人が彼女の真上を泳いでいたんだろうと考えると、しばらく言葉が出てこなかった。ご家族に答えが届いたのは心から良かったと思う。
11. 謎の名無しさん(>>10への返信)
自分でも気づかないうちに遺体のすぐ近くにいたことがあるんじゃないか、と夜中にふと考えることがある。今夜はまさにそれを考えて眠れなくなるやつだ。
12. 謎の名無しさん
水に沈んだ人工物が本当にだめで、写真も動画も直視できない。逆さまになった車が濁った水の底に置かれている状況を想像しただけで、手が冷たくなってくる。
13. 謎の名無しさん
13歳で一人で潜っていったのがすごい。自分は水の中に何があるか分からない状況がとにかく苦手で、これは悪夢そのものだ。何にせよ、ファリスさんのご家族が長い年月の末に答えを受け取れたのは本当によかった。
14. 謎の名無しさん
以前見た番組で、保安官が「自分も家族も絶対に湖では泳がない」と自分ルールを語っていた。理由は、これまでのキャリアで湖から引き上げられてきたものを全部見てきたから、だそうだ。
15. 謎の名無しさん
27年も水の中にあって、どうやって本人だと分かるんだろう。骨まで残るものなのか、それとも別の手段で特定したのか、そこがずっと引っかかっている。
16. 謎の名無しさん(>>15への返信)
エールフランス447便が墜落から2年後に大西洋の底で見つかったとき、回収チームは機内の状態を「蝋人形館のようだった」と表現していた。水温が低くて深いと、驚くほど保存されることがあるらしい。
17. 謎の名無しさん(>>15への返信)
ただ、今回は水深4.5メートルの浅い湖だから、そこまでの保存は望めないと思う。記事を読む限り、身元はナンバープレートの照会で先に絞り込まれている。骨から確定したというより、車から辿った形だ。
18. 謎の名無しさん
20年以上前にデラウェア州で似た話があった。アイスクリーム店を営んでいた男性が、10代の従業員と一緒にある夜から姿を消して、二人は駆け落ちしたと町中が思い込んでいた。25年後、道路脇の水の中から車が見つかった。
19. 謎の名無しさん(>>18への返信)
その話で一番きついのは残された奥さんだ。夫が若い従業員と逃げたと近所中に思われ、死亡認定が下りないから保険金も出ず、収入が絶たれて破産して家まで失った。車が見つかったときには、彼女はもう70歳近かったという。
20. 謎の名無しさん
元記事のコメント欄に「助けを呼ばずに撮影していた少年は非道だ」と書いている人がいて、さすがに読解力を疑った。事故が起きたのは少年が生まれるより前の話だぞ。
21. 謎の名無しさん
トランスカナダ・ハイウェイの路肩から3メートルという位置が引っかかる。当時、この湖は捜索の対象にならなかったんだろうか。それとも、彼女が通ったはずのルートが複数あって絞り込めなかったのか。
22. 謎の名無しさん(>>21への返信)
出発地から結婚式の会場まで14時間以上あって、その間に川や湖のそばを何度も通る。当時の人員で、通過しうる水辺を全部潜って確かめるのは現実的じゃなかったんだと思う。だからこそ、こういう発見が偶然に頼ることになる。
23. 謎の名無しさん
北カリフォルニアで、池に食料品の袋が浮いているのを通行人が見つけて、そこから夫婦が車ごと沈んでいるのが分かった事例を聞いたことがある。あれは行方不明になって数週間だったから、まだ早いほうだ。
24. 謎の名無しさん
埋葬が翌年になると書かれているけれど、どうしてそこまで時間がかかるんだろう。見つかったならすぐに引き渡されるものだと思っていた。
25. 謎の名無しさん(>>24への返信)
窓が割れていた場合、長い年月の間にご遺骨が湖底に散らばってしまうから、潜水班が回収するだけでかなりの時間がかかる。それに、通常の死亡でも遺体の正式な引き渡しには手続きの期間が要る。特殊な事案ならなおさらだと思う。
26. 謎の名無しさん
記事の内容とは関係ないんだけど、1992年が27年前という事実に一番動揺している。自分が生まれた年だ。感覚では、ついこの間のことなんだけどな。
27. 謎の名無しさん
孫娘さんの「最後の瞬間がどんなものだったのか、ずっと考えていた」という言葉が重い。事故だったと分かったことが、この状況では最良の結末になってしまう。そこがなんとも言えない。
28. 謎の名無しさん
この子が夏休み明けに「休みの間にしたこと」を作文で提出する場面を想像してしまった。27年前の行方不明事件を解決しました、で始まる作文はさすがに前例がないだろう。
29. 謎の名無しさん(>>28への返信)
読み上げられた先生の顔を見てみたい。しかも本人は誇張しているわけでもなく、映像も警察の記録も全部そろっているんだから、疑いようがない。
30. 謎の名無しさん
息子さんの「一番つらかったのは、分からないということだった」という一言に尽きると思う。答えが出たからといって悲しみが消えるわけじゃないけれど、悲しむ場所が決まるというのは、たぶん全然違う。
未解決の謎
この事案で解決したのは「どこにあったか」だけである。ジャネット・ファリスさんの車が、なぜトランスカナダ・ハイウェイを外れてグリフィン湖に入ったのかは、いまも分かっていない。RCMPは事件性を認めていないが、それは「他者の関与を示す事情が見当たらない」という意味であって、原因が特定されたということではない。動物を避けたのか、疲労だったのか、路面の状態だったのか。目撃者がなく、転落の日時すら絞り込めていない以上、どの仮説も検証のしようがない。
もう一つ残るのが、なぜ27年間見つからなかったのかという問題だ。沈んでいたのは幹線道路の路肩から3メートル、水深4.5メートル、夏には人が泳ぎに来る湖である。当時どの範囲がどのように捜索されたのか、この湖が対象に入っていたのかどうかは公表されていない。バンクーバー島からアルバータまでの行程は16時間前後に及び、その間に無数の水辺を通過する。捜索の網が広すぎて、結果的にどこも掬えなかったということなのかもしれない。
そして、車が逆さまで沈んでいたという事実も引っかかる。道路から数メートルの距離で車が水に入ったなら、当時、何らかの痕跡が路肩に残っていた可能性はある。それが記録されなかったのか、記録されても結びつかなかったのか。27年という時間は、その答えを確かめる手段も一緒に持っていってしまった。
結局のところ、この湖の底を最初に覗いたのは、事故から7年後に生まれた13歳の少年だった。彼がした「湖の中に何かある」という報告は、それ自体は特別な推理でも捜査でもない。ただ、水の下は誰かがわざわざ見ない限り、何十年でもそのままだということを、この事案は身も蓋もない形で示している。同じように、いま誰の目にも触れていない場所が、どこかにいくつも残っているはずだ。


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