「それがラメだと知られたくないから、言えないんです」——2018年12月、アメリカの新聞がラメ(グリッター)の製造工場を訪ねた長編記事の中に、そんなやり取りが載っていた。記者が「御社の最大の取引先はどの業界ですか」と尋ねたところ、担当者は迷いもせず「それは絶対に言えません」と答えたと報じられている。しかも念を押すように、「見ても、それがラメだとは分からないはずです」とまで付け加えたという。
人を殺した犯人がいるわけでも、誰かが消えたわけでもない。それでも、この一問一答は掲示板の住人たちを7年以上にわたって捕まえたままになっている。世界で最も多くのラメを買っている業界は、なぜ名乗り出ないのか。
事件の概要
🗓️ 報じられた日:2018年12月21日
🌫️ 場所:アメリカ・ニュージャージー州にあるラメ製造大手グリッテレックス社の工場
👤 関係者:工場を取材した記者と、案内役を務めた同社の担当者
🔍 状況:最大の取引先の業界名を尋ねた記者に、担当者は即座に「言えない」と回答。理由は「その業界がラメだと知られたくないから」だと説明されたと報じられている
🕯️ 現在:記事の公開から7年以上が経つが、業界名は明かされていない
ラメは、ポリエステルの薄い膜にアルミなどの金属を蒸着し、それを四角や六角に細かく刻んで作られる。粒の大きさは0.05ミリ程度から6ミリ程度まで幅があり、色と形の組み合わせだけで市販品が何千種類も存在する。要するに、工場から見れば「金属をまとった極小のプラスチック片」を大量生産する仕事である。
この記事が話題を呼んだのは、ラメという間の抜けた素材と、担当者の口の堅さが釣り合っていなかったからだ。記者は「記事に載せないから」と食い下がり、「公開後でいいから」とも頼み、最後には「知らないまま死にたくない」とまで言ったが、担当者は最後まで口を割らず、話題を自動車用の顔料※へ移して取材を先へ進めたという。
※ 自動車用の顔料:車のメタリック塗装に使う微細な金属の薄片など。一般的なラメがプラスチックの膜を土台にするのに対し、こちらはアルミそのものを細かく砕いたものが多い。
判明している事実
「言えない」は即答だった
記者が業界名を尋ねたとき、担当者は考え込むこともなく「それは絶対に言えないと分かっています」と答えたと記事は伝えている。知らないのではなく、知ったうえで言わない。この線引きがはっきりしていた点が、読者の想像をかき立てることになった。
見てもラメだとは分からない
「もし私がそれを見たとして、ラメだとは気づかない?」という問いに、担当者は「ええ、まず気づかないと思います」と答えたと報じられている。ただし「何かが見えることは見える」とも付け加えたという。光らせるために買っているのではないらしい、という一点だけが確かな手がかりとして残った。
最低ロットは約4.5キロ
記事によれば、同社が受ける最小の注文は10ポンド(約4.5キロ)で、同社の見立てではマニキュア50万本分に相当する量だという。日用品に混ぜる用途なら、この最小単位でも供給過剰になる。最大の取引先はその桁をはるかに超える量を買っていることになる。
案内された先は自動車用の顔料
記者がなおも食い下がったあと、担当者は自動車用の顔料が置かれた場所へ記者を導いたと記事にはある。これを「遠回しな答え」と読むか、「話を切り上げるための一手」と読むかで、その後の推理は真っ二つに割れた。
ラメは鑑識の証拠になる
市販のラメは色・形・層構成の組み合わせが膨大で、現場から採取した粒と容疑者の衣服に付いた粒が一致すれば強い証拠になる、という話は以前から知られている。千種類を超える標本を集めている法科学の研究者がいることも紹介されており、ラメは「消えにくく、区別しやすい」素材として扱われている。
主な仮説
仮説1:軍事・防衛の用途に使われている
最も勢いのある推測がこれだった。レーダー波をかわすために航空機がまき散らすチャフ※は、金属を蒸着した薄膜を細かく刻んだもので、素材としての考え方はラメとほとんど変わらない。空にまいて捨てる以上、消費量は他の用途と比べものにならない。ステルス機のレーダー吸収塗料に、樹脂と混ぜた微細な金属を使うという説も繰り返し挙がった。秘密にしたがる理由がはっきりしている点は強いが、「知られたら困る」という担当者の言い方とは少しずれる、という反論も根強い。
※ チャフ:航空機がミサイルやレーダーの照準をそらすために放出する、金属を蒸着した細い箔の束。レーダー画面上に偽の反射を大量に作り出す。
仮説2:毎日使う日用品に混ぜられている
歯磨き粉、シャンプー、ボディソープ、化粧品といった線である。歯磨き粉には研磨のために酸化アルミニウムや酸化チタンといった細かい粒が入っており、「見えるがラメには見えない」という条件には合う。過去に洗い流す製品へ微細なプラスチックを入れていたことが問題視された業界でもあるため、原料を明かしたくない動機も想像しやすい。一方で、化粧品のきらめきは真珠光沢顔料※によるもので、ラメとは別物だという指摘も出ている。
※ 真珠光沢顔料:雲母などの鉱物に薄い酸化被膜をかけ、光の干渉で真珠のようなつやを出す顔料。プラスチックを土台にするラメとは製法も原料も異なる。
仮説3:偽造防止や追跡のために混ぜられている
紙幣や証書、あるいは爆薬に混ぜるマイクロタガント※のような用途を挙げる声も多かった。粒の層構成を製造元ごとに変えておけば、顕微鏡ひとつで出所とロットが分かる。特徴を公表した瞬間に模倣されてしまうため、絶対に喋れない類の秘密になる——という理屈は通りが良い。ただし追跡用の微粒子そのものは以前から一般向けの番組でも紹介されており、そこまで固く口を閉ざす理由になるのかは意見が分かれている。
※ マイクロタガント:製品や爆薬に少量混ぜておく多層構造の微粒子。層の色の並びが識別番号の役割を果たし、事故や事件のあとで出所をたどれるようにする。
仮説4:そもそも意外性のない工業用途である
最も地味で、最も否定しにくいのがこれだ。欧州のラメ製造会社は自社サイトで、アルミ系のラメの主な用途は樹脂を着色するマスターバッチ※の製造だと説明しており、掃除機やコーヒーメーカーの外装、壁紙や塗り壁、電車やバスの床の滑り止め、非常口の表示などが例に挙げられている。自動車や船舶の塗装、釣り具のルアーや疑似餌も昔からの大口だ。取引先の名前を伏せるのは製造業では珍しくもなく、こちらが勝手に膨らませているだけ、という見方である。ただしこの説では「ラメだと知られたくない」という一言が宙に浮いたままになる。
※ マスターバッチ:色や機能を持たせる成分を樹脂に高い濃度で練り込んだ粒。成形するときに素の樹脂へ少量混ぜて使う、着色の元になる材料。
海外の反応
1. 謎の名無しさん
これ、読んだ日から頭の片隅にずっと居座っている。答えを知らないまま一生を終えるのかと思うと妙に落ち着かない。誰か内部の人が定年退職してから喋ってくれないだろうか。
2. 謎の名無しさん(>>1への返信)
イラクでの作戦のとき、米軍が相手側の電子機器を狂わせる目的で金属の薄片を上空から散布していたという話を聞いたことがある。あれに近い素材なら、防衛関連はトン単位で買うだろうし、公にしたくないのも分かる。
3. 謎の名無しさん
ステルス機のレーダー吸収塗料ではないかと思っている。電波を跳ね返さずに吸わせるには、細かく砕いた金属を樹脂に混ぜるのがちょうどいいらしい。塗膜が厚い分、化粧品などとは桁違いの量を食うはずだ。
4. 謎の名無しさん
「見ても、それがラメだとは分からない」の一文だけが本当に引っかかる。光らせるために買っているのではない、と言っているようなものだから、用途がまるで想像できない。
5. 謎の名無しさん(>>4への返信)
だってラメはキラキラするから使うものでしょう。キラキラして見えないラメを大量に買う会社って、もう字面からして矛盾している。
6. 謎の名無しさん
粉と言っていいくらい細かく砕いてあるから、ラメの形として認識できないだけではないかな。それでも光の反射の仕方は残る。「何かが見えることは見える」という言い方は、それで説明がつく。
7. 謎の名無しさん
葬儀の仕事を長くやっているが、少なくともうちの業界は買っていない。棺に自動車のようなラメ入りの塗装を使うことはあるものの、あれは塗料メーカーが混ぜているもので、うちが樽で仕入れるものではない。
8. 謎の名無しさん(>>7への返信)
残る大口といったら防腐処理の薬剤くらいだが、あれにラメが入っていたらさすがに話題になっている。というか、自分が死んだあとに体の中がキラキラなのは勘弁してほしい。
9. 謎の名無しさん
自動車業界説を推す人が多いけれど、車の塗料が光るのは誰でも知っていることで、隠す必要がどこにもない。記事の書きぶりだと、聞いた人が驚くような相手のはずなんだよな。
10. 謎の名無しさん(>>9への返信)
しかも担当者は、その話を打ち切るように自動車用の顔料が並ぶ場所へ記者を案内している。答えを示したのではなく、話題を移すための一手だったようにも読める。
11. 謎の名無しさん
塗装の仕事をしているが、車のメタリックの粒はプラスチックのラメではなくアルミの薄片で、業界的には別物として扱う。だから自動車が最大の買い手というのは、少なくとも工場の人の言い方とは噛み合わない。
12. 謎の名無しさん
軍がまくチャフだと思う。秘密にしたがるし、見た目はラメそのものではないし、「何かは見える」という条件も満たしている。花火の業界も量は使いそうだが、あちらは隠す理由がない。
13. 謎の名無しさん(>>12への返信)
実際、レーダーを誤魔化すために空へ放出する箔は、素材の考え方としてラメとほとんど同じらしい。まいて捨ててしまう以上、消費量は他の用途と比べものにならないはずだ。
14. 謎の名無しさん
個人的には軍が使っていても腹は立たない。担当者が言葉を濁したのは、知られたら苦情が来る相手だからだと思う。だとすると、多くの人が毎日手に取る製品の側だという気がしてくる。
15. 謎の名無しさん
欧州のラメ製造会社が自社サイトで用途を説明していて、アルミ系のラメは樹脂を着色する原料として工業向けに一番多く使われる、と書いてあった。掃除機やコーヒーメーカーの外装が、その手の樹脂でできているらしい。
16. 謎の名無しさん(>>15への返信)
同じページに、壁紙や内装の塗り壁、電車やバスの床の滑り止め、非常口の表示にも使うと書いてあった。言われてみれば、駅の階段の滑り止めはやたらと光っている。
17. 謎の名無しさん
工業用の樹脂に混ぜるのが主な用途だという説明も見かけるが、それだと「ラメだと知られたくない」の説明がつかない。掃除機の外装にラメが入っていると聞いても誰も怒らないし、隠すほどの話でもない。
18. 謎の名無しさん
爆薬に混ぜる追跡用の微粒子だと思っている。多層構造の粒を入れておけば、爆発したあとでも顕微鏡で製造元とロットを特定できる。扱う側からすれば、広まってほしい情報ではないだろう。
19. 謎の名無しさん(>>18への返信)
その手の追跡用の微粒子は、鑑識を扱うテレビ番組で十年以上前に紹介されていた記憶がある。存在自体は公開されているので、あそこまで固く口を閉ざす理由になるかは微妙なところだ。
20. 謎の名無しさん
真っ先に思い浮かんだのは紙幣。財布から出して光にかざすと、思っていたよりずっとギラギラしている。国が相手なら量も桁違いだし、口止めされる理由としてもいちばん自然に思える。
21. 謎の名無しさん(>>20への返信)
偽造かどうかを見分けるために、製造元にしか作れない粒を混ぜてあるという話なら筋は通る。特徴を公表した瞬間に真似されるので、絶対に喋れない類の秘密になるはずだ。
22. 謎の名無しさん
歯磨き粉に一票入れておく。手元のチューブの成分表を見たら酸化アルミニウムと酸化チタンが入っていた。研磨のために細かい粒が要るのは事実だし、「見えるがラメには見えない」という条件にも合っている。
23. 謎の名無しさん(>>22への返信)
昔、歯磨き粉に入っていた青い粒がプラスチックだったと分かって騒ぎになった件があった。あれで懲りているなら、原料がラメだと知られたくないという話は腑に落ちる。
24. 謎の名無しさん
シャンプーやボディソープの、あの不自然なつやも怪しいと思っている。洗い流すものに細かいプラスチックを入れていた前歴がある業界だし、売れている量から考えても候補としては強い。
25. 謎の名無しさん(>>24への返信)
あのつやはたいてい雲母を細かく砕いたものだと思う。原料としては鉱物なので、同じきらめきでもラメとは呼ばないのではないかな。
26. 謎の名無しさん
釣り具ではないかと言われて妙に納得した。鱒や鮭を狙う餌はどれもキラキラしていて、あれは魚に見せるための光だから用途としては正しい。工場の古いサイトにも、用途を紹介する写真にルアーが並んでいた。
27. 謎の名無しさん
逆方向の話になるが、ラメは鑑識の証拠として優秀らしい。市販品だけで何千種類もあって、粒の形と層の並びが指紋のように使える。集めて標本にしている研究者がいるというのも面白い。
28. 謎の名無しさん
用途より、それだけの量が最終的にどこへ行くのかが気になってしまう。ラメの多くはポリエステルの薄い膜に金属を蒸着して刻んだもので、洗い流されればそのまま細かいプラスチックの粒として残るわけで。
29. 謎の名無しさん
正直、正解はかなり退屈な工業用途だと思っている。取引先の名前を出さないのは製造業では当たり前のことで、大した秘密でもないのに、こちらが勝手に膨らませているだけという可能性は高い。
30. 謎の名無しさん(>>29への返信)
それでも「まず当てられませんよ」と笑ったところが最後まで引っかかる。ただの守秘義務なら、あんなに楽しそうな断り方にはならない気がするんだ。
未解決の謎
この話が7年以上も生き延びているのは、手がかりが少ないからではなく、条件が絶妙に噛み合わないからだろう。「大量に買っている」「見てもラメだと分からない」「知られたくない」。この三つを同時に満たす業界を探そうとすると、候補はいくらでも出てくるのに、どれもどこか一つを取りこぼす。軍事なら量と秘密は説明できるが、あの言い回しは苦情を恐れる口ぶりに近い。日用品なら苦情は説明できるが、今度は「見ても分からない」が引っかかる。
そもそも、担当者が守っていたのは取引先との守秘義務であって、社会に隠すべき何かがあると認めたわけではない。製造業で取引先を伏せるのはごく普通のことで、記者の粘りに対して軽い調子で受け答えしただけ、と読むこともできる。掲示板でいちばん冷めた意見が、いちばん筋が通っているという居心地の悪さがここにある。
もう一つ、推理とは別に残った論点がある。ラメの多くはポリエステルの膜に金属を蒸着して刻んだもの、つまりマイクロプラスチック※そのものだという指摘だ。最大の買い手が何であれ、その業界は年に何トンという単位で極小のプラスチック片を製品に流し込んでいることになる。用途の当てっこが盛り上がるほど、行き先の話が置き去りになる——そこを気にする声も、当時からずっと混じっていた。
※ マイクロプラスチック:一般に5ミリ以下の微細なプラスチック片。回収が難しく、環境中に残りやすいことが指摘されている。
結局のところ、答えを知っているのは工場の中の人だけである。名前を挙げられた業界はどこも「うちではない」と否定できる立場にあり、否定しない限り疑いは残り続ける。世界でいちばんラメを買っている誰かは、いまも黙ったまま次の注文書を送っているのだろう。
出典:r/UnresolvedMysteries 元スレ / The New York Times(2018年12月21日)


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