2004年12月25日、クリスマスの朝。米ノースカロライナ州ハイポイントの住宅街で、娘さん一家が母親を迎えに車を走らせていた。この日は家族でクリスマスを過ごす予定だった。玄関を何度叩いても応答がない。持っていた合鍵でドアを開けると、家の中は暗く、静まり返っていた。寝室の床で見つかったのは、69歳のリーナ・ホイールスさんだった。台所にあった彼女自身の包丁で、36回刺されていた。
前の晩、リーナさんは翌日の集まりのためにデビルドエッグ※を作っていた。最後に生きている姿が確認されたのは、その手を動かしていた24日の21時半ごろである。こじ開けられた跡はどこにもなく、家から消えていたのはビデオデッキ2台だけだった。事件は20年以上経った今も解決していない。
※ デビルドエッグ:ゆで卵を半分に切り、取り出した黄身をマヨネーズやマスタードと混ぜて白身に詰め直す、米国の家庭料理の定番。クリスマスや感謝祭の集まりで前菜として並ぶ定番中の定番で、前日に作り置きしておくことが多い。
事件の概要
🗓️ 発生日:2004年12月24日 21時半以降〜25日午前(推定)
🌫️ 場所:米ノースカロライナ州ハイポイント市の住宅街、平屋の一戸建て
👤 被害者:リーナ・ホイールスさん(当時69歳・退職者・一人暮らし)
🔍 状況:自宅寝室で刺殺体として発見。凶器は台所にあった被害者自身の大型包丁。こじ開けられた形跡はなく、台所につながる裏口が施錠されていなかった
🕯️ 発見/結末:12月25日午前11時半ごろ、迎えに来た娘さん一家が合鍵で入って発見。2024年時点で捜査は「休眠」扱い、未解決
ハイポイント※は、ノースカロライナ州のほぼ中央にある人口10万人ほどの町だ。派手な観光地ではなく、家具の生産と見本市で全米に名前が知られてきた、いわゆる産業の町である。事件が起きたのは、そうした町のごく普通の住宅街にある平屋だった。
※ ハイポイント:ノースカロライナ州ギルフォード郡の都市。19世紀末から家具製造が集積し、「世界の家具の首都」を名乗る。年2回の国際家具見本市には世界中からバイヤーが集まる。
リーナさんは2002年に夫を亡くしてから、2年間ひとりで暮らしていた。近所の人は彼女を「人を信じるたち」と評した一方で、夫の死後は見知らぬ相手に対してかなり慎重になっていたとも証言している。実際、近所で見慣れない人物や戸別訪問の販売員を見かけると、彼女のほうから近隣に知らせることが何度もあったという。家族も近所の人も、「彼女が夜に、知らない相手のためにドアを開けることは考えられない」という点で一致していた。
判明している事実
こじ開けられた跡はなく、裏口だけが開いていた
警察は玄関にも窓にも、こじ開けたり壊したりした形跡を確認できなかった。ただし、台所へ直接つながる裏口が施錠されていない状態で見つかっている。彼女自身が誰かを通したのか、単に閉め忘れていたのか、それとも犯人が出て行ったあとの状態なのか。この一点が、20年間ずっと解釈の分かれ目になっている。
凶器は被害者の家にあった包丁
遺体のそばに残されていたのは、リーナさん自身の台所にあった大型の包丁だった。つまり犯人は刃物を持たずにこの家に入っている。検死の結果、刺された回数は36回とされた。捜査当局が公表しているのはこの数字までで、それ以上の詳細は明らかにされていない。
持ち去られたのはビデオデッキ2台だけ
家から失われたと確認されたのは、ビデオデッキ※2台のみだった。現金や貴金属が奪われた形跡は報じられていない。2004年という年は、DVDプレーヤーがすでに各家庭に行き渡り、ビデオデッキが型落ち品になりかけていた時期にあたる。中古2台を売り払っても、当時の相場では数十ドルにしかならなかったはずだ。
※ ビデオデッキ(VCR):ビデオテープの再生・録画機。2004年当時、新品でも80ドル前後まで値下がりし、DVDへの置き換えが急速に進んでいた。大きく重いうえに中古価格も安く、盗品として運ぶには割の合わない家電になりつつあった。
最後の目撃は前夜21時半
24日の21時半ごろ、17歳の継孫娘がクリスマスのプレゼントを届けに立ち寄っている。二人は贈り物を交換して短く言葉を交わし、その間リーナさんは翌日の集まり用のデビルドエッグを台所で作っていた。継孫娘はまもなく帰宅している。生きているリーナさんが確認された最後の記録がこれで、発見までの空白はおよそ14時間ある。
DNAも指紋も「判定不能」
現場からはDNAと指紋が採取されたが、いずれも「判定不能(inconclusive)」と判断された。事件は少なくとも2度再捜査に付され、現代の検査技術も投入されたが、結論は変わっていない。近隣住民からの伝聞情報にもとづいて任意で事情を聴かれた人物もいたが、ポリグラフ検査は判定不能に終わり、まもなく釈放された。警察はこれまで、誰一人として容疑者として特定・公表していない。2024年時点で、この事件は「休眠(inactive)」に分類されている。
主な仮説
仮説1:強盗が目的だった説
施錠されていなかった裏口から誰かが入り込み、家の中でリーナさんと鉢合わせした——という、もっとも単純な筋書きである。凶器を持参していないこと、その場にあった包丁が使われたことは、この説と矛盾しない。行き当たりばったりの侵入者が、想定外の相手と正面から出くわしてパニックを起こしたのだとすれば、暴力が過剰になることはありうる。ただし、この説は「持ち去られたのがビデオデッキ2台だけ」という結果を説明しきれない。金目当てなら、もっと軽くて確実に換金できるものがあったはずだからだ。
仮説2:顔見知りによる犯行説
こじ開けた跡がないこと、夜に知らない相手のためにはドアを開けない人だったという複数の証言、そして刺し傷の数。この三つを重ねると、リーナさんが自分から家に入れた相手——つまり顔を知っている誰か——だったのではないか、という見方が出てくる。ここで言う「顔見知り」は近隣の住人から知人、出入りしていた業者まで幅広く、特定の誰かを指すものではない。遺族が特定の方向を疑っているとも報じられているが、その根拠は伝聞であり、捜査によって裏づけられたものではない。警察は今日まで、この事件で誰かを容疑者として公表していない。
仮説3:別の目的の犯行を強盗に見せかけた説
元スレでもっとも支持を集めたのがこれだった。ビデオデッキ2台は「盗むために盗まれた」のではなく、強盗の現場に見せるために持ち出された小道具にすぎない、という読み方である。この説を取ると、なぜよりによって高くも軽くもないものが選ばれたのかという不自然さは、逆に説明がついてしまう。手近にあって、持ち出したことがひと目で分かるものなら何でもよかったことになるからだ。一方で、では本当の動機は何だったのかという問いには、いまだに誰も答えを出せていない。
仮説4:戸別訪問など外部の第三者説
リーナさんが見慣れない人物や戸別訪問の販売員を近隣に知らせていたという事実から、この地域にそうした出入りが実際にあったことは分かる。同時期の米南部では、施錠されていない扉から入り込んだ訪問販売員が住人と鉢合わせして殺害に至った事件も起きている。ただしこの説には弱点があり、犯行が夜間から未明にかけて起きたと考えられる点と噛み合わない。「日中に下見をして夜に戻ってきた」という一段階を足さないと、この筋書きは成立しない。
海外の反応
1. 謎の名無しさん
ビデオデッキ2台のために30回以上刺すのか、と何度も読み返してしまった。あの頃うちも録画機を買った記憶があるけど、新品で80ドルくらいだった。みんなDVDプレーヤーに移っていた時期で、中古2台なんて質屋に持ち込んでも100ドルにならないと思う。
2. 謎の名無しさん(>>1への返信)
持ち去られたものと暴力の量がまったく釣り合っていない。もともと面識があって感情がこじれていたのか、家の中に思ったほど金目のものがなくて逆上したのか。あるいは薬物や精神状態の問題か。どれにしても「強盗のついで」では説明がつかない量だと思う。
3. 謎の名無しさん(>>1への返信)
そのクリスマス、当時20歳で、付き合っていた相手に初めてのDVDプレーヤーを贈った年だったからよく覚えている。もうみんなビデオデッキから離れ始めていた。あんなもののために人生を終わらせられたのだとしたら、あまりにひどい。
4. 謎の名無しさん
ビデオデッキ2台という選択がとにかく引っかかる。当時すでに高く売れるものではないし、あの大きさと重さを2台抱えて夜道を歩けば目立つ。金目当てなら他にいくらでも軽くて確実なものがあったはずで、なぜそれを持って出たのかがどうしても分からない。
5. 謎の名無しさん
以前まとめた別の事件では、持ち去られたのが「アンティークの銀の写真立て」だけだった。犯人が価値のあるものだと思い込んで盗ったのか——ああいう額は金属としての値打ちしかないことがほとんどなのに——それとも動機を隠すために何か持ち出したのか。今回のビデオデッキも同じ匂いがする。
6. 謎の名無しさん(>>5への返信)
自分も後者だと思う。殺害そのものはビデオデッキとは無関係で、強盗に見せかけるために手近な家電を2台だけ持って出た。そう考えれば、なぜ高くも軽くもないものが選ばれたのかは説明がつく。逆に金目当てだとすると、選び方が下手すぎる。
7. 謎の名無しさん
凶器が被害者の家の台所の包丁だったというのが重い。ちょうど翌日の料理を作っている最中で、その包丁がそのまま使われた可能性もあるし、身を守ろうとして手に取ったものを奪われたのかもしれない。どちらにしても、犯人は刃物を持たずにあの家に入っている。
8. 謎の名無しさん
凶器を持参していないという点は、犯行が最初から計画されたものではなかった可能性を示していると思う。殺すつもりで来たなら自分の道具を持ってくるはずで、その場にあったものが使われたのなら、その場で何かが起きたということになる。
9. 謎の名無しさん(>>8への返信)
刺し傷の数がそのまま怨恨の深さを表すとは限らない、という話も読んだことがある。パニック状態や薬物の影響、抵抗が続いた場合にも数は増えるらしい。数字の大きさだけで「顔見知りの犯行だ」と決めつけるのは危ないと思う。
10. 謎の名無しさん
個人的にいちばん引っかかるのは、こじ開けた跡がないのに裏口だけが施錠されていなかった、という一点。彼女が自分で開けたのか、単に閉め忘れていたのか、犯人が出て行ったあとの状態なのか。どれを取るかで犯人像が丸ごと変わってしまう。
11. 謎の名無しさん
台所で料理をしていたのなら、ゴミを出したり換気したりで勝手口を使っていてもおかしくない。夜に知らない人を家に入れないタイプの人でも、勝手口の鍵は意識から抜けがちだと思う。うちの祖母もまったく同じで、玄関だけは厳重だった。
12. 謎の名無しさん(>>11への返信)
それはあると思う。ただ翌朝は玄関を何度叩いても応答がなくて、娘さんが合鍵で入っている。犯人がどこから入ってどこから出たのか、結局どちらも確定していないのが厄介なところだ。
13. 謎の名無しさん
同じ頃、東テネシーで高齢女性が殺された事件を思い出した。戸別訪問の販売員が鍵の開いていた扉からそのまま入り込んで盗みを働き、見つかって殺害した。犯人はすぐ捕まったから同一人物ではないけれど、その販売会社は出所したばかりの男性を全国から集めてバスで各地に送り込んでいた。似た経路の人間が近くにいた可能性は、どうしても考えてしまう。
14. 謎の名無しさん
近所で見慣れない人や戸別訪問の販売員を見かけると、彼女のほうから近隣に連絡していたという点が引っかかる。夫を亡くしてから用心深くなっていた人が、それでも被害に遭っている。警戒していた側だったからこそ、その警戒をすり抜けた誰かがいたということになる。
15. 謎の名無しさん(>>14への返信)
ただ、家族も近所の人も「夜に知らない相手のためにドアを開ける人ではない」と口を揃えている。訪問販売説だと、その一番肝心なところが説明できないままになる。日中に下見をして夜に戻った、という筋を足さないと成立しない。
16. 謎の名無しさん
DNAも指紋も「判定不能」で片づいているのが本当に気になる。採取の仕方が適切でなかったのか、複数人のものが混ざって切り分けられないのか、それとも汚染か。これだけのことをして痕跡をまったく残さないというのは、不可能ではないにしても考えにくい。
17. 謎の名無しさん
2004年当時の採取基準と、いまの微量試料の解析はまったく別物だと思ったほうがいい。ただ「判定不能」の中身はたいてい、量が足りないか、混合試料で誰のものか分離できないかのどちらかだ。後者は再検査をしても簡単には解けない。
18. 謎の名無しさん(>>17への返信)
家族が日常的に出入りしている家だと、そもそも誰のDNAが出ても不自然ではないのが厄介なところ。台所や寝室から知り合いの痕跡が出てきても、それ自体は何も証明しない。だから決め手にならない、という結論になりやすい。
19. 謎の名無しさん
死亡推定時刻の幅がどれくらいだったのかが気になる。最後に元気な姿が確認されたのが前夜の21時半で、発見が翌日の11時半。単純に14時間の空白がある。この幅の広さだけで、関係者のアリバイを詰めるのは相当難しくなったはずだ。
20. 謎の名無しさん
作りかけだったというデビルドエッグが、完成して冷蔵庫にしまわれていたのかどうかが知りたい。もし作業が途中で止まったままだったなら、時間帯はかなり絞り込めたはず。公開されている記事からは、そこが読み取れないのがもどかしい。
21. 謎の名無しさん
クリスマスの朝に母親を迎えに行って、そこで見つけることになるというのが想像を絶する。自分だったらもう二度とこの季節をまともに過ごせないと思う。20年経っても毎年その日が巡ってくるというのは、どれほどのことなのか。
22. 謎の名無しさん(>>21への返信)
調べていて心底ほっとしたのは、子どもたちが車の中で待っていたと分かったこと。ただ、家を出るときにいちばん下の子が「ねえ、おばあちゃんを忘れてるよ」と言ったそうで、娘さんはその場で説明しなければならなかった。読んでいて言葉が出なかった。
23. 謎の名無しさん
写真を見ると余計に胸が詰まる。前の晩に贈り物のやりとりをして、普通に話をして、翌朝にはもういない。その時間の近さが一番こたえる。24日の夜の時点では、翌日の集まりを楽しみにしていたはずなのに。
24. 謎の名無しさん
遺族が特定の方向を疑う気持ちは分かるけれど、伝聞だけで犯人を決めてしまうのはやはり危ないと思う。ポリグラフの「判定不能」は白でも黒でもなく、ただ何も分からなかったというだけだ。ここを黒寄りに読む人が多すぎる気がする。
25. 謎の名無しさん(>>24への返信)
言いたいことは分かる。ただ、任意で話を聞かれる対象になった以上、警察の側にもそれなりの理由はあったはずだ。それが判定不能で終わって、その後20年動かないというのが、遺族にとっては一番きついところだと思う。
26. 謎の名無しさん
公開されている情報だけで判断できないことは多い。確認できるアリバイがあったのかもしれないし、別の場所の防犯映像に映っていたのかもしれない。警察が誰一人として容疑者の名前を出していないこと自体、捜査で除外された人がいるという意味かもしれない。
27. 謎の名無しさん(>>26への返信)
そこは同意する。ただ遺族の側からすると、「調べた結果シロだった」のか「調べきれなかった」のかが説明されないまま20年経っている。その説明がないから、噂だけが家族の中で固まっていってしまう。
28. 謎の名無しさん
高齢の方が狙われる事件は本当にやりきれない。しかも一人暮らしで、家の中で、いちばん安心しているはずの場所でだ。そして発見したのが実の娘さんだというのが救いようがない。それもクリスマスの朝に。
29. 謎の名無しさん(>>28への返信)
読んでいて苦しくなる話だった。新しい技術でも、当時黙っていた誰かの一言でもいいから、この家族に区切りがつく日が来てほしい。まとめてくれた人に感謝します。読まれること自体が、事件を生かしておくことになると思う。
30. 謎の名無しさん
米国では殺人に時効がないから、書類が閉じられることはない。「休眠」というのは担当官が動いていないというだけで、事件が消えたわけではない。当時20代だった誰かが、20年経ってようやく話す気になるということは実際に起きている。
未解決の謎
この事件が20年動かない理由は、はっきりしている。物証が残っていないのではなく、残っていた物証が誰も指し示さなかったからだ。DNAも指紋も採取されたうえで「判定不能」と結論づけられ、再捜査でも現代の検査技術でも結果は変わらなかった。捜査を進めるための入口が、最初から塞がっている。
もうひとつの壁が、14時間という空白である。生きているリーナさんが最後に確認されたのは24日の21時半、発見は翌日の11時半。この幅の中では、誰のアリバイも実質的に意味を持たない。作りかけだったデビルドエッグが仕上がっていたのかどうか——コメント欄でも指摘されていたこの一点が分かれば時刻はかなり絞れたはずだが、公表された情報からは読み取れない。
そして最後まで残るのが、ビデオデッキ2台という違和感だ。2004年の時点で、それは持ち出す価値の乏しい、大きくて重い家電だった。強盗が目的だったと考えるには選択が不合理すぎ、かといって偽装だったと考えるなら、本当の動機は何ひとつ分かっていないままになる。こじ開けられていない玄関、施錠されていない裏口、家にあった包丁。そのすべてが「この家をよく知る誰か」を示唆しているようでいて、誰も特定できていない。
米国では殺人事件に公訴時効※がない。捜査が「休眠」に分類されても、記録が破棄されることはなく、新しい証言が出れば再開されうる。事件当時この町に住んでいた人はまだ多く生きている。前の晩、翌日の集まりのために卵を茹でていた69歳の女性を誰が殺したのかは、その誰かの記憶の中にまだ残っているのかもしれない。
※ 公訴時効:一定期間が経過すると起訴できなくなる制度。日本では2010年の法改正で殺人罪の公訴時効が撤廃されたが、米国の多くの州ではもともと殺人に時効が設けられておらず、何十年前の事件でも証拠が揃えば起訴できる。


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