母が聖書教室に出かけたわずか2時間の間に、13歳の弟と15歳の姉が忽然と消えた。アイダホ州の小さな町で2025年6月22日に起きたこの兄妹の失踪は、ただの家出ではない。背景には、終身刑で服役中のカルト指導者ウォーレン・ジェフスが獄中から発した「子供たちを集めよ」という不気味な”啓示”と、母親が脱会したはずの宗派「FLDS※」の影がちらつく。
※ FLDS(Fundamentalist Church of Jesus Christ of Latter-day Saints、末日聖徒イエス・キリスト原理主義教会):米ユタ・アリゾナ州境を本拠とする宗教団体。19世紀後半に一夫多妻制を放棄した本家モルモン教会(LDS)から枝分かれした分派で、今も一夫多妻を続け、未成年と中年男性の「結婚」が国際的に問題視されてきた。本家LDS(モルモン教会)とは公式な関係はない。
長女エリントラがすでに3年前に「FLDSに戻る」と書き置きを残して失踪している。今回の兄妹は、その姉に連れ去られた可能性が高いとみられている。家族でも宗教でもない、もっと冷たい何かに吸い込まれていったような、後味の悪い事件である。
事件の概要
🗓️ 発生日:2025年6月22日(最終目撃 午後7時頃)
🌫️ 場所:米アイダホ州ジェファーソン郡モンテビュー(人口数百人の農村部)
👤 被害者:アレン・フィッシャー(当時13歳)/レイチェル・フィッシャー(当時15歳)の兄妹
🔍 状況:母エリザベスが家族の聖書教室に出席していた午後6〜8時の間に自宅から消失。母が午後9時に帰宅した時点で2人はいなかった
🕯️ 発見/結末:翌23日にアンバーアラート※発令。1年近く経過した現在も発見に至らず
※ アンバーアラート:米国で1996年に始まった子供誘拐の緊急速報システム。高速道路の電光掲示板や携帯電話に容疑車両のナンバーや人相が一斉配信される、最上位の捜索手配にあたる。
母エリザベスはかつてFLDSの信者だった。2014年に流産したことを「罪」とみなされて子供たちと引き離され、5年の「悔い改め」を経てようやく再会できたものの、子供を取り戻そうとした途端に「背教者」と烙印を押される。子供たちには「ママは悪い人」と吹き込まれた、と母は語る。2021年にアイダホで前夫から3人の親権を完全に勝ち取ってからは、宗派側からの執拗な接触をかわしながら暮らしてきた。そんな矢先の出来事だった。
判明している事実
姉エリントラの先行失踪
長女エリントラ(当時17歳)は2023年1月1日、母の車に「FLDSに戻る/使ったガソリン代は払う」というメモを残して姿を消した。車は途中で乗り捨てられており、誰かが彼女を拾って送り届けたとみられる。3年後の2026年5月、彼女がユタ州で運転免許を取得していたことが判明し、行方不明者データベースNCIC※から削除された。保安官事務所は今、エリントラから直接話を聞きたがっている。
※ NCIC(National Crime Information Center):FBIが運営する全米犯罪情報センター。失踪者・指名手配・盗難車両などのデータベースで、警察が照会する基幹システム。
グレーのホンダ・セダン
兄妹はユタ州ナンバーの灰色のホンダ・セダンに乗せられたとみられる。行き先は姉エリントラの自宅とみられるユタ州メンドン(人口約1,400人の小さな町)。ただしアイダホ州警察は後に「当該車両がアイダホに入った形跡はない」と発表しており、運搬には別の車両が使われた可能性も浮上している。
監視されていた1か月
母エリザベスは失踪の約1か月前から、自宅前や子供たちが通う「shop(ガレージ/作業場)」の前を、別居していた親族の車が何度も通過していたと証言している。彼女は「3人とも見張られていた」と語り、犯行側は機会を待っていたと考えている。
「子供たちを集めよ」啓示
事件の引き金とされるのが、終身刑で服役中のウォーレン・ジェフス※が2022年8月に発したとされる「啓示」。すべてのFLDSの子供は一度「死んで」、純粋な存在として2日半で復活し「ザイオン建設」を助ける——という終末論で、信者たちには「あらゆる手段を使って」子供を引き取れと命じたという。23日のアンバーアラートも、警察がこの啓示の存在を把握したことが発令の決め手になった。
※ ウォーレン・ジェフス:FLDSの元最高指導者「預言者」。2011年に12歳と15歳の少女との「結婚」を含む児童性的暴行罪で終身刑+20年を宣告され、テキサス州の刑務所で服役中。逮捕時、彼には24人の「未成年妻」がいたとされる。
アリゾナ州フレドニアの目撃情報
非営利団体ウバルデ財団に寄せられたタレコミによれば、兄妹は2024年に複数のFLDS関係者の子供が”移送”された実績のあるアリゾナ州フレドニア(ユタ州境のカナブから車で10分)に潜伏している可能性がある。地上捜索が行われたが、発見には至っていない。情報提供への懸賞金は5,000ドル。
主な仮説
仮説1:姉エリントラを介したFLDSへの”連れ戻し”
もっとも有力視されているシナリオ。2023年に先行して脱出した姉エリントラが、宗派の指示のもと弟妹を迎えに来た——あるいは別の信者が車を出し、エリントラの家を一時的な集積地として使った、という流れ。兄妹が事前に「shop」で動画を観ると母に告げて家を空けやすくしたタイミング、ユタ州ナンバーのホンダ、そしてエリントラへの事情聴取要請。これらは偶然にしては符号しすぎている。
仮説2:ウォーレン・ジェフスの”啓示”に従った組織的拉致
「子供たちを集めよ」というジェフスの獄中からのメッセージを文字通りに受け取った信者集団が、計画的に兄妹を回収したという見立て。母の自宅前を1か月にわたって観察していた車の存在は、衝動的な家出説では説明がつかない。終末論を信じる信者にとって兄妹を”取り戻す”ことは救済行為であり、躊躇は生じにくい。
仮説3:父ネファイ・フィッシャー側の引き取り
2021年の親権争いで敗れた父親が、別ルートで子供たちを”奪還”した可能性。母エリザベスは離婚後も再三にわたって親権変更の申し立てが続いていたと述べており、合法的手段で行き詰まった父親側が違法な手段に出たという読み筋も否定できない。ただし、姉エリントラの存在感が大きすぎてこの仮説は影が薄い。
仮説4:兄妹自身の意思による”出戻り”
母から離されていた5年間に「ママは悪い人」と教え込まれていたとされる兄妹が、本人たちの意思で旧コミュニティに戻ることを選んだ可能性。レイチェルが失踪当時もFLDS式の「プレーリードレス」※を着用していた点は、彼女が心理的にまだ脱会しきれていなかった示唆と受け取れる。ただし徒歩でも公共交通でも移動できない砂漠の真ん中の本拠地への移動には、必ず信者の協力が要る。
※ プレーリードレス:FLDSの女性が伝統的に着用する、首から足首までを覆う長袖ロングドレス。髪を編み込みにする習慣とセットで、FLDSコミュニティのドレスコードとして知られる。
海外の反応
1. 謎の名無しさん
FLDSがらみで行方不明になってる子供、本当に多いんだよね。バンの後部座席に乗せて夜中に移動させるのが常套手段で、元信者にはそういうタレコミがしょっちゅう入ってる。今回もまず間違いなくそのパターンだと思う。
2. 謎の名無しさん(>>1への返信)
同意。痛ましい話だけど、ある意味”ミステリー”ですらないんだよな。4年くらい前にユタ州アメリカンフォークから3兄弟が消えた件も、母親が脱会してたけど、結局2024年にアリゾナのフレドニアで生きてるのが見つかった。連れ戻しに加担した親族は逮捕された。これと同じ筋書きが何度繰り返されてるんだろう。
3. 謎の名無しさん(>>2への返信)
レイチェルが失踪当時もプレーリードレスを着てたっていうのが象徴的だよね。脱会して何年も経つのに、まだ精神的には脱構築できてなかったってことだと思う。
4. 謎の名無しさん
唯一の救いは、この子たちが生きてる可能性がかなり高いってことくらいだ。それ以外は何もかもが悪夢みたいな話だよ。
5. 謎の名無しさん(>>4への返信)
レイチェルに関して言うと、最近FLDSで婚姻禁止令が解除されたって噂が出てる。コンパウンドに移送されてる女性たちの一部は”妻”として連れて行かれてるっていうんだ。15歳の女の子に関してその可能性が浮上するの、本当に吐き気がする。
6. 謎の名無しさん(>>5への返信)
さらにややこしいのが、新しい”預言者”を自称してるサミュエル・ベイトマンって男。ジェフスはとっくに死んでて政府が隠してるとか言って、自分が”あの世のジェフスから啓示を受けてる”らしい。当然こいつも未成年の妻を複数取って今は刑務所行きだけど、Netflixでドキュメンタリーになってる。
7. 謎の名無しさん
というか、お母さん的にも「父親の車を1か月前から見かけた」って思ってた状況で、子供たちを家に残して聖書教室に行くって……正気か?聖書教室を自宅でやるか、子供を連れて行けばいい話だろ。
8. 謎の名無しさん(>>7への返信)
あるいはそもそも欠席するっていう選択肢もある。私の信じる神様は、子供が誘拐される危険があるのに聖書教室に来いとは言わないと思う。
9. 謎の名無しさん
すごくいい点だと思う一方で、お母さん自身も宗教的にはかなり保守的な人なんだろうな、っていうのは伝わってくる。FLDSから出たとはいえ、根っこの価値観まで切り替えるのはまた別の話なんだろう。
10. 謎の名無しさん
「2日半で復活する」って獄中のジェフスが言ってるらしいけど、これ要するに「イエス・キリストの復活速度を更新したい」って言ってるんだよな?神を出し抜きたい預言者って何なんだよ。
11. 謎の名無しさん(>>10への返信)
2023年にケニアで「自分はイエスの生まれ変わりだ」って主張した牧師がいて、信徒たちに「じゃあ聖金曜日に十字架にかけて証明してくれ」って言われて警察に駆け込んだ事件があった。こういう手合いはどこにでも湧くんだな……。
12. 謎の名無しさん
本筋じゃないけど、「フレドニア」って名前に二度見した。マルクス兄弟の映画『我輩はカモである』に出てくる架空の国の名前と同じだ。実在する地名だったとは。
13. 謎の名無しさん
この話、本当に胸が痛い。投稿してくれてありがとう。兄妹が無事に見つかって救出されてほしい。アンバーアラートが出てから1年近く経つのに、まだ何の進展もないのが歯がゆい。
14. 謎の名無しさん
FLDSを「教会」と呼ぶこと自体が誤解を招いてないか?「児童性売買ネットワーク」と呼ぶほうが実態に近いと思う。
15. 謎の名無しさん(>>14への返信)
正直、その呼び方を当てはめなきゃいけない宗教団体は他にもいくつかある気がするけどな……。
16. 謎の名無しさん
このフィッシャー兄妹って、自分の12歳の娘をウォーレン・ジェフスに”結婚相手”として差し出したウェイン・フィッシャーって男と血縁関係があったりするのかな。同じ姓だし気になる。
17. 謎の名無しさん(>>16への返信)
FLDSの家族は遠縁含めるとほぼ全員親戚みたいなものだよ。本家LDSが一夫多妻を放棄したときに従わなかった古いモルモン一族の子孫だから、姓が被るのは普通。閉じた血脈で代々続いてる構造そのものが歪んでる。
18. 謎の名無しさん
日本の感覚で読むと「お母さんが警察に通報してアンバーアラートも出てるのに、なんで1年も見つからないの?」って思うけど、米国の砂漠地帯の宗教コミュニティって本当に外界から隔絶されてて、令状なしに踏み込めない私有地が広大に広がってるから、隠されたら本当に出てこないんだよね。
19. 謎の名無しさん
ジェフスの「啓示」が2022年で、姉エリントラが消えたのが2023年1月。タイミングが綺麗に符号しすぎてて、これは絶対に組織的な動員だと思う。
20. 謎の名無しさん
個人的に一番引っかかるのが、「shopに動画を観に行く」って兄妹が母に告げてから消えてる点。普段からそういう行動パターンだったなら、犯行側は事前にリサーチしてた可能性が高い。1か月前から監視してたという母の証言とも整合する。
21. 謎の名無しさん
エリントラのくだりが一番気持ち悪い。17歳で「FLDSに戻る/ガソリン代は払う」ってメモ残して消えて、3年後にユタで運転免許取って公的に再登録される。NCICから外れたってことは少なくとも誰かの管理下で”生かされてる”ってことで、安全とは限らない。保安官が彼女と話したがってるのは「居場所を特定したい」じゃなくて「弟妹について何を知ってるか聞きたい」ってことだから、ほぼ確実に当事者として絡んでる。
22. 謎の名無しさん(>>21への返信)
ジェフスの「子供たちを集めよ」啓示と組み合わせると、これは家出じゃなくて”回収”なんだよ。エリントラはおそらく最初の駒で、フィッシャー姉弟を回収する道筋を作るために先に送り込まれた。そう考えると全部つじつまが合う。
23. 謎の名無しさん
長女がいる場所に2人もいるんだろうな、たぶん。少なくとも生きている可能性は高いけど、お母さんと再びまともに親子関係を築けるかというと、本人たちが教団を出るって決意するまでは厳しいだろうね。
24. 謎の名無しさん
日本のオウム真理教の地下信者集団とどこか似た構造を感じる。教祖が獄中から指示を出して、外の信者がそれを”啓示”として実行する。指導者を物理的に拘束しても信仰のネットワークは止められないってこと。
25. 謎の名無しさん(>>24への返信)
それはあるね。むしろ刑務所に入れたことで「殉教者」化して、新しい預言者(ベイトマン)まで派生してる。司法手続きだけで宗教カルトは解体できないってことの証拠みたいな事例だと思う。
26. 謎の名無しさん
モンテビューって町、人口数百人しかないんだよね。誰が誰の家を出入りしてるかなんて全部筒抜けの規模。それで1か月も監視されてて気づかれないってあるか?逆に「気づいてたけど止められなかった」が正解な気がする。
27. 謎の名無しさん
レイチェルが履いてた「黒のスリッポン(クロックスっぽいやつ)」って描写、すごく生々しい。15歳の女の子がそういう普段着で連れ去られて、いまもどこかで誰かに監視されてるかと思うとキツい。
28. 謎の名無しさん
こういう案件、日本では「DV避難先の親が再襲撃される」みたいなケースが近いかな。母が宗教コミュニティから物理的に逃げても、子供を介して引き戻される。逃げ切るって本当に大変なんだな……。
29. 謎の名無しさん(>>28への返信)
それに加えて、FLDSの場合は「子供たち本人が母を悪人と信じ込まされてる」っていう精神支配の層がある。物理的な距離だけじゃ解決しないし、子供を取り戻しても今度は子供のほうから戻ろうとする。これは本当に手強い。
30. 謎の名無しさん
1年経って一切の進展がないのが何より絶望的だ。砂漠の真ん中のコンパウンドに入られたら、米国の警察ですら手が出せない。せめてアレンが14歳になる前に、レイチェルが「妻」にされる前に、誰かが彼らを見つけてほしい。タレコミの懸賞5,000ドルはあまりに少ないよ。
未解決の謎
この事件のもっとも厄介な点は、「子供たちを連れ去った犯人がほぼ特定されているのに、それでも見つからない」ことにある。母エリザベスは犯人像をほぼ言い当てており、警察も姉エリントラに事情聴取をかけたがっている。アンバーアラートが出て、目撃情報も寄せられ、地上捜索も行われた。それでも兄妹はどこにいるのか分からない。これは「謎」というより、「米国西部の砂漠地帯に広がる閉鎖宗教コミュニティが、現代の捜査機関ですら踏み込めない構造的ブラックボックスになっている」という社会的事実そのものを突きつけてくる。
そして本当の謎は、兄妹自身の心の中にある。脱会した母と暮らしていたはずのレイチェルが、なぜ失踪時にもFLDSのプレーリードレスを着ていたのか。アレンが母の部屋のソファで寝るほど親密だったというのに、なぜ彼らは「shopで動画を観る」と告げて家を出る選択をしたのか。連れ去られたのか、それとも一度は自分の足で歩いて行ったのか。本人たちが今、自分の意思で帰らないと決めているのだとしたら、救出は誰の正義になるのか——。
2026年5月、姉エリントラは運転免許を取得し、NCICのリストから外れた。彼女が公の場に姿を表したことは、ある意味で一筋の光でもある。だが彼女は弟妹と話そうとせず、保安官の事情聴取にも応じていない。沈黙したまま社会の表層にだけ復帰した姉の影に、いまも2人の弟妹が隠されているとしたら——それは事件というより、まだ続いている長い「儀式」の途中なのかもしれない。

